ゲーミングチェア探偵

@Curver_0906

第1話

 猫山猫田はゲーム実況者である。好みのジャンルは、サンドボックス系と育成系。嫌いなジャンルはホラー、アクション。

 想定外の事にはめっぽう弱く、そのくせ、運がすこぶる悪い。よく言えば動画映えするようなハプニングに見舞われることが多いため、まったりするはずのゲームでさえ騒がしくなる。

 人気はそこそこ。そんな彼、ないし彼女は現在。


「ぎゃーっ。死ぬ死ぬ死ぬ。あ。」


 苦手な筈の、アクションを売りにしたホラーゲームで、通算百度目の死を迎えていた。まだ、序盤である。

 もう一度言う。まだ、序盤である。

 中ボスや難所などではなく、所謂、雑魚モブに殺され続けていた。


「だから言ったじゃん!だから言ったじゃん!!ホラゲ全般無理なの!猫山の負けでいいからもうやめていいか!?」


 そも、何故、猫山がこのゲームをするに至ったのか。それは、数分前に遡る。とはいえ、そこまで大仰な話ではなく、ただ対戦型パズルゲームで視聴者に負けたからである。得意げに「猫山が負けたらなんでも言うこと聞いてやるよ。まあ、そんなこと万に一つも起きないがなぁ。」と煽ったのが原因である。馬鹿か、と言われれば馬鹿と答えるほかあるまい。


『雑魚過ぎて草も生えない』

『ここで詰む人初めて見た…。』

『指示厨すら指示できなくて泣いてるw』


「うるせー!そんなこと書き込んでる暇があるなら『猫田様頑張って~』とでも書いとけ!」


『猫田様頑張って~』

『お、書いてやるから続きしろよ?』


「…買った以上は最後までやるけどさぁ。」


 猫山の魅力の一つは、ゲームをクリアするまで絶対にやめないことである。『下手だが、最後まで諦めない姿に感動した』、とコメント欄に書かれるまでが様式美と化している。


「それじゃあ、再開しまー。」


『猫山の配信見てたら、ばあちゃんの遺影が落っこちて死ぬほどビビったわ。そういや、このばあちゃんの死に際も怪談っぽくてさ。』


「なんだなんだ、こちとらホラゲの最中だぞ?お前如きのエピで勝てるか?」


『このばあちゃん、ものすっごい偏屈でさ。年で足腰弱って歩くのもやっとのくせに、山小屋みたいな家に一人で住んでて、その上、

 痴呆が進んで、婿養子なのに気に入られてた父さんしか家に入れてもらえないの。で、そのばあちゃんが先週、白無垢を着込んで、首吊って死んでた。

 当然、父さんが殺したんじゃないかって疑われたんだけど、警察曰く自殺だって。腑には落ちないけど、まあそういうもんかって。』


「また死んだ!いや、お前のばあちゃんの話じゃなくて。このゲーム、難しすぎない?って、ああ?なん、この長文。お気持ち表明?」


ようやく最初の敵にも慣れてきたのか、攻撃を躱せるようにはなってきていた。既に、死に覚えゲー並みに死んでいるが。

猫山はコンティニューを押しながら、横目でコメントを追う。

そもそも集中してゲームをしていたところで、ど下手くそなので、プレイングに大きな影響はない。


『怪談みたいってか、それはもう怪談だろw』


「いや、そうとも限らんぞ。…あれ、攻撃パターン変わった?」


『お前が弱いだけだぞ。』

『そんなことより、怪談の方を教えてくれ。気になってトイレいけねぇ。』

『出たな。猫山の推理パート。』


「推理パートってなんだよ。…はっ。雑魚め!その攻撃は見切っておるわ!」


華麗にかわす猫山!反撃が運よく当たり、敵の体力を削る。

その雑魚に100回以上負けているわけだが、それについて思うことは無いのか、調子よく連撃を刻む。


「怪談っぽいかどうかはともかく、現実的に考えて、警察が自殺と言ってるなら少なくとも、自殺であると考えていいでしょう。」


『でも、段差のぼれないなら、首吊るのも難しくない?』


「そう、それが話を不気味にしているポイント一つ目ね。んで、もう一つが白無垢を着ていたこと。まあ、どっちも老婆“一人“じゃできんわなぁ。」


言いながら、すいすい進んでいく。敵がいなければ恐れることなどないのだ。

途中でハンドガンの弾を補充しつつも、なんとか、普通の人にとっての難所に到達する。

上手な人でもてこずる様なポイントだ。猫山がてこずらないはずもない。


「はぁ?このゲームバグってね?なんで、こんなに敵出てきて…うわあ、弾がジャムってる!」


『弾はジャムらんぞw』

『リロードって知ってるか?』


「死んだが!?ああああ、無理無理の無理。絶対無理だって!おい、視聴者共。このゲーム持ってる奴いるだろ、手伝えよ。」


『手伝ってくださいの間違いだろ?』

『そもそも、サーバー閉じてるので…。』

『推理の早く続きしろ。いい加減、トイレニキ漏らすぞ。』


「一人で出来ないなら一人じゃなかってだけでしょ?「最期に思い出の服を着たいです~」って言えば、お前らみたいな薄情者でもない限り手伝ってくれるよ。」


『服はそれでもいいとして、首つりはどう説明するよ。協力者がいたなら他殺じゃね?』

『仮に他殺じゃなくても自殺ほう助とかだろ』

『手伝いたくても手伝えないんだよなぁ。手伝う気はないけど。』


「うわあああ、こっちくんなぁぁああ!」


敵の大群に囲まれる猫山。銃声に反応して、敵モブが湧き直しているので、銃を撃っている限り永遠と終わらないわけだが、それを教える優しい視聴者はこの場にはいなかった。

なぜなら、絵面が見ていて面白いから。


『こっちくんなで草』

『漏らしたぞ、どうしてくれるんだ。あの時、猫田がさっさと答えを言っていたら…。』

『トイレニキw』


「ぎにゃー!」


『今の猫っぽいなw』


再び断末魔を上げて死ぬ。


「いや、これ。ハンドガンじゃ無理だわ。前提が間違ってる気がする。取り忘れてるアイテムがあるのか…?」


猫山はいったん手を止め、攻略サイトに目を通すことにした。

初めからしておけ、と思われるかもしれないが、ゲーマーとは得てして無駄を好む生き物である。

つまり、この行為はゲーマーとして普遍的なものだ。


『前提が間違っている…?』

『お、トイレニキどうした?w』

『いや、さっきの怪談の事なんだけど、もしかして、“前提が間違っている“んじゃないかなって』

『というと?』


「おばあちゃんの言い分が正しいとは限らないってことさ。おばあちゃんは痴呆でもなんでもなく、足腰も弱っていなかったとしたら?」


『確かに可能にはなるだろうけど、なんか余計不思議じゃね?』


「はぁ!?あんな、あからさまなところにあって、使わないとか、罠じゃん!」


『このゲームの洗礼を受けたな!』

『推理するかゲームするか、どっちかにしてくれw』

『どっちかじゃ困る。俺みたいなやつを増やさないために推理しろ。』

『トイレニキ…w』


「だから、推理なんかないって。それが事実なんだから。いいか、よく考えろよ。偏屈ってのはプライドの高さからくるものだ。そんな、ばあ様が自分の弱っていく姿を家族や知り合いに見られたいと思うか?思わないだろ?だから、痴呆ってことにして人を遠ざけた。足腰は、衰え自体は来てたんじゃないかな。でも、歩けないほどではない。」


『なんで大げさに言う必要があったの?弱っていくのを見られるのが嫌なら噓ついてでも大丈夫ってことにするんじゃね?』


「考えられるのは、協力者を探し出すため。優しい・・・人を見つける必要があったんだと思う。ばあ様が崖から落ちたとかそういう事件があって親戚中に容態が知らされる機会があったんじゃないか?」


『言われてみれば、詳細は伏せるけど一年くらい前に、病院に呼び出されたことがあった。』


 肯定するコメントを見て、大きくため息をこぼす。


「でしょうね。その時、最初に駆けつけて最も世話を焼いたのが、お前の父親なんだと思う。そこであたりを付けて、一年掛けて、どの程度のわがままなら聞いてくれるのか、確認したんだろうよ。で、自殺の現場に移るわけだが、その日は思い出の品を着たいと言って、着せて貰た後、すすり泣くふりでもして一旦追い出せばあとは首を吊るだけだね。いやあ、それにしても、一年かけた計画とか。気の長いばあ様だな。」


『方法はわかったが動機がわからん。』


「存外、死ぬ理由なんて幾らでもあるぞ。あの世の主人に会いたいだとか。これ以上周りに迷惑を掛けたくないだとか。それっぽい物を選んでくれよな。」


『さすが名探偵。ゲームのことになるとIQクソ下がるのに推理だけは頭抜けてやがる。』

『ゲームせずにそっちで食ってけば?』

『つか、聞き入っちゃったけど、こいつ、いつの間にかゲーム閉じてね?』


「はん、気付くのが遅かったな。今日の配信はここまで!次回もまた見てくれよな!」


 後日、知らないふりをしようとしていたが、泣く泣く、というか本当に視聴者に泣かされながら、プレイさせらた。助っ人を連れてきてようやくクリアまで漕ぎ着けたのはまた、別のお話。

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