受験会場に行ったはずが間違えて政府公認の殺し合い試験会場に来てしまった~ペンと消しゴムでどうすればいいんだよ!~

人形さん

受験会場に行ったはずが間違えて政府公認の殺し合い試験会場に来てしまった~ペンと消しゴムでどうすればいいんだよ!~

 胸が張り千切れそうなほど緊張している。今日が受験日だからだ。

 家は貧乏ではないが裕福でもなく、私立の高校に行ってしまえば大学に行くためのお金は用意できない程度の家計。

 つまり、この受験には今後の人生がかかっていると言っても過言ではない


 そこで目をつけたのが都立栄光高等学校だ。偏差値や倍率は高いが、その分設備が充実しており評判もよく、部活動も盛んなんだ。

 いわば名門校である。


 僕はそこに受験をしに来た。


 しかし、都立に行くだけならもっと倍率が低いところもあると言われるかもしれない。でもよく考えてほしい。

 実力主義の傾いてきた社会において、何をするにも実績というのは必要だ。

 

 そのことを考慮すると、栄光高校出身というのはそれだけで実績になる。それに、部活動が盛んに行われているため、そこでも実績を作れるかもしれない。

 であれば、多少倍率が高くとも挑戦するべきだ。


 それに、僕には夢があるんだ。

 お金をたくさん稼いで両親が老後を心配せずに生きていけるようにするって夢が。

 今の時代やはり、老後は心配な要素だ。


 なら未来ある若者の僕がいい道にいって金を稼ぐしかないと思ったんだ。


 つまり、この受験には人生がかかっている。


 ただ一つだけ、想定していなかったことがあったんだ。


 受験のための教室に行き、鉛筆と消しゴムを用意してまっていた。それから数分もせずに先生方が来た。

 その時僕はテストが始まるのだとドキドキしていたのだが、直に裏切られることになる。


 先生が教卓の前に立ち口を開いた。


「本日はプロジェクト1に参加いただきありがとうございます。」


 こんなのは知らない。

 プロジェクト1ってなんだよ。もしかしてこの学校は受験をプロジェクトと言っているのか?


「事前に説明は行き届いていると思いますが、あなた達には殺し合いをしてもらいます。」


 思わず頭の中が真っ白になった。だって受験に来たのに、実は殺し合いをするだなんて。


 いや、いや、本当なわけあるはず無いだろ?


 心のなかで否定しながら先生の顔を見る。先生はヒジョーーーーに真面目な顔をしていた。

 ドッキリや冗談という考えが消えてしまうくらいに。


「この教室に最後まで生き残っていた人は国家直属で雇わせてもらいます。もちろんリタイヤはできますので逃げたかったらいつでも。

それでは頑張ってください殺し屋の皆さんたち。」


 話は淡々と進んでおり、ついていけなかった。しかし、質問などは受け付けていないようで言うことを言ったら教室から出て行ってしまった。

 だが、これで確信したことがある。


 場所間違えた。

 そこでやっと気づいたのだが、筆記用具を出しているのは僕以外いなかった。

 

 それどころかゲームをしていたり、人によっては明らかに持っていてはいけないもの、すなわちナイフや拳銃を取り出していた。

 受験の時よりも心臓がドクドク言っており、ここにいては死んでしまう。


 どうすれば殺されないのかすぐには答えが出なかったが、さっき先生が言っていたことを思い出した。


 たしか、教室から出ればリタイヤになるって言っていたよな。

 ならすぐに出てよう!


 決心した僕はまだ誰も動いていない教室の中で筆記用具をまとめ始める。

 なんでまだ殺し合いが始まっていないのか分からないが、再度ドッキリだと考えるのには拳銃の威圧感がありすぎる。


「おいてめぇ! 何やってんだ!」

 

 うん。すぐに出よう。

 明らかに学生ズラではない強面のお兄さんを無視しながら荷物をまとめる。


 よし! できるだけ刺激しないようにしていたからゆっくりになってしまったが、荷物を鞄にしまい終わった。


 これでリタイアができるぞ! と席から立ち上がると……


 なぜか乱闘が始まった。


「ぶっ殺して…ぁ」

「ブサイクは死んでいろ! グハッ、なんでナイフが刺さっている!」


 僕が席を立ったことを皮切りにそこら中から戦闘音が鳴り響くのだ。

 さっきまで静かだったのになんでこんなことになっているのか分からないが、もう何も考えずに教室から出てやろう。


 教室から出てしまえば殺し合いなんてしないでいいはずだから。

 床に転がる死体を踏まないように避けながら最短距離で扉に向かう。


 左では首が飛んでおり、右では噴水のように血液が噴き出している。恐怖で膝がガクガク言っているが、歩かなければリタイアできない。


 頑張って歩き、やっとのことで扉の前へ着いた。無限とも思えたあの道のりは終わったのだ。

 だが、まだリタイアをさせてくれないみたいであった。


「あれ、リタイアするの?」

「へ?」


 僕より1~2歳ほど年上に見えるクールなお姉さんが僕に声をかけてきた。どれだけ美人であっても命の危機にさらされていたら欲情しない。

 無視してリタイアしたいが、この人も殺し屋さんと言う事を思い出して顔面蒼白になり、手が一切動かない。


「君ほどの暗殺者が、なんでリタイアするか分からないけど……」

「暗殺者??? ぼ、ぼく暗殺者なんかじゃないんですけど」

「へ~、こんな時まで用心深いね。確かに情報を取られるのは命に関わる事だからそれくらい警戒した方がいいのかも知れない」

「だ、だから暗殺者じゃないんです。ここにも間違えて来てしまって」


 お姉さんは僕がごまかしているように思っているようだが、まんま言葉の通り案シャツ者になった覚えなんてない。


「そんな事言ってもごまかせないよ。こんな惨事を起こしたのは君なんだから。凄いよね最低限の行動で、自分以外を殺しきらせるように仕向けるなんて」

「何のことを言っているんですか」 

「いまだって里の者に情報収集させているのに、一向に報告が無い。よっぽどの組織に入っているのかな」


 一方的に喋り、話を聞いてくれないので勘違いしまくっている。そもそも暗殺者とか里とか組織とか、なんだよそれと言いたい単語が沢山あるので、訂正しようにも何を言えばいいのか分からない。


「でも国家直属の部隊に慣れるなんてを棒に振ることは出来ないから……殺らせてもらうよ!!」

「!!!」


 もう話したい事は終えたのか急に武器を取り出し斬りかかってきた。しかし、なんでそんな所にいれているんだよと言う場所から出しており、僕は武器を持っている事すら気付かなかった。

 気付いたのはその女性が目の前で倒れたからである。


 なぜか口から血を吐いて倒れたのだ。


「???」


 何が何だか分からず泣きながら発狂したくなってくるが、そんな事をしてしまえば注目の的だ。

 だからこそ今度こそは出来るだけバレないように、扉に手をかけた。


 もう一度声をかけられるなんてことにはなって欲しくないのだ。

 

「ごぽ……何をした」

「……」


 扉を引こうとするが手に力が入らない上に、古びているせいでタイヤが硬くなっており上手く行かない。

 今度は両手で開こうと、手をかけて力を入れるがまだ力が足りないようだ。


「クソ……せめて道ずれにしてやる!!!」


 しかし少しは空いてくれたので、そこに手を入れて押してみる。小さい取っ手に指先のみの力をかけるよりも、手全体を使った方が開けやすいのだ。

 そう思っていたのだが、その前に解決しなければいけない問題が出てきた。


 目の前で倒れた女性が懐から、手榴弾と思わしき物を取り出したのだ。それもピンを外して。


「はあ! 何してんだよ!!」


 思わず大きな声を出す。周りに注目されるとか、もうどうでもいい。それよりも目の前で爆発しそうな手榴弾の方がヤバい。

 なんてことをしてくれたんだと、怒りながら女を見るが事切れている。何とか出来るのは僕しかいないわけだ。


 さあ、どうするか。と考える暇すらないのは承知の上。無我夢中で遠くに飛ばすしか選択肢が無いのだ。触りたくもないが手に取り、僕がいる扉側の角とは対角の方に思いっきり飛ばす。


「オラァ!!」


 あまり鍛えていなかったから、影響がない距離まで飛ばせるか分からなかったが、火事場のバカ時からが出たのか、一番奥に飛んでくれた。

 それを確認した僕は……安全のために出来るだけ距離を取ろうと扉を開けて走るのであった。その時はリタイアとか頭になかった。爆発で死にたくないと一生懸命だったのだ。


 バッゴォォォォォン!!!!!


 その甲斐あってか、爆発に巻き込まれる事は無かったのであった。しかし教室は見る後も無いような有様になっており、爆発の余波だけで廊下の窓ガラスが割れ散らかっているのだ。


「何だったんだよもう」


 

 


 そこは爆発跡がのこる教室を写しているモニターがある。


「やべー奴が来たな」

「え、今のどこがやばいんですか?」

「おいおい、わからねぇのかよ。その目は何のためにあるんだ?」

「いや、爆発後は見えますよ。でも偶然でしょ。目の前に落ちた爆弾をギリギリのところで投げただけですから、少年が何かしたわけではないでしょ」


 どんだけ火薬を詰めたんだと問いただしたくなるような爆弾がたまたま目の前に落ちただけ。

 少年は何もしていないのではないのか?


 モニターに映る映像を見るだけでは、それ以外の感想が出てこない。


「だからもっとよく見ろよ。本当に節穴なんじゃねえか?」

「どういうことですか」


 映像を巻き戻す。どこまで巻き戻すのかと言いたくなるほど戻し……なぜか試験が始まる前まで戻った。


「よく見とけよ。こいつがどれほどヤバイのかすぐにわかる」

「はぁ?」


 そのまま再生する。すると殺し屋がどんどん入ってきた。順々に席についていく。

 そして、席が半分埋まった頃少年も入ってきた。


 そして、教室の丁度真ん中の席に座る。


「覚えとけ。すべての行動に意味をもたせることができるやつは死ににくい」

「真ん中に座ったのも計算のうちということですか?」

「そうだろうな。俺もこのときは気づかなかったが、今になっては意図的に中央に座ったとしか思えない」

「ですが、席の順番はランダムでしょう?」

「そのはずだよなぁ」


 殺し屋を一度集めたあと、教室に移動しているのだ。だから、席順は教師によって決められている。そこに殺し屋の介入はできない。

 そのはずなのだが……


 そのまま映像を流し続け、殺し屋が全員教室に入る。

 その時なぜか止めた。


「ここだ、よく見てみろ」

「どこですか?」

「手元だ、文房具を出している」

「武器でしょうか? まあ、不思議なことではないでしょう」


 実際他の殺し屋を見ればナイフや針を出している。文房具という武器らしからぬ見た目ではあるが、仕込み武器であれば他と同様だ。


「いや、そこじゃない。文房具を机に置いているんだ」

「? ……あ。」

「仕込み武器であれば丸裸の状態で出さないほうがいい」

「仕込みがバレてしまうからですね」


 ペンであればなおさら小型であるからだ。仕込みを行える場所は限られている。つまり仕込み武器を見慣れている奴らには、どんなものが仕込まれているのか簡単にバレてしまう。


「だが出している。その上……どんな仕込みがされているのかわからないんだ」 

「わからない? あなたほどの人が?」

「あぁ。どこをどう見てもただのペンだ。俯瞰している俺ですらわからないのだから同じ教室にいる奴らはどう思っているんだろうな」


 戦慄しているだろう。武器を見せびらかしているのに、何をしてくるかわからないなんて。

 情報は命だ。


 殺しを行なう時は必ず相手の情報を集める。この教室にいる殺し屋たちもそうしてきただろう。


「この時点でこいつは警戒対象になった訳だ。教室にいる殺し屋たちが一挙一投足見逃さないように注目している」

「……気付きませんでした」

「しょうがないさ。俺だってこの時は気付かなかった。だが、こいつにとってはこの時点で仕込みは終わったんだろう」

「どういうことですか?」

「教室の中央に陣取って周りの殺し屋たちを警戒させた。こいつか動けば周りも反応する。」


 例えば少年がペンを持ったとして、周りは何をしてくるか分からないから警戒を強めなければいけない。


「だから試験が始まったとしても誰一人動いていなかったんですか」


 映像を進め試験開始の合図をしたところにする。そこには開始したはずなのに1人も動いていない様子が映し出されていた。


「にらみ合いだな。もし動けば他の誰かに殺されてしまう。こいつを警戒するのは当たり前だが、それ以外も警戒しなければいけない」

「でも、少年が動いた」

「均衡状態だったはずなのにこいつが動いただけで周りは乱戦だ。右では銃撃戦。左では取っ組み合い。警戒されている状態を上手く使ったんだ」

「凄いですね」

「それにだ。こいつには銃の玉一つ飛んできていない。」

「……本当ですね」

「全員がこいつの事を警戒していたはずなのに、だ。警戒していたはずのターゲットは誰とも戦わない。こんな事狙ってやらなきゃ出来ないだろ」


 運が良かった程度に考えていたはずなのに、説明されたら驚愕の嵐だ。もしこんな殺し屋に狙われでもしたら、防ぐ方法があるのか考えても答えが出ない。

 背筋が凍るとはこういう事を言うのだろう。 


「んで、その乱戦を横目にドアの前まで歩いて行った。……そうだ、こっから先はお前が自分で分析しろ」

「え?」

「まあ、分析とはいっても今までの常識は通用しねぇだろうから、分からなかったら聞きにこい。」

「分析、ですか。もうこれ以上見る所が有るんですか?」


 ここから先はドアの前まで行って爆弾を投げただけのはずだ。


「おいおい、一回眼球洗ってきた方が良いんじゃねぇか?」

「でも、不思議なところはないでしょう?」

「でもじゃねぇよ。なんで古来日本組織の忍びと会話しているのか。なんで倒されたのか。ドアのとってに手をかけているのに開けないのか。考えれば無限にあるだろ。ほら行った行った」

「は、ハイ!!!」


 




 

 後に、この試験は映像と共に流出し殺し屋の界隈で広まっていった。殆どの殺し屋がフェイクだと馬鹿にするが、それでも少年の緻密な行動を無視することは出来ない。

 

 だから言われたんだ。畏怖し恐怖し同じ人間である事すら疑問に思えてくるからこそ、少年は運命を操っているんだと。

 


 

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