第一章 第一部

やられた事



 自分で誰かに押されたんだろって言っておいて、指名されたら焦るっておかしいでしょ。

 あー、記憶があるか無いかの確認がしたかったのか。


「私がいけない事を言ったのですか?

 お兄様も思い出せました、お父様もお母様も」


 あ、本当に思い出してきた。

 これ、テレビでもドッキリでも無かった。

 実際、イエニスとして生きてきてた。


 そして、こんな風に泣く家族から大分虐められてたことも。

 だって、私だけが家族じゃなかったから。


「あの、申し訳ありません!

 私が落ちた所をお兄様に助けて頂いたのです。

 そこの記憶が混乱してましたわ」


 虐めの対象が私だったけど、死なれたら困るのはこの偽物家族だから。


「いいのよ、イエニス」

「そうだぞ、ジャックも小さな事にめくじらを立てるな」


「イエニスごめんよ、きっとメイドがやった事だろう?

 お前は性格が悪いから嫌われていたしな」


 はあ? そんな風に扱って私を嫌われ者に仕立ててたのはアンタらじゃない!


「私の不徳の致すところでした」


「分かればいいんだよ。

 痛い思いをしないと反省できない人も世の中にはいるからね」


 お父様、いや、義父は恥知らずにも私が泣き寝入りをすると思って言っていた。


「そうですわね。

 私はなんて悪い娘でしょう」


「今はまだ病み上がりだから、回復したらちゃんと罰を受けなさい」


 どこの世界にこんなこと言う、仮にも親がいるか!






 私が回復する頃には段々と嫌がらせが酷くなっていった。

 ネグレクト、モラハラ、見えない所への暴力、これらをどうやってやめさせるか、抜け出すかを考えていた。

 イエニスの記憶をフル稼働させ、前世の私の知識を最大限利用するために。


「とりあえず、大人の助けが必要だし、食事は裏山に野草やら自生の野菜があるし、川もあるから魚とか獲れそうね。

 これなら、どうにかなる。

 この家が本当の両親の家で侯爵家の嫡子って言うのも助かるわね」


 書き出してみると、不当な扱いを受けて来たイエニスに、いや、自分に腹が立ったが子どもの頃の私には前世の記憶があるわけじゃ無いから、どうにも出来なかった。

 相続するべき嫡子が成人前に死亡すると、爵位も財産も国に没収されるそうなので、私を生かさず殺さずで幽閉しておきたかった様だ。


 幸いにも、働く事に年齢制限はなかったから、この屋敷を抜け出して働いて小金を貯める事にした。

 

「このまま無関心でいて欲しいわね

 離れって言う名の狩猟小屋で快適生活をしたいからね」


 



 毎日の事だけど、メイドは来ない。

 ご飯も来ない。

 一度言ったら、取りに来ないのが悪いだった。

 取りに行っても、まず無いんだけどね。


「さあて、街に行きますか、まずはどんな事があるのか出来るのか調べないと」


 十二歳までのイエニスは、礼儀作法という名の暴力で、かなりの知識と貴族としての振る舞いを覚えていたから、家庭教師とかでも良いかもしれないって思ってた。


 



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通常モードは暴走列車~悪役って誰が決めるんでしょう? @Raku_raku_phone

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