第13話:プロポーズ

帝国歴223年8月13日:帝国シルベストリ伯爵領デウアウ・ウベン城


「ミア、君は僕の太陽だ。

 木々が太陽を欲するように、僕は君を欲している。

 僕が人間らしい心を保ち、他の人に優しくし続けるには、どしても君が必要だ。

 もう君なしでは生きていけない。

 どうか僕と結婚してくれ」


 1年余のグレコ王国討伐遠征の間、毎日朝夕2度のラブレターを送っていたシモーネが帰国して1番にたずねたのが、ミアの居るデウアウ・ウベン城だった。


 シモーネが遠征に行っている間はとても危険だった。

 どこから帝国貴族がミアの事をかぎつけ、刺客を送ってくるか分からない。

 だからシルベストリ伯爵軍を総動員して護らせた。


 ミアが皇妃に相応しい礼儀作法を身に付ける為の訓練場は、別邸からデウアウ・ウベン城の領主夫人区画に移った。


 領主夫人と令嬢といった、シルベストリ伯爵家の女性が動員された。

 宗家からだけでなく、家門から優秀な女性が総動員されたのだった。


 シルベストリ伯爵家がそこまでしてくれた理由は簡単だ。

 ミアがシモーネの妃になった場合の利がとても大きいからだ。


 ミアはグレコ王国の公爵令嬢だが、その家は既に滅びている。

 両親と妹はもちろん、近しい一族は皆殺しになっている。

 シモーネが仕掛けた策で、ベネディクトゥス王に誅殺されたのだ。


 だから、皇妃になるための後ろ盾がない。

 それに、属国の公爵令嬢程度では皇妃に成れる家格ではない。

 帝国貴族であっても、上位の伯爵家でなければ許されない。


 グレコ王国が健在で、普通に公爵令嬢として育っていたなら、ベネディクトゥス王の養女として、シモーネに嫁いでいただろう。

 王の姪なのだから非常識と言われる事もない。


 だが今回は、その王が死んだだけでなく、王家がほぼ族滅しているのだ。

 ミアの後ろ盾になれる血族は皆無と言っていい。


 だからシモーネは、ミアの強力な後ろ盾を作るために、シルベストリ伯爵の養女にしてから娶る事にした。

 出自は属国の公爵令嬢だが、家格は帝国伯爵家の養女として嫁ぐ。


 シルベストリ伯爵家はミアの後ろ盾になる事で、ミアが男子を生み、その子が帝国皇帝に即位する事ができれば、帝国皇帝の外戚になれるのだ。


 シモーネがシルベストリ伯爵家に与えた利は他にもあった。

 グレコ王国討伐軍に、シルベストリ伯爵の子弟を優先的に従軍させたのだ。

 

 従軍できれば手柄を立てる機会に恵まれる。

 グレコ王国領内に、子弟全員が領地を得る事も夢ではない。

 本家のシルベストリ伯爵家も、侯爵に陞爵できるかもしれない。


 そう言う利があったからこそ、シルベストリ伯爵も費用を惜しむことなく領軍を1年間も総動員したし、子女の結婚式を遅らせてもミアに教育を施した。


「この1年間、毎日2回も心の籠った手紙を送り続けてくれたシモーネ。

 私も貴男の事が好きになりました。

 皇太子妃になったら、不幸な子供達を救う事業をやってもいいと約束してくれたのも、心からうれしいですわ。

 ですが、本当に私でいいのですか?

 シモーネの妃になるためにずっと頑張ってきた令嬢がいるのではないの?」


「ミア、確かに俺の妃になるために努力してきた令嬢はいる。

 でもそれは1人ではないのだよ。

 何十何百もの令嬢が、将来皇妃に成れるように努力している。

 だからと言って、俺の事が好きな訳でもないし、俺以外に嫁げない訳でもない。

 令嬢達は皇帝の妃になるべく努力し、選ばれなかったら、妃の候補だったという栄誉と共に他の貴族公子の所に嫁ぐのだよ」


「信じられません。

 幼い頃はそうだったかもしれませんが、成長してシモーネを知れば、恋い焦がれるはずです」


「私も20歳だ、恋した事がないなんて言わない。

 社交界で浮名を流した事もある。

 だが令嬢に手を出した事は1度もない。

 遊びで令嬢の人生を狂わせる訳にはいかないからね」


「でも、本当に私に皇妃が務まるでしょうか?

 この1年間、私なりに努力してきました。

 ですが、まだまだ夫人や令嬢方の足元にも及びません。

 とても皇太子妃として社交が行えるとは思えないのです」


「結婚して直ぐに皇太子妃としての社交を行え、なんて言わないよ。

 これまで皇太子妃が居なくても皇室の社交は回っていたのだ。

 親しい人を相手に徐々に茶会を行えばいい。

 その時も、シルベストリ伯爵の夫人や令嬢方が後見してくれる」


 シモーネはミアの事を真剣に考えていたのだ。

 一時の情熱で、後に必ず起こるミアの苦しみを考えずにプロポーズしたわけではなく、あらゆる手段を講じて、万全の体制を築いてからプロポーズしたのだ。


「ずっと夫人達が後見してくださるのですか?」


「ああ、皇太子妃付の侍女達は、皇室内宮の侍女を半数にして、残る半数の侍女はシルベストリ伯爵家から出してもらう。

 君の後ろには、常にシルベストリ伯爵の夫人か令嬢が居てくれるよ」


「ありがとうございます、シモーネ殿下。

 喜んでプロポーズをお受けさせていただきます」


 ★★★★★★


 新作短編恋愛小説第3弾「親友、婚約者、乳姉、信じていた人達に裏切られて自殺を図りましたが、運命の人に助けられました」を投稿しました。

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美しくない私は家族に下女扱いされています。 克全 @dokatu

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