第23話 休講開け
新型コロナにによる大学の休講が明けて、今日から開講だ。
朝、起きてスマホを確認すると起床には早すぎた。
けれど二度寝する気もないので、私は自室を出て、1階のリビングに向かうと制服に着替えた妹が食パンを食べていた。
「あれ? あんたも今日から学校だっけ?」
「そうだよ。もうコロナも治ってるし」
私は洗面所で顔を洗って、リビングでテレビを見ながら食パンを食べる。
「それじゃあ、行ってきます」
妹がスクールバッグを持って、リビングを出る。
「忘れ物ない?」
母がダイニングから声を出して妹に聞く。
「ないよー」
廊下から妹が返答する。
そして玄関のドアが開いたのを私は聞いた。
「あんたは急がなくていいの?」
母がリビングにきて、私に聞く。
「今日は2コマ目からだから」
ここから大学まで約1時間はかかるが、2コマ目は11時からでまだ余裕がある。
◯
午前9時50分、駅で豆田と会い、一緒に通学。
「おはよう」
「おはよう。文芸論のレポートはやった?」
「やったよ。てか、なんであの講義だけ自筆で提出なんだろ?」
他の講義はメール添付かプリントアウトなのに文芸論の講義だけは謎の自筆提出。しかもボールペン以外の鉛筆やシャーペンは使用禁止。
私達は改札を通り、ホームへ。
「コロナ禍の時に悪質レポートがあったのよ」
ホームで人の列に並びつつ、豆田が答える。
「悪質レポート?」
「文芸論のレポートって指定された作者と作品についてでしょ?」
「そうそう。太宰治か坂口安吾のどっちかを選ぶようにって言われた」
作品は指定された作者のものであるなら自由だった。
私は太宰治と走れメロスを選んだ。
走れメロスはメジャーな作品だし、執筆された経緯も有名。
「それで一部のグループがグルになって、色んな論文から引用したの」
「でも、それって文献調査法でしょ?」
最後に法と付けられているけど方法の法である。
レポートや論文作成時に他から引用することは問題ないはず。
「レポートがコピペの集合体なのよ。他の人も順番が違うだけで中身が同じだったりするし」
「なるほどねー」
そこで電車がやってきた。
◯
大学最寄駅に降りて、コンビニでおにぎりとペットボトルのお茶を買った。
そして文学部棟の掲示板を確認。
予定変更は何もなかった。
ピロティエリアで桜庭と美菜を見つけた。何か楽しく話しているようだった。
「おはよう。何話してたの?」
「おはよう。ちょっと配信者について話をしていたの」
桜庭が答えた。
「配信者?」
「そう。まあ、配信者というかVtuberことね」
「Vtuberとか知らないんじゃなかったっけ?」
「弟のせいで少しだけは知ってるの。で、Vtuberやゲームについて美菜と話をしていたの」
そういえば前に弟のせいで名前は知ってるとか言っていたっけ。
「えー、でも詳しかったよ」
どこか意地悪く美菜が言う。
「弟のせいよ」
桜庭はそっぽを向いて答える。
「本当はリスナーなんじゃないの?」
後ろから声を発せられた。
私達は振り返って相手を確認する。
声の主は種咲であった。
「弟がテレビで見てるのよ。それで嫌々よ」
「ふーん。で、Vtuberの何を話してたの?」
「キセキカナウよ。この前、オルタとハリカーコラボしてたの。それの話」
オルタという名前を聞いてドキッとした。
「それ私も知ってる。見てはないけど」
「ん? 見てないのにどうして知ってるの?」
と、私が聞くと種咲は「ネットで話題になってたから」と答えた。
キセキカナウは四皇の1人。それで話題になったのだろうか。
「オルタがチートプレイしたんじゃないのかって」
「…………は!?」
「だからオルタがハリカーでチートプレイしたのではないかという疑惑がネットで話題になったのよ」
「チートプレイ? 何それ?」
桜庭が聞いた。
「イニシャルカーブとか追尾ロケット回避とか」
「あれは技でしょ?」
「けどネットではチートプレイって話題だよ」
チートプレイ……私が?
チートって違法プログラムとかだよね。
どうして私が?
「馬鹿ねえ」
桜庭がやれやれと言った感じで答える。
「何よー!」
「いい? チートプレイはあの配信で参加していたリスナー集団よ。レート調整とか集団での参加って、どう見ても違法よ。しかもゴースティングに徹底マークよ。悪質すぎ」
「うん。あれは違法だったよ」
美菜もうんうんと頷く。
「でもネットではオルタの方が話題だよ」
「デマよ。デマ。負けた腹いせに言ってるのよ。どうせああいう奴らって、小学生から使ってる学習机にパソコン置いて、チーズ牛丼食べてる40代以上のパーカーを着た童貞陰キャのハゲクソデブマザコンニートおっさんよ」
「おいおい桜庭さんや、言葉が過激すぎやしませんか? ネットのヘイトワードを詰め込みすぎだよ」
「別に」
桜庭は不機嫌そうに明後日の方へ顔を向ける。
「ん? 千鶴どうした?」
種咲が私の様子を気にしたようだ。
「あ、いや、別に」
チートと言われて少しながらショックを受けていた。
「ねえ? それより早く教室入らない?」
豆田の言葉に私達は教室へと移動した。
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