第3話 ビー玉と飴細工は似ていた?
母からの目利きの挑戦状……だったのだろう……うん。
内容はビー玉と飴細工の差を当てろというものだった。
景品となっているのは夕食そのもの。
負ける負けないというかこれは……。
───────────────
汗を流して学校から帰ると、母がフローリングの上で、ギャグ漫画のように手を伸ばしてうつ伏せになって倒れていた。
一瞬何事かと思い近寄ったけど、大事はないみたい。その代わり、何やら唸っている。
僕は、足で母の脇腹を軽く突っつくと、くすぐったかったのか、んふっと声を漏らして身を捩った。一応元気なようだ。
「どうしたの?」
「……机」
「机?」
いつも食事をしているダイニングのテーブル。その上に、白くて浅いお皿が2つ。
これはいつもの目利きチャレンジだ。
片方の皿に乗るのは少し色のくすんだ透明なビー玉で、もう片方が……。
「なにこれ……」
でろんと、若干溶けた元ビー玉……の様に見えないこともない何か。
「当てたら外食、外したらカップ麺って考えてたんだけど……」
「……飴だよねこれ」
「うん」
「……うん」
察した。
今の季節は夏。
そしてダイニングルームには西日が入る。
いつもと違って、クーラーが必死で稼動している割には家の中はさして涼しくない。
つまり、母はイタズラを考案してビー玉状の水飴を用意した後、買い物に出かけていたのだ。
で、ついさっき帰ってきてクーラーを入れた段階でテーブルを見て、すっかり溶けてしまった飴玉を見て愕然として、そのまま脱力して倒れた……そういうことになる。
アホだ。
「珍しいね」
「お母さん今回頑張ったんだけどな……」
「いや、毎回クォリティがオカシイから、これくらい凡ミスしてくれたほうが人間だなって思える」
以前からされている、とてもクォリティの高い目利きの挑戦状。今回は不発に終わったようだ。
溶ける前の飴玉クォリティを見たかった感はあったが、もう溶けているのでそれは叶わない。
ともあれ鞄を端に置いて母を起こす。
「ていうか、飴細工とかするくらいなら料理すれば良かったんじゃ……」
「楽しさが違う」
「さいで……」
「というわけで、正解したので今日は外食にします……」
「はい」
外食という割に、母のテンションは微妙だった。
どれだけ力を入れたのか推し量れる。
ジメッとする生ぬるい風を浴び、近所のファミレスへ向かった。
僕はチーズinハンバーグ。母がお膳セット。両方ドリンクバーを付ける。
注文を終え、母は「ドリンクバー取ってきてあげる」とだけ言い残し、何が欲しいかまで聞かずに歩いていった。
そして、帰ってくるなり顔をひきつらせながらとんでもない二択を提示してきた。
「片方がカルピスソーダ。片方が牛乳の炭酸割り。選んだ方を飲めます」
カルピスはともかく、もう片方が論外だ。
なんて勿体無いことを!
けど、もう見るからに違いが分かったから、僕は迷うことなくカルピスソーダをチョイスする。
母はというと、表情を曇らせていた。
「知ってた」
「うん」
それだけ言葉をかわして、母はいかにも不味そうな飲み物を飲み下してゆく。
その表情は苦悶そのもの。
「まっず」
「こっちは甘いよ。あと、次から僕がドリンクバー取りに行くから」
「おかあさんコーヒー。ブラックで」
「はーい」
「今」
「はい」
割と切羽詰まっている。
食べ物で遊んでも無駄にはしないのが母のポリシーだ。無駄なことをする割に律儀な性格をしている。
コーヒーを持って来てあげると、母は牛乳ソーダを一気に飲み干してコーヒーに口をつけた。
余程だったようだ。
コーヒーでの味の上書きはいまいちだったようで、母は料理が来るまでずっと、眉を八の時にしたままで過ごす。
計画を練っていない場合の母はこの程度のようだ。
西日のおかげで、僕は久しぶりに母との勝負に勝つことが出来たのだった。
太陽ばんざい!
───────────────
よろしければ、応援、レビュー等よろしくお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます