【短編】甘いのに苦いチョコレート

三毛猫みゃー

甘いのに苦いチョコレート

 彼氏に振られた。理由なんてわからない、スマホでレシピを見ながら作業をしていると、通信アプリの着信の音がなったので確認したらただ「別れよう」とだけ送ってきた、そしてブロックされた。


 おもいっきり泣きたいけど手が離せない、丁度湯煎途中で混ぜている所。ぽろぽろと涙が流れているから袖で目の辺りを拭うけど止まらない。

 

(なんで私チョコレート作ってるんだろう、もうあげる相手なんていないのに)


 それでも手を止めずに続けてテンパリングのために冷水で冷やす。涙はまだ止まらない胸が苦しい、もう放り投げて思いっきり泣いてしまおうか、なんて考えが浮かんだけど手は自然にチョコが固くならないように混ぜている。


 うん温度はこんな物かな、これ以上冷えないように適温にしておいた水にボウルを移動させる。失敗はしていないと思う、少しゴムヘラに付いているチョコを指に付けて舐めてみる、よし美味しく出来てる上出来だ。


 さっそく用意しておいた絞り袋に詰め込む。絞り袋から手のひらサイズのハートの型に入れて空気を出すために揺らす。余ったチョコは家族用に小さな色々な型に入れて同じように空気を出すためにゆする、まだ少し余っているから食器棚から新しく型を取り出し同じように作業をする。


 あとは冷蔵庫で20分ほど入れておけば完成かな……。


「はぁ」


 涙は止まっているけど心は晴れない。チョコどうしよ、家族用のはまあいい、元彼用のチョコは捨てるには勿体ないし自分で食べようかな。もうあんな奴のことは忘れよう、うんそれが良い。


 せっかく綺麗な箱と包装紙にリボンも用意したのに。色々考えながら片付けを終わらせる。ああ、家族が帰ってくる前に顔洗わないと多分涙でひどい顔になっているはず。


 洗面所に行き鏡を見ると、案の定鏡に映る私の顔は酷かった、それを見てなんだか情けなくなってまた涙がこぼれてきた。私ってこんなに涙もろかったかな……。冷たい水でバシャバシャと顔に水をかける、泣いて上気していた頬が冷めるようで気持ちいい。


 冷蔵庫を開け確認してみる、いい感じに出来ているかな?慎重にひっくり返し容器からチョコを取り外す、我ながらうまく出来ているようだ。家族用のチョコはお皿に並べて冷蔵庫に入れておく。


 問題はこいつだ、手のひらサイズのにっくきチョコレート。捨てるには勿体ない、自分で食べるのもなんか違う気がする。とりあえず見ていても仕方がないので包装だけはしておく。


 ピンポーン


 誰か来たようだ、モニターを確認するとお隣さんで親友の朋ちゃんが映っていた、どうしたんだろう?


「はいはーい、どうしたの朋ちゃん?」


「奈央ちゃんあのねチョコレート作ったの、作りすぎちゃったからもらってくれないかなと思って……」


 頬を染めながら差し出された物は、綺麗に包装された物だった。ん?作りすぎたのにちゃんと包装してるの?


「えっと良いの?」


「うん、一日早いけど(当日だと貰ってくれ無さそうだし)奈央ちゃんにもらってほしい」


 いやいやさっき作りすぎたって言ったよね。まあいいか、そうだ丁度いいからあれを押し付けてしまおう。


「朋ちゃんちょっと上がって、私も渡したいものがあるんだ」


「(もしかして)そうなの?じゃあお邪魔します」


 朋ちゃんに上がってもらいリビングで待ってもらう事にした。


「あっチョコレートの甘い匂いがする」


「あー分かる?さっきまで作ってたの、換気扇も回してるんだけどまだ抜けきれてないのかな」


 私は先程包装したにっくきチョコを朋ちゃんに差し出す。


「これって……もしかして本命?」


「え?あー、うん、そのつもりで作ったんだけどね」


「もしかして、もしかしてやっと私の思いが通じた?」


「ん?いや?なに?え?」


 祈るように両手を組み私を見つめてくる朋ちゃんの頬は真っ赤だ。えっとどういう事?私変な事言ったか……あっ。


「違う、違うから本命ってそういう事じゃないから、彼氏に渡そうと思ったけど振られたから、本命として作ったって意味で……」


「そう、なんだ、奈央ちゃん今フリーなんだ」


 いや、そこ違う、そこじゃないよ朋ちゃん、そんなキラキラした目で見つめてこないで、私にはそっちの気はない……と思うから。


「仕方ないなー今日はお互いの本命チョコ交換だけで許してあげるよ」


「えっと、うん、ありがとう?」


「じゃあ奈央ちゃんこのほ・ん・め・いチョコ貰っていくね、私の本命チョコもちゃんと食べてね、バイバイまた明日ね学校一緒に行こうね」


 それだけ早口で言うと朋ちゃんは私の渡したチョコを持って帰っていった。暫く呆然としていたけど我に返った。もうどうにでもなれの精神である、本当どうしよ。


「はぁ」


 ため息が出た、なんかもう彼氏とかほんとどうでも良くなった。目に入った朋ちゃんの持ってきた箱を手に取り包装を丁寧に剥がす。中には四角い生チョコが6個入っていた、どう見ても私より上手にできている。


 1つ取り出し食べてみる。

 

(はぁほんとどうしよう)

 

 明日から朋ちゃんとどう接するべきか考えると、甘いチョコレートも少しほろ苦く感じた。

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