第4話 エアロスミスといらっしゃいませは似ている
母からの目利きの挑戦状! ではなく、今回はただの賭け。
内容はいらっしゃいませをエアロスミスと言っているかどうかというもの。
罰ゲームは皿洗い。
賭けにもなっていないような内容なので負ける訳がないのだが……。
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「ぇぁすぁぃーすぇー」
スーパーの食品コーナーの店員の、かなりあやふやな声に僕は困惑した。
「実在したんだ……」
これは、母とやるいつもの賭け事。
この段階で僕の負けは確定した。
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これはスーパーに来る前の話。
「今日、学校どうだった?」
学校から帰ってきて早々にそう聞かれたから、僕はいつも通りと答えるのもどうかなと思って学校で盛り上がった話題を話す。
「『エアロスミス』って、言い方次第では『いらっしゃいませ』って聞こえる。みたいな話で盛り上がったくらいかな?」
「ふーん……あ、そうだ。スーパーでお一人様一つ限りの卵の安売りがあるから付いてきてくれない?」
母は僕の話にあまり興味を示さず、思い出したかのように僕を誘った。
特に用事もないからOKしたら、母はササっと化粧をして準備を整える。
母との買い物は、荷物が多い時や特売の時限定だけど、労力を貸す代わりにダッツが付いてくる。僕としてもありがたい。
僕もササっと用意を済ませた。前にダッツに当たっていなかったのと、最近暑いからというので今回は特に欲しい。
歩いて向かっている途中、母がいつもの賭け事を持ちかけてくる。
「もしエアロスミスって言ってる店員が居たら、今日の食器洗いお願いね」
「そんな人居ないよ。あれはツイッターで流れてきたネタだし」
「居たらよ。居ーたーらー」
「はいはい」
この迂闊な返事が失敗だった。
僕はもっと、この母というものを知るべきだったのだ。
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「ぇぁすぁぃーすぇー」
こんな絶妙に腹の立つ声で、僕は負けた。
「そんな馬鹿な!」
「おかあさんの勝ち! 何で負けたのか明日までに考えてきてください」
「本田ァ! え? ていうか、よくそんなネタ知ってるね……ツイッター見てるの?」
微妙に腹が立って突っ込んですぐ、何か嫌な予感がして尋ねる。
それはツイッター上で少し前に流行った、サッカーの本田選手とのじゃんけんに勝つと飲料水が当たるといういうキャンペーンの話だ。
母はアナログ人間ではないけれど、SNSをやってるのは意外に思える。けど、僕はまさかここに爆弾発言が続くとは思わなかった。
「あんたのリツイートしたやつ見たからね」
「……まって」
「あんたのタイムラインにエアロスミスネタ流したの、おかあさんだから」
「まって!」
母の言うには、この日の為にママ友に話をつけて、このスーパーでバイトしているその息子さんと共謀したのだそうだ。
なんて無駄な事を!
そしてプライバシー!
しかも、そんな罠を張っていた上に、卵のセールは本当にやっていた。完璧にチラシの内容を把握している。やはり侮れない。
結局ダッツにはありつけたものの、食器洗いをさせられた上に、ツイッターで母のアカウントである[車さん]をブロックすることになった。
車さんはcarさんと読むのだとか。確かにアカウントIDが[@car_miteiru]になっている。
ホーリーシット!
僕は、これからはフォロワーには注意しようと思ってダッツを頬張った。
美味しかったけど、ツイッターの事が気がかりで味に集中できなかったのが悔しい。
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カレーとハヤシは似ている ふる里みやこ@受賞作家 @bagbag
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