第2話 こしあん団子とトリュフチョコは似ている

母から再び目利きの挑戦状!

内容は、こしあんとトリュフチョコを見分けろというもの。

景品になっているのはバレンタインチョコ。

負けるわけにはいかない。




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 眼の前の皿に茶色の塊が並ぶ。

 片方はこしあん。丸められて作ってある。

 片方がトリュフチョコだ。


「どっちがどっちか当てたら、ゴディバの母チョコあげる」


 以前と同じく、これは母からの挑戦状。僕は口車に乗せられて、この並べられた2つの差を言い当てるという、超難易度のクイズに挑むことなった。




 こしあんとチョコは似ていない。

 だというのに、今このテーブルの上に並んでいる2つの差が判らない。

 意図的に似せて作ってあるのか、色も見た目も瓜二つだ。

 なんて無駄な事を!


 ともあれ、これを当てないとゴディバにありつけない。

 嘘でも貰ったチョコレートカウントを増やすのだ。

 味以上に、チョコという存在そのものを獲得したかった。




 問題を解くにあたって、ルールは1つ。

 見る。ただこれだけだ。

 それ以外が禁止。

 匂いを嗅いでも触っても駄目。

 そんな事をすれば直ぐに判ってしまうからだ。




 時々行われる、この母の無駄に手の混んだクイズ。

 何時も景品に目がくらんでしまって、母の手の上でもてあそばれている感が否めないが、それでもこちとら男の子。欲望には忠実だ。

 況してバレンタインデー、況してゴディバ。

 欲しいというのが正直な気持ちだった。


 ともあれ、2つを見比べる。

 両方粉まみれでキューブ状だ。

 トリュフチョコの方はココアパウダーなのだろうが、もう片方はこしあんだ。ココアパウダーなんてかかっていたら流石に不味いと思う。


「お母さん……この粉……」

「食用スプレー」

「そうきたかぁー……」


 食用スプレーなら味に奇妙な変化は置きない。

 ただ、これだけの為に茶色のココアパウダーに似せた食用スプレーを用意してしまっている所に、手の混んだ無駄を感じる。


 つまり、今回も見た目だけでは判断が難しい代物になっている。と、いってもカレーライスとハヤシライスの見極めの時は同じものだった事に比べて、今回は一応に差がある。

 間違いなく、どちらかはトリュフで、どちらかがこしあんなのだ。


 しかし、見ても僅かな色の差があることしか判らない。

 造形的には完璧にトレースされているので判るわけがなかった。

 となれば、別の手段で知るしかない。即ち、食用スプレーを探すことだ。


 キッチンへ行き、戸棚を漁る。探すは見慣れぬスプレー缶。


 僕は、母の不安げな表情に少し気を良くして、戸棚の上を探してゆく。と、1つのスプレー缶を見つける。勿論食用スプレーだ。

 これに間違いないと、皿を一つ用意し、そこに食用スプレーを吹きかける。すると、片方の色とマッチした。


「はい! こっちがこしあん!」

「あんたはどっちが食べたい?」

「そりゃあトリュフだよ」


 こしあんの団子も嫌いではないが、バレンタインデーに何を食べたいかと聞かれたら、間違いなくチョコの方だ。

 なので、素直にそう答える。


「じゃあ、こしあん……と、思わる方はお母さんが貰うね」


 そう言って、母は片方の塊をつまみ上げて食べてしまった。


「んー。美味しい」


 皿を見ると、無くなった方の後には粉が残るのみだった。

 母が取った方がこしあんだったのならば、皿には餡が少し付着するはずなのだが、それが無い。


「まさか……そんな……」


 恐る恐る、皿の上の塊に手を伸ばす。

 柔らかかった。


「こしあんッ……!?」


 食用スプレーの色と比べても、違う色が吹きかかっているというのに、手にしたのはこしあんだった。

 皿を見ると、拾い上げた方の下に餡が少し付いている。手にしているのは間違いなくこしあんだった。

 何度確認してもこしあんだった。


「え、なんで……え?」


 僕が混乱していると、トリュフチョコを食べ終わった母が不敵に笑った。


「ばかめ、そのスプレーは囮よ。本物はテレビの後ろに隠してあるわ!」


 言われ、リビングの薄型テレビの後ろを見ると、確かにスプレー缶があった。

 恐る恐る先程の皿に吹きかけてみると、こしあんの方にかかっている粉の色が出てくる。


 つまり母は、わざわざトリュフにかかっているココアパウダーと同じ色の食用スプレーを戸棚に用意し、それを囮として利用したのだ。

 それを使って見分けようとすると、トリュフの方をこしあんと錯覚してしまうことになる。

 実際にこしあんに吹きかけられたスプレーはテレビの後ろにあった物なので、まんまと騙された形だ。


「どこまでも手の込んだ事を!」


 前回とは違い、今回は正解があったにもかかわらず、まんまと嵌められた形になる。

 悔しさで握った拳が宙をさまよう。


「あー、面白かった。あ、チョコはあるけど、外れたから、お母さんとはんぶんこね」

「あ、外れても貰えるんだ……」

「それより、そのお団子食べてね。お母さんチョコ食べたから続けてお団子は合わないし」


 チョコが貰えると霧散した悔しさが復活する。

 だが、このまま放置しても良くないので、団子を食べた。

 これの後にチョコは合いそうにもない。ここまでが母の作戦通りになる。




 夕食後、母が出してくれた6個入りのゴディバのチョコレートは、中に5つしか入っていなかった。




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