カレーとハヤシは似ている
ふる里みやこ@受賞作家
第1話 カレーとハヤシは似ている
眼の前に、2つの皿が並ぶ。
片方はカレーライスで、片方がハヤシライスだ。
「どっちがどっちか当てたらダッツあげる」
母からの挑戦状だ。僕は口車に乗せられ、この並べられた2つの皿の内容を言い当てるという、超難易度のクイズに挑む事にした。
カレーとハヤシは似ている。
今このテーブルの上に並んでるのがそうなのだが、正直差が判らない。
意図的に似せて作ってあるのか、色どころか輝きまで瓜二つだ。
なんて無駄な事を!
ともあれ、これを当てないとダッツにありつけない。
問題を解くにあたって、ルールは2つ。
1つは、回答するまで食べてはいけない。
もう1つは、近くで匂いを嗅いではいけない。
両方それをしたら直ぐ解るから当然だから仕方ない……けど、そのせいで差がさっぱり分からない。
本当に違いがあるのか疑わしいほどだ。
カレーの方はややスープカレーに近くしてあって、ハヤシライスの方はルーの濃さが濃い上に、グリンピースがしっかりと排除してあるせいで見た目に差がない。少なくとも僕にはまだ2つの差は判らない。
距離もほんの少し離れているから、カレーの香りもすればハヤシライスの香りもする。
だけど、それがどちらから香って来るのかまでの判断はつかない。
よくもまぁこんな難問を用意したものだと、いっそ感心する。
一度立ち上がって、別の角度や高さから皿を伺う。やっぱり違いは判らない。
スプーンで少しすくってみても、とろみまでほぼ同じときた。
騙されているのでは? と思って台所の三角コーナーを見ると、ちゃんとハヤシとカレーのルーのパッケージが捨ててあった。
次に、鍋を見たら判るのでは? と思いコンロの上に並んだ鍋を見るものの、やはりというべきか見分けはつかない。
だが、わざわざ別に作ってある以上、あそこに並んでいるのはハヤシとカレーであることは間違いなかった。
再び席に着き頭をひねる。
こうなれば見分け方が判明するまでひたすら粘るしかない。
そんな事をしていると、「冷めると美味しくないから」と、制限時間を設けられた。
残り1分。
タイマーをセットされる。
あぁ無情。
時間制限が付いたことによって、頭がより動かなくなった。
どっちだ! どっちだ!? とひたすら脳内でループする。
目を見開いて盛り付けられた両者を見比べていると、タイマーが鳴った。
あっという間だ。
もう直感で答えるしかない。
「さぁ、どっちがどっちか判った?」
「……右! 右がカレー!」
「いいのね?」
口ごもる。
こう言われると弱い。
なにせ本当に見分けがつかないのだ。勘で答えてる以上、揺すぶられると面白いように翻弄されてしまう。
「ひ……だりとか……?」
「さぁ……」
今度はしらばっくれだした。
こうなるともう反応を見て答えるというのも無理だ。
最終的に直感を信じて、右を選ぶ。
「そう……」
「いや。そう……じゃなくて」
「食べてみて答え合わせしようか。お母さんは左ね」
「え、うん」
スプーンですくって、食べやすい温度まで冷めたそれをいただく。
味をみれば一瞬で判る。嵌められた。
「どう?」
母がニヤニヤとこちらを見る。それもそのはず。
「混ざってるじゃんか!」
そう。出されたのは言ってみればハヤシカレーだ。
分からない筈だ。両者の特徴を併せ持っていたのだから、当てられる訳がない。
いや、そのまま両方がそうだと答えれば的中していた。
つまりダッツは無しだ。
少しがっくりしながら、ハヤシ味の混ざるカレーを食べる。けど、これはこれで悪くない味だった。
食後、食器を水にさらしていると、母が冷凍庫からダッツを取り出し、スプーンと一緒にテーブルに置く。
「面白かったからあげる」
「マジか!」
さっさと食器を洗ってダッツを手に取ると、中からコロコロとした音が聞こえる。
明らかにカップアイスが出していい音ではない。
僕が眉を八の字にしていると、母がテーブルの向かえでケラケラと笑う。
フタを開けると、中から出てきたのはアイスの実。
用意されたスプーンはブラフだった。
「どこまでも手の込んだ事を!」
やり場のない感情を握りこぶしに乗せてテーブルをぐりぐりとする。
だが母は満足そうだった。
これからもまだ手の平の上で踊らされそうだ。
アイスの実はハヤシカレーの後ということもあり、実に美味しかった。
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