急成長
昨日、初めて複数の魔物の討伐に成功した僕が目指すのは、当然その先。
魔物たちを掃討しながらそのダンジョンの最奥にいる
と、言うわけでこちらも当然やってきたのはギルドだ。
興奮から上手く寝付けなかった僕は、昼過ぎにギルドを訪れた。
人目を避けるように動く昨日までの僕と違って、魔物を倒したという確かな自信に後押しされるように扉を開けた。
扉が音を立てて開くと、少なくない冒険者が扉に注目する。だが僕の存在を認めると、興味を失くしたように目を逸らした。
その視線を気にせず
相変わらずすごい人気だな……。ベテランから新人まで、多くの冒険者がシエラの列に並んでいる。
他の職員の列も長いのだが、シエラのは少し異常である。
器量よし、腕よし、対応良し。まあそりゃ人気でしょって感じだ。
いつもは冒険者としての不甲斐なさの負い目から対応の柔らかいシエラの列に並んでいたが、今回はその必要もない。
僕はその横の職員の人の列に並んだ。こちらも並んではいるが、シエラの列ほどではない。
少し待つと、すぐに僕の番になった。
「こんにちは、どういったご用件……あれ、君……ノービスくんじゃん」
「え、ええ、まあ」
ギルドの受付嬢だけあって綺麗な女の人に
昔は当然蔑称として使われていたノービスだが、今となっては僕のあだ名のように使われている。
ホントは慣れちゃダメなんだろうけど……まあ、それも仕方ないほど無様だったしなぁ。
「それで?今日はどうしたの?」
「その、ダンジョンに……」
「ああ、はいはい………え、っと、ごめん。名前なんだっけ……?」
「ウ、ウルフォトです」
「そ、そっかそっか! ごめんね、ほら、ずっとノービスくんって呼んでたからさ……!」
申し訳なさそうに言いながら、職員のお姉さんは僕の情報を呼び出しそこにダンジョンに入る旨を記入していく。
この報告は行方不明になった場合の捜索や、昇級のための参考など、いろいろな用途に使用するため冒険者に課された義務である。
いつもはシエラがやってくれているため、こんなに手間取ることはないんだけど……これも仕方ない。僕がシエラに甘え続けたつけが回ってきただけだ。
そう思い、隣で作業をしているシエラに目を向けると、
「おーい!シエラちゃん! おーい!」
「―――――――」
今なにがしかの報告をしようとしている冒険者の声に反応すらせず、目を見開いて僕を見ていた。
手を止めながら、あり得ない光景でも目にしてしまったかのように固まっている。
シエラ、僕の成長を見てくれた?
シエラに頼ってばっかりだった僕はもういないんだ。これからはもっとカッコいい冒険者になっていくからね!
そんな万感の思いを胸に微笑みながらシエラに軽く会釈をした。
すると、感動のあまりかシエラの瞳に微かに、ほんのうっすら涙が浮かんだのを僕は見逃さなかった。
シエラも僕の成長ぶりに感涙。あまりの急成長に僕自身も驚いているほどだ。
「ノービスくん! 記入終わったよ、気を付けていってきてね、無理はしない!いつ死んじゃってもおかしくないんだから!わかった?」
「は、はい! ありがとうございました!」
「うん、いってらっしゃい」
■ ■ ■ ■
昨日と変わらず下級ダンジョンの『石廊の洞窟』にやってきた僕は、
「ふぅー………――――ッ!」
パンッと破裂する魔物を見送った。
これで十体目だ。
魔石と運よく出現した
これも今までの僕からは考えられない行動だ。
身体じゃなく精神面での成長。これも冒険者にとってなくてはならない要素。
僕の場合、スキル取得から魔物討伐までの流れが自信につながり、多少調子に乗ってるのかもしれないけど………それでも尻込みしてちゃ冒険者なんてできない。
ポーチには入るだけ石を詰め、これからの戦闘に備える。
『投擲』だけが僕がとれる安全な攻撃であるため、弾切れに気をつけながら奥へ奥へと突き進む。
長年僕を閉じ込めていた『石廊の洞窟』と、そこに巣食うマナドール達。
それは今、僕の障害にはなり得ない。
「――――――冒険者……続けててよかったッ!」
僕の投擲した石がマナドールを弾け飛ばす。
マナドールを貫通した石が壁を削り、原形を少しづつ失くしていく。
ただ、奥へ、奥へ。
「ダンジョン………楽しいなぁ」
嚙みしめながら呟いた僕の前には、夢にまで見た
すべてが石で構成された洞窟の中で明らかに異質なその扉は、この洞窟の主が待ち受ける関門だ。
「
無理するなって言われたけど、正直初めからここに来る気満々だった。
準備した石は全部で七個。
完全に準備不足だ。引き返すのが正解なのだろう。
でも、僕の頭はおかしな方向に燃えていた。
いつか倒してやると息巻きながらシエラから聞き続けたここの
それを試さないわけにはいかない、と狂ってしまったのかと思う程猛る脳。
なにより僕は、万年初級のろくでなしのくせに、冒険に憧れていた。
「安全マージン取りながら戦うのも当然だけど………やっぱり、冒険者だったら————ぶっつけ本番だろ。そっちのほうが冒険者っぽい!」
自分でも呆れるほどの馬鹿な思考に、それでも身体は止まらない。
やっぱり僕、イカレてるんだなぁ。
「ネヴァン、シエラ……ごめん。無理そうだったらすぐ逃げるから」
そう言い訳しながら、僕は
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