Hey! bitter sweet bitter

ハヤシダノリカズ

chocolate heaven

「オマエは屁がきたない」

「ちょっと待ってくれや。屁が汚いってなんやねん。屁が臭いは分かるけど、汚いってなんやねん」

「汚いねん、音が」

「え、なに?音?屁の音?屁の音が汚いってこと?」

「そうそう。オマエの屁はプーとかプスゥって感じの可愛い音やないやろ。いっつも、ブババッ、とか、ボッフ、とか、ボボスゥ……プリッ、とか、なんか汚いねん」

「えー。そうかな。そんな音立ててるやろか? ほんでも、最後のプリッはカワイイやんけ」

「まぁ、百歩譲って最後のプリッは可愛いとしてもや。他のはホンマ、ヤバいで。ヤバ汚い」

「おい、変な日本語作んなや。なんやねん、ヤバ汚いって」

「ほら、こないだ一緒に合コン行ったやろ」

「あぁ、行ったな」

「あん時も、オマエ、屁ぇかましまくっとったやん」

「えー、そやったっけなぁ」

「おいおいおいおい、覚えてへんのかい。ブババッ、とか、ボッフってゴツイ音のオマエの屁ぇで女の子めちゃめちゃ引いとったやん」

「ま、ま、ま、そういう事もあったかも知れへん。知れへんよ?でも、ほら。すかしっ屁するような男にオレはなりたくないし、豪快な屁でその場が和んだらええと思てやな」

「和むどころか、引いとったっちゅう話やからな。アレはアカンで。そんなことやから、オマエはいつまで経っても彼女の一人も出来へんねん」

「あらやだ。カチーンと来たよ。そういうオマエはどやっちゅうねん。オマエかて彼女おった事あるんか」

「え、なになになに?」

「ほら、アレや。折しも明日は二月十四日や。二月十四日言うたら何の日や?」

「煮干しの日や」

「そうそう、二月十四日言うたらセントバレ……、え、なに?に、煮干し?」

「そうや。二月の二が『に』で、十四の十が『ぼ』で、四が『し』や。煮干しの日や」

「十が『ぼ』って無理やりやないか!なんやそれ」

「煮干しでなけりゃ、ふんどしの日や、ふんどしの日!二月の二が『ふん』で十四の十が『ど』で、四が『し』やこれでええやろ!」

「なんで、二月十四日の変な記念日に詳しいねん!オマエこそモテないを拗らせ過ぎて、セント・バレンタインデーをない事にしようとしとるやないけ!どうせ、オマエは義理チョコの一つももろた事ないねんやろなぁ」

「なんやと!こないだの合コンのセッティングはオレがしたやろがい!合コンのセッティングが出来るっちゅう事は、女の子の友達くらいおるっちゅうこっちゃ。合コンのセッティング一つしてくれた事のないオマエこそ、義理チョコ一つもらえへんのちゃうんか!」

「義理チョコくらい毎年もろてますー」

「どうせ、オカンか妹やろ」

「ぐっ、なんで、速攻その返ししてくんねん」

「図星なんやんけ。悔しかったら、一回くらい合コンのセッティングしてみろやー」

「ちっ、そこまで言うねんやったら、オマエはこないだの合コンの女側の幹事の子ぉからチョコレートくらいもろたことあんねやろな」

「…………」

「なんで急に黙んねん」

「チョコレートはもろてへんけど、それに準じたもんならもろた」

「なんやねん、チョコレートに準じたものって」

「薄ーいフィルムにラッピングされた白くて軽いもんや」

「なにそれ、ホワイトチョコ?」

「こないだもろたそれにはジャンカラの割引券が入ってた」

「なにそれ、ジャンカラ?あのカラオケボックスの?」

「嬉しかったで。もうそろそろ花粉飛んできよるやろ?花粉症のオレにはあれがなんぼ有ってもええねん」

「おい、それ、ポケットティッシュちゃうんか」

「まぁ、そうとも言うけど、あれは、あの子からオレへ贈られた、真心、や。街歩いてたら、『どうぞー』言うてくれてん」

「え、オマエ、街角でポケットティッシュ配ってるアルバイトのねーちゃんと合コン取り付けたんか!それはそれで、めっちゃスゴイやん!スゴイやん、オマエ!」

「まぁな」

「やるやん!」

「まあな、ふふふん」

「でも、チョコはもろてへんねんな」

「それは言わんといてくれ。ただただ合コンセッティングの剛腕を褒めてくれ」

「あぁ、スマン。感謝してる。ありがとう。そうかー。オマエのその剛腕っぷりを聞かされたからには、オレも一つ告白せざるを得んな」

「なんや、告白て」

「その合コンの話や。オマエに散々汚い汚い言われたオレの屁の武勇伝や」

「なんやなんや、武勇伝て大げさやな。あん時の屁ぇの何が武勇伝やねん」

「あん時、三対三の合コンやったやろ?ほんで、男女男、女男女で向かい合って座ってたやろ?丁度千鳥模様みたいに」

「あぁ、せやったな」

「合コンの場がええ感じにあったまって来た頃や。隣にすわってるねーちゃんの方から、かすかな、ホンマに微かな音やったで。プスーって音が聞こえてやな。しばらくしたらほのかににおってきてん。屁ぇや。そのねーちゃんの屁ぇや。オレもな、こう見えてジェントルな男やからな。その屁に反応して、という訳ではないですよってな自然を装いつつその子の顔をチラと見た。そしたら、そのねーちゃん、顔真っ赤や。アカンアカン、これはオレが一肌脱がな男がすたる思てな、ほんで、わざとデッカイ音で屁ぇかましたったんや」

「ほぉ。女の子の分も恥被ったろうという気概かー。オットコマエやんけ」

「せやろ?オレの屁ぇにはそういうやさしさがあんねん。オレとおったら屁ぇの恥くらいなんぼでもかぶったるさかいな!っちゅうオレの器の大きさよ。讃えてくれてもええねんで」

「器の大きさて……。屁ぇの一つで大げさな」

「まー、屁ぇの恥かぶったトコロでモテる訳やないみたいやけどな。あれから、連絡あれへんし。あの子から」

「いーや、その子はちゃんとオマエに好感を抱いたみたいやで」

「え?なにそれ。なんでそんなこと分かんねん」

「あぁ、実はな、オレ、その子からオマエへのチョコレート預かって来てんねん」

「え!マジで!ありがとうー!マジでありがとう!」

「せやけどな。その子から一つ条件を付けられてん」

「なんやねん、条件て。ええから、はよ渡せや、そのチョコレート」

「ホンマはな、オレ、知っててん。オマエの屁のエピソード。その子から聞いててん」

「え?」

「うん。『あの時のおならの事、めっちゃ感謝しています。でも、それを軽く誰かに言うような人だったらお付き合いする事は考えられません』って、チョコレート預かった時に聞かされてん」

「え?」

「『私のおならの事を軽く言うような人だった時には、そのチョコレート渡すのはやめておいてください』とも言われてんねん」

「え?」

「ほんで、『その時には、もう、そのチョコレートは捨てちゃってください』って言われてな。捨てるのもなんやし、もう、ここで一緒に食おか」

「え?」


---


「美味いな」

「ほろ苦いわ」



―終―

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