第24話 デマについて【福原岬】

 会議には色々ある。


 プレゼン、最終企画案、中間報告、他社からの案件、問題トラブルに関するものと様々。


 そして今日、企画部でプレゼンの会議があった。うちからもプロデューサー達が出席。


 企画が通れば、プロデューサーからマネージャーに声をかけられる。

 ゆえにマネージャー達は少しそわそわしていた。


 どんな企画が通ったのか。それに担当するVtuberが関わるのか。

 特に空きのあるVtuberを担当しているマネージャーは落ち着こうにも落ち着かないらしく、キーに手を置いているが、指はキーを叩いていない。


 プロデューサーの1人が会議から戻ってきて、マネージャー達の席へ近づいてきた。


 目線と耳を立てるマネージャー達。


 私は次の大型コラボの準備や5期生の生誕祭やらで関係ないと考えていたため、声をかけられた時は本当に驚いた。


「えっ!? なんですか!?」


 声をかけたプロデューサーは、社内組の2期生をプロデュースした大河内光弘。


「そんな鳩が豆鉄砲を食らった顔をするなよ。ちょっと話がある」


 大河内さんそう言って歩き始める。

 仕方なしに私はパソコンの作業を中断して、大河内さんの後を追う。


「で、何ですか?」


 小会議室へと連れられて私は大河内さんに尋ねる。


「言っておきますが、大型コラボ『グラフリ』と5期生生誕祭イベントで忙しいですからね」


 大型コラボ『グラフリ』とはペイベックス女性Vtuber0期生から6期生を集めた大規模イベント。

 前年は失敗したが今回はバランス調整をしての開催。


 5期生達はその頃デビューしたばかりであり、イベントには参加していなかった。

 そのため今回は講習を兼ねての練習が設けられている。


「コラボではない。ハリカーについてだ」

「ハリカー? もしかして正月のですか?」


 世間からすると正月なんてまだまだ先の話だが、この業界では正月を休めるようにするため、前もって準備や収録を済ましている。テレビ業界に至ってはすでに特番用の収録を秋に済ませている。


「それじゃな……くはないが、今はチートについてだ」

「それは……デマです」


 チートデマとはオルタがこの前のキセキカナウとのハリカーコラボでイニシャルカーブやドラフトのミニターボを使っての追尾ロケット回避の件だ。


 ネットではそれらの技術がチートプレイではないかと騒がれている。


 そしてそれらはデマである。

 オルタは一切のチート行為をしていない。


「わかってる。それはな。ただ、そうではなくて、どうすべきかとな」


 大河内さんは難しい顔をして息を吐く。


「そういうのは基本無視でしょ? ネット連中なんて証拠を見せても信じない人が大半です」

「普通ならな。だが、今回は少し違う」


 確かに今回は普通のデマではない。

 四皇の1人、キセキカナウ関連でもない。


わめいているのは国内外のプロゲーマーだ」

「ええ」


 オルタのチート疑惑については国内プロゲーマーだけでなく、海外のプロゲーマーもネット上で意見を述べていて、その多くはチート行為と考えいる。


 中には自身でイニシャルカーブの練習を配信して、オルタがチート行為をしていると証明をしている。

 私からすれば自分の下手さをオルタのせいにしているだけだ。


「このまま鎮火出来なければ、ペイベックス正月ハリカー大会も不参加としてもらうことになるかもしれん」

「なぜですか? 逆に不参加にしたら、こちらがチート行為を認めたと言われますよ」

「だが、オルタ1人でペイベックスVtuber全員に火の粉が降りかかるのもいけないだろ? それにオルタは正式なVtuberではないんだ。正月は参加していなくても問題ないだろ」

「……なるほど。それなら今度のグラフリにも正式Vtuberでないオルタを不参加にしても問題ないですね」


 私は怒りを抑えて、努めて笑顔で答える。


「待て待て、それは参加しろ」

「なぜです? オルタは正式なVtuberではないのでしょ? それなのに大規模イベントには参加だなんておかしいでしょう?」

「前回失敗したんだ。今回は成功させなくてはいけないだろ?」

「それは社内組だからですか?」

「……」


 大河内さんは苦虫を潰した顔をする。


 前回そして今回の大型コラボ『グラフリ』は社内組の大河内さんを中心に企画されたイベント。


 前回失敗した大河内さんは次の『グラフリ』で名誉挽回をと考えているのは周知化されている。


 別に私個人は社内組の一員という自負はない。あくまで社内組がプロデュースした5期生のマネージャーなだけ。


 だから社内組とオーディション組のいさかいで頭を悩ませられるのは御免被ごめんこうむりたい。


「福原、俺は別に意地悪を言っているわけではない。俺だって本当は正月ハリカー大会にオルタに出てもらいたい。星空みはりだって期待しているはずだ。けれど今回は海外プロゲーマーが喚いているんだ」

「なら、どうするんです?」

「チート疑惑が払拭ふっしょくされればいいんだが……」


 それが出来ない。だから正月ハリカーは不参加。しかし、それだと大河内が賭けている『グラフリ』も不参加。


 ジレンマに悩まされた大河内は腕を組んで悩む。


 そこへノックがされ、大河内が返事をする前にドアが開けられた。


「大河内さん、大変です」


 ドアを開けたの大河内班の男性スタッフだった。


「おい、今は会議中だ! あとにしろ!」


 八つ当たりを含んだ怒気が飛ぶ。


 しかし、スタッフは臆することなく、


「すみません。でも、大河内さんに早くお耳に入れておくべきと考えて……」

「なんだ?」

「実はオファーがきてるんです。赤羽メメ・オルタに。今度のロスで行われるWGE。そのWGE内でハリカーのエキシビションマッチがあって、そこに!?」


 倒置法で言われたが、すぐに内容を理解して大河内さんと私は揃って驚いた。


「「ええっーーー!?」」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

Vtuberをやっている妹のパソコンを勝手に使ったら、配信モードになっていて、視聴者からオルタ化と言われ、私もVtuberデビュー!? 赤城ハル @akagi-haru

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画