域主戦
扉を開けた先。僕の視界の先には、不動の巨人の石像が鎮座していた。
ドーム状の部屋の中心、台座もなく放置された石像は今にも動き出しそうな気配をこれでもかと醸し出している。
周りを見回すと、壁は先ほどのような無骨な石ではなく洗練された大理石のように光沢が光っている。
その光や冷たさが、この部屋がこのダンジョン内で一際異質であることをより強調しているように感じる。
部屋の広さは充分。
隠れられるような障害物はないが、見通しはいい。
自然の闘技場、と言ったところだろう。
僕は深呼吸を一つした後、一歩前に踏み込んだ。
すると、
「――――――――――」
中央の石像がその身をもたげる。
今までの魔物と同様に声はない。無機質な駆動音にも似た音を響かせながら緩慢に活動を始めた。
この『石廊の洞窟』の
身長は僕の倍以上、3メートルを超える巨体。
石でできた身体は頑丈の一言で、質量を力の限りぶつけてくる破壊力は初級冒険者にとっては脅威そのものだ。
「―――――――」
物言わぬ石像は僕の存在を認識したのか、両腕を振り上げ思い切り地面に叩きつけた。
瞬間、壮絶な音を立て埋没する地面と上がる土煙、揺れる地面がゴーレムの攻撃力の最たる証明だ。
当たったら確実に即死。
普通の冒険者だったら骨折か最悪でも行動不能だろう。
でも僕の防御ステータスは僕の盾や鎧にはなり得ない。
「逃げるのが正解……だな」
そう呟いた僕は、片手剣を抜き、ポーチから石を取り出した。
「―――――でも、逃げたくないなぁ」
口元が引き攣る感覚だけが鮮明だ。
怖いとは感じてる。無茶だともわかってる。
だけど、無理やり笑おうとする僕の顔は、好戦的な人間のそれであることは確かだ。
情報はずいぶん前から頭に叩き込んである。
必要もない情報を何度も確認しながら、いつか自分も挑むんだとか無謀なことを考えていた。
そしてその情報が今、僕に必要な武器になっている。
しかしそれと引き換えに、機動力はほぼ皆無。
まず一撃、会心のものを喰らわせてやる。
それから先どうしよう……まあ、なるようになるか。
僕の
魔物に対しての一撃目に絶大補正が乗ること。
高い攻撃力と合わせて僕の一撃目は、下級ダンジョンのほぼすべての魔物に有効だろう。
マナドール達が僕の投擲した石で弾け飛んだのを見れば、その威力は推して知るべしだ。
そしてそれが
なら、
「とりあえず試さないと!」
冒険しよう。
そう決意した僕と石像の睨み合いは長くは続かなかった。
地響きと共に僕に迫る
中央から僕に向かって距離を詰め、身体に見合った巨大な腕を振りかざす。
受けるのは論外。
迎え撃つのはありだが、貴重な初撃を無駄にしてしまう。
なら、回避一択。
必要な情報を引っ張り出す。
攻略され尽くしたこの魔物の攻撃パターンは大きく分けて三つ。
腕を振り上げた際はその腕を一直線に振り下ろす『石槌』。
後ろに腕を引き絞った場合は前方への『薙ぎ払い』。
肩を前に出し全力疾走の場合は『突進』。
この情報から今、
一瞬後、僕がいた場所に振り下ろされた腕は地面を埋没させ石くれを周囲にまき散らした。
受けたら瀕死必至の一撃。
でも、自重の重さが魔物の動きを制限している。
簡単に言えば、攻撃の前にも後にも隙が大きすぎるんだ。
「まず————腕をぶっ壊すっ!!」
自分の横に振り下ろされた腕めがけて、両手の力を存分に込めた渾身の一撃を振り切った。
ぶち当たった瞬間、轟音と言える破砕音が部屋中に反響する。
「――――――――――ッッッ!!!」
自身の腕が破壊されたことに取り乱したように残った片方の腕を振り回し後退する
腕の範囲から外れるようにバックステップで躱す。
自分から距離を取ってくれるのは好都合だ。
僕はポーチから石を取り出すと、距離をとり続ける魔物に向かい投擲を始めた。
一個目、二個目……。次々射出される石は弾丸のように空気を裂き、石像の足や胴体に直撃していく。
だが初撃ではないためか、その巨体を破壊することは叶わず、わずかに罅を入れ体勢を崩すだけに留まる。
たたらを踏み、しかし踏み止まった罅だらけの石像は、
「―――――――――――ッッ!」
肩を突き出しながら、明らかに僕めがけての『突進』を開始した。
地を揺らすほどの質量と全力の速度、そのまま脇目も振らず突貫してくるのだから恐怖も一入だ。
あれに当たればそのまま石像と壁の間でぺしゃんこだろう。
当然回避に徹すれば何の問題もない。
そう判断し、回避行動に移ろうとした時。
「――――?」
右手の指輪が、カタカタと鳴る。
熱い、右手が燃えるように熱を持っている。
しかし痛みはなく、滾るような力の奔流が右腕とその先の片手剣にまで伝わるような、そんな感覚。
頭を支配する、攻撃への欲求。
石像はもうすぐそこだ。
迫るごとに、その巨大さをありありと見せつけてくる。
そんな
「ふぅぅぅ——————勝負、しようか」
剣を両手で握りながら身体の後ろに回し、腰を据えて力を溜める。
前に見た、アメノの居合の真似事だ。
一歩、二歩と地鳴りを起こす巨像が迫る。
まだ、まだだ。
引付けろ、引付けろ!!
「――――――――――――ッッ!!」
そして、石像が僕を潰そうと身体を投げ出した瞬間。
今っ!!
「――――おおおおおぉぉぁぁぁアアアアアアアア!!」
恐怖と雄叫びがない交ぜになった獣のような咆哮を上げながら、僕は剣を振り払った。
手に感じる抵抗は、ほぼない。
ただ、指輪と右腕、片手剣が赤黒い発光と共に、
「――――――――――ッッ!?」
石像の身体をどんどんと吹き飛ばしていく。
削る、割る、破砕し、破壊していく。
罅が入っていた
「はぁ……はぁ……や、やったっ!」
目の前に横たわる石像はボロボロと崩れ、遂に—————原形の全てを失った。
残っているのは像の欠片と、マナドール達に比べて二回り以上大きい魔石。
欠片は時間をかけて消失していくが、一つだけ残るものがあった。
「まじ……?」
それは、『石像の眼球』。
なにより、武器や防具の素材としてかなり重宝されるのだ。
「……運が回ってきたかな、これは」
僕は片手剣を担ぎ、いつになく軽い身体で成果物を回収すると、
ダンジョン世界をカッコ良く生き抜きたいから命を賭けて極振りする Sty @sty72
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