第26話 異世界サバイバルめしパート2 (土器と石器Ver.)
材料を集めて色々と作っていたらもう日が傾いてきた。
そろそろ木の実やベリーの採取と、ウネウネ罠の回収をしてこないと。
「シュガルイン。
またお留守番と火の番をお願いね?」
チロチロと舌を出すシュガルインをみて、やっぱり私の言うことを理解してるんだなぁと感心してしまう。
チビカピさん達もこの森の仕組みをわかっているようだし、ジュガテインさんなんて人の言葉を話せる。
みんな私よりもこの森のや周辺のことを知っていて、ずっと前からここで暮らしている。
私が知っていることは限られているので、困った時は彼らの生きる知恵もかりよう。
木の実を集め、ベリーも片手におさまるくらい収穫して新居に運ぶ。
日が暮れてしまう前に池へと足を向ける。
池につき、早速ウネウネ罠を回収しにいく。
今日は1匹の小魚が罠にかかっていた。
体長は10cmちょっとくらい。
ウネウネ罠の隙間を通れないギリギリの大きさだ。
魚は水から揚げると体温調節や呼吸がうまくできないので弱っていく。
放っておけばそのまま弱って死んでしまうのだけれど、弱っていく過程で内臓や脳などにもダメージが蓄積され続ける。
そして体内が機能不全のまま弱りきって死んでしまうと、傷みが激しく腐臭もすごい。
そして、きっと魚にとっても苦しくて痛い時間が長い。
私が魚を獲る目的は私自身の生存の為で、魚にとっては厄災そのものだけれど、何も魚に恨みがあって苦痛を味わせたいわけではない。
捕えた魚はその場で首の骨を折ってすぐに絶命させる。
その方が、魚は苦痛に感じる時間が短い。
そして、私の都合でもあるけれど、内臓や脳へのダメージも少なく、傷みの少ない状態で持ち帰ることができる。
首を折った魚とウネウネ罠や目印の枝を持って、池のほとりに這い上がる。
持ってきた石ナイフで魚の腹を裂き、内臓を抜き取り、血抜きをする。
昨日まで使っていたチビカピさんの前歯では、これほどきれいな切断面で調理することはできなかった。
石の形や固さがあってこそ、できる調理方法も変わってくる。
捕ったお魚をこんな風に調理することができるのは、動画で様々なお魚をさばいてみせてくれたあの人やあの人たちのおかげなので、異世界に来ちゃったけど感謝しております。
動画の方々のおかげで、しっかりと頭と背骨も切り離すことができた。
今日は身を焼いて食べて、頭と背骨、その周辺の身は土器で水と一緒に煮出してスープにて食べようと思う。
土器があることで、少し肌寒い夜や朝に暖かい飲み物が飲めるようになったのはありがたい。
捕れた魚と罠を手に、新居に戻ってきた。
すでに薄暗くなりつつあり、斧やセレーションを試すのは明日になりそう。
これから晩ご飯のお料理の時間だ。
焚き火に薪をくべて火力を上げた。
平たく作った土器の上に大きな葉を置いて、その上に魚の身の部分をのせて、コケも少しちぎってふりかけて焼いてみる。
割れた土器で汲んできた池水を、別の土器に移し替え、魚の頭と背骨を一緒に煮込む。
煮ている間に採ってきた木の実を大きな葉で包んで、その上から石袋の重さで軽く潰す。
沸騰して魚に十分に火が通ったところで、潰した木の実を加える。
小枝で作った箸で焦げないようにかき混ぜながら火にかける。
全体的に混ざったところで火から遠ざけておいた。
魚の身が焼けるまでスープを冷ましながら待つ。
「シュガルインもご飯にする?」
シュガルインは焚き火を見つめたまま動かない。
いつもみたいに舌も出さない。
どうしたんだろう?
シュガルインの目の前で手を振ったり、かざしたりしても全く反応しない。
前足の間にある肺は規則正しく動いているようで、生きていることは間違いない。
身動ぎせず、ただ焚き火を見つめている。
機嫌が悪いとか?
少なくとも、今はお腹は空いてないのかもしれない。
魚の焼けるにおいがしてきたので、そろそろ私はご飯にするけれど、動かないシュガルインは少し気がかりだ。
しかし、昨日はたくさん火を食べていたが、今日はほとんど食べなかった。
もしかすると危険な兆候?
でも、ジュガテインさんはたくさん食べたら数日は間をあけても問題ないと言っていた。
もう少しだけ様子を見て、明日になっても食べないようなら、1度ジュガテインさんのところに連れて行って、どうしたらいいのか聞いてみよう。
晩ご飯が完成し、先にスープを飲んでみる。
土器も冷えてきていて、油断さえしなければ何とか持てるくらいにはなっている。
しかし、中のスープはまだ温かいようで、少し湯気が立っている。
舌をやけどしてしまわないように恐る恐る口をつけ、スープを1口含む。
木の実で少しトロミが付いて、温かくて魚の骨や頭から若干の旨みが出てきていて、美味しい。
味は、正直に言えば薄味のさらに減塩的な超薄味なのだけれど、魚の風味は感じられるし、木の実がふにゃふにゃになっているので食べやすい。
骨についていた少しの身が木の実と絡まっていて、木の実を単体で蒸して食べるより、格段に美味しく感じる。
満点はつけられないけど、優しくて美味しい味わいで満足できるものにはなった。
調味料のお塩やお醤油やお味噌があるともっと嬉しい。
一方、絶対に外れないであろう焼いた魚の身の部分に目を向ける。
これまで骨や頭が取り除けずに、実に豪快にかぶりつくしかなかった。
食べにくく、大きな骨で口の中を傷つけないように注意が必要だった。
けれど、今日は切り身の状態なのでほとんど危険はない。
よく味わって食べることができた。
今日はあまり身の多い魚ではなかったけれど、石のナイフでフィレにでにるようになったので、焼く・蒸す以外の調理方法も模索してみたい。
油があれば、木の実の粉をまぶして揚げるなんてこともできるかもしれない。
基本的には生きた状態で捕れるので、新鮮さを活かしてお刺身で食べてみるなんてこともできるのかもしれない。
お醤油がなおのこと恋しい。
元の世界の食文化は、1人で再現することが難しい。
無い物ねだりになると精神的にも良くないので、今できる贅沢を堪能しよう。
食後に採れたてのベリーを食べながら、焚き火と森の不思議な光、そして夜空を眺める。
「この景色をゆったりと眺めることができるだけでも、100万ドル以上の価値があるかもしれないよね」
星々の瞬きやキノコや苔がぼんやりと放つ光。
そよぐ風に揺れる葉音や、焚き火の火の粉が爆ぜる音も心地良い。
疲れと美味しいご飯の満足感で、私の感じる今をゆったりと流れる時間として際立たせてくれる。
幻想的で素晴らしい景色をみながら、この5日間を思い起こす。
初日は食べるものすらなくて、何とか見つけた池の水を工夫して飲んだり、めちゃくちゃ体力を消耗しながらも何とか火をおこすことができた。
2日目には、ルブランにもらった木の実と、自力で捕った魚を食べることができた。
3日目に大雨の中、逃げ込んだ洞窟でジュガテインさんやシュガルインと出会った。
4日目の昨日は雨をしのげる新居探しをして、この岩の窪みを発見し、石でツタ集めをしてベッドを編んだ。
3日目から作り始めた土器は2日半かけて今日、なんとか使える状態にまでなってくれた。
色んなことをぎゅっと詰め込んだような5日間だった。
焚き火の近くで動かないシュガルインが気がかりだったり、まだまだやることがたくさんあるけれど、一先ずは危機的な状況から脱することができた。
今日作った土器や石器を活用しつつ、明日からも快適な生活のために頑張ろう。
異世界ブッシュクラフト アルターステラ @altera-sterra
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