第1話 窓から見える、その星は。
窓から見える、その星は砂と岩に覆われ赤茶けた、砂色の星だった。
草や木はほとんど育たず、常に乾燥した強い風が吹き曝し、大気は薄く、至る所で放射線が観測される極限の地。
ここは、地球。
人類という種族が繁栄しそして、衰退していった太陽系第三惑星となる。
人々の英知が集合し、様々な技術の発見を繰り返し、発展し、けれど地球という星は耐えきれず、砂色に覆われて滅びゆく運命の道半ばといったところ。
これほどまでに至った経緯、それは核戦争でもなければ隕石の衝突でもない、宇宙人の侵略でもなければ地底人の逆襲でさえない。
ただ人類が「無限」というものをうまく使いこなす事ができなかったということだけ。
今から80年前の西暦2123年、人類はグラビティセイルと呼ばれる反重力装置の開発に成功した。
帆船に付属する帆のような形状をしており、それらは通電中のあいだ、重力による引力を斥力に変換し巨大な浮力を生む装置となる。
この発明は人類が宇宙に行くという夢を著しく身近なものにした。
発明に付随するさまざまな技術の発展により人類は今まで考えられなかったほどの大きな質量を大気圏外へと容易に運ぶことができるようになり、それらがまるで帆船が飛び立つような情景だったことから当時の人々からは「第二次大航海時代」と言われていた。
重力科学の発展に伴い、今まで不可能とされていた「半永久機関」の誕生に加え、重力波通信の試験運用、天体重力推進の発展、さまざまな科学技術が瞬く間に進行していった。
当時の時点で人類は、スペースハビタット(宇宙居住地)の建造、恒星間航行の整備拡充、そしてついには惑星都市建造のための資材用航路の確保まで完成していた。
公共事業という名目に対し、民間事業者や軍事利用者、政治的側面を含めさまざまな思惑が交差しながらも順調に、着実にそしてとてつもないスピードで計画は進んでいった。
数々の競争を経て、結果的に人類は地球に存在する「有限」の資源をほんの僅かの期間に、それも大量に消費した。
資源には必ず質量が存在する。
質量が減るということは重力に影響を及ぼすことになる。
結果的に、質量を糧とする地球の重力は著しく低下していった。
海抜の低下から始まり、大気の多くが大気圏外へと放出され、地球上の気候は大きく、著しく、瞬く間に変化していった。
「...!、......!」
初期における事象としては農作物の異常成長により、食糧需給において著しい支障をきたすこととなる。
「......!、.........!」
遺伝子にまで刻まれている重力の影響は、
「ミミヅ!!」
はっと我にかえると携帯していた無線機から幾度となく音声がでていることに気がつく。
ホログラムで表示させていた画面を左手で払いのけながらすべて消し去ると同時に音のする方向へ駆け寄り放置していた無線機に応答する。
「こ、こちらミミヅです、どうぞ」
「なにやっとんのじゃおんどれ!舐め腐り散らかしとんのかワレェ!!!」
間髪入れずに轟くその声は反射的に音量を上げた事も相まって耳へとつんざく。
「ごめん!何言ってるかわかんないけどごめん!」
ここは地球、人類の残した最後の...。
窓から見える、その星は。 垂月 麻紐(すづき あさひも) @Hemp_String
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