第19話 出逢い

「あてて……。」


 朝、カーテンの隙間から入り込んでくる光で目を覚ました。

 昨日飲みすぎたせいか、頭が締め付けられるように痛い。


「はぁ~。今日は家で大人しくしとこうかな……頭痛いし。」


 今日は午後から紫苑とオンライン会議がある以外は暇なので、それまで寝ていようかと思いながら歯を磨く。歯ブラシで歯を磨くたびに、頭に振動が加わって痛い。

 こんなことならウコンの力でも飲んでおくべきだった。

 伊織は過去の自分を恨みながらうがいをしてキッチンに向かった。

 軽く朝食を食べてから、パソコンをいじる。頭は痛いが、休日を優雅に過ごしたいという気持ちが勝ってしまったので、何か面白そうなことはないか探すためだ。


「ハチミツゼリー……おじさんがこんなもん食べたら死んじゃうな……。」


 最近の若い子たちのすごい発想力に深々と感心してネットを探ってると、


「え?」


 急に画面が真っ青になて、デバイスに問題がなんたらと出てきた。

 しかし伊織は、この症状を知っている。過去に一度、職場のパソコンで同じことになったからだ。


「ブルースクリーンか……。」


 伊織はため息混じりに呟く。

 なぜため息を吐くのか、それはこの症状は別名『死の画面』と呼ばれており、これが出てきたということは、パソコンの部品のどれかが壊れたということだ。

 

「これは……ストレージがおしゃかになったか……。」


 どんなものにも終わりはある。伊織のパソコンの一部も例外ではない。

 だが、大きな問題がある。普通なら今からネット通販で購入して終わりなのだが、今日は午後から紫苑とオンライン会議がある。

 今は朝の10時。オンライン会議は5時からの予定だ。それに、紫苑はかなり忙しい。また後日となればいつになるのか分からない。

 

「かぁ~まじかぁ……。」


 さっきまで少しマシだった痛みが更に増してきたような気がする。

 ネット通販では無理だが、今から買い物に行ってストレージを買ってくるなら間に合う。

 

「結局外に出る運命なのか。」


 伊織は重い腰と頭を上げ、素早く出かける準備を始める。

 バックアップからの復元がどれくらい時間を有するのか分からないので、とりあえず急ぐ。


「あ、ロキソニンだけ飲んどこ。」


 伊織は最低限の荷物だけ持ってから急いで家を出た。

 といっても、会議まで6時間以上ある。そこまで急がなくてもいいだろう。

 伊織は近くのショッピングモールまでバイクを走らせた。休日ということもあってか中々に交通量が多い。

 安全運転第一でバイクを走らせ、無事にショッピングモールに着いた。


「え~っと、買うのはストレージだけでいいかな……。」


 ショッピングモールなんて、月に一回行くか行かないかくらいのものなので、他に必要なものがあるなら買っておこう。

 伊織は早歩きで真っすぐパソコンショップに向かった。


「ん~まぁ1テラあったら十分か。」


 1テラのストレージを手にとって、そのまま店内を散策する。

 こういったパソコンショップは何処にでもあるわけではないので、見ていても楽しい。気分的にはホームセンターと一緒だ。

 キーボードコーナーに移り、いい感じのキーボードがないかと探していると、サンプルのキーボードをカチカチと押している大きめの袋を持った女性がいた。


「わ、すごい押し心地いいスイッチ。何使ってるんだろう……。」

「これは銀軸ですよ。」


 見ていて面白かったので、つい声をかけてしまった。

 しかしこの人、どこかで会ったことある……ような?

 その女性は一瞬戸惑って、


「そうなんですね。銀軸ってあまり聞かないですね。」

「珍しい軸ですからね。」


 伊織は女性と会話しがてら、女性の持っている大きな袋が気になった。

 申し訳ないと思いながら、伊織がちらりと袋の中を除くと、大量のお菓子が詰まっていた。

----------------------------------------------------------------

ちなみにスイッチについて詳しく知りたい人は、「メカニカルキーボード スイッチ」で検索してください。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

バーチャル世界と裏表!〜初心者ユーザーが超人気Vtuberだったんだが。〜 楠 楓 @kadoka0929

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ