チョコレートとつるはし

つくも せんぺい

チョコレートとつるはし

 それは白馬に乗ってやってきた。


 筋骨隆々のその体躯に、小さくすら見えるツルハシを持って、胡散臭いくらいにこやかにソイツはアタシにジリジリと歩み寄る。

 今度は白馬に乗れば誤魔化せるとでも思っているのか。

 聞けば、


「こうでもしないと、君には警戒されてるからね」


 悪者には見えないだろう?

 にっと口を開けずに笑うソイツから、いつもの甘い香りが漂う。

 背筋にゾクリとした悪寒にも似た、けれども官能的な痺れが走り、ゴクリと無意識に喉が鳴る。

 ソイツは魅力的だ。それは認めざるを得ない事実だ。

 でも、何度騙され、何度泣かされたか。


「もうアタシとアンタの関係は終わったの!」


 ありがちなセリフに自分を保ちながら、アタシは語気を強めて背を向ける。

 このまま立ち去ってしまおうと一歩踏み出したところで、あの太く逞しい腕に引き寄せられた。


「何度終わっても、また迎えに来るから」


 甘い香りに全身が包まれる。

 震えるのは怖いからのハズだ。喜んでなんか、いない。


 ──カリッ


 アタシは、ソイツの腕を噛んでいた。

 驚いたが、やめなかった。

 また、何を期待しているんだろう。

 ふふっと、嬉しそうな声をもらし、ソイツはアタシの頬を手のひらで包み、唇を重ねた。

 間をおかずに、口内に甘い甘い香りが充満し、脳が溶ける。飲み込む唾液も甘く、喉を焼く。

 重ねて求めようとするアタシに、


「せっかくだから、乗ろうよ。ホワイトっていうんだ」


 焦らすように白馬を示す。白馬もまた、ソイツの香りを身に纏っていた。

 もう、アタシが断ることはなかった。


「どこに行くの?」

「知っているだろう?」


 ゆっくりと歩く白馬の上で、アタシはまたソイツに唇を重ねた。

 知ってるよ。

 全てが終わったら、ソイツはその不似合いなツルハシをアタシに振るうんだ。

 痛みに悶えるアタシを見下ろして、笑うんだろう。


 でも、いまはその甘さを頂戴。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

チョコレートとつるはし つくも せんぺい @tukumo-senpei

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ