4

 奴の目は薄く、肌も病的に白い。鏡を見せると、奴は見たくないと言って逃げ出した。


 俺は追わない。


 手鏡を観ると、俺は目から血を流して痛む。裏、表。醜いのだ、見たくないほどに、無意識に目を逸らすほどに。

 色が反転し世界を見る。人形のような人は笑い、桜は散り、ガス臭い。照明が切れかけ、ビルが崩れ去る。





 *





 整えられた部屋に二人、入り混じりながら起き上がった。太陽が刺す。

 香水の匂いが漂い、彼女は惚としていた。


「あぁ、目、醒めちゃった」


 太陽の覗く窓を開けると、銀世界が広がっていた。


 山々に残骸がのしかかり、陥没した地下に鉄道が飛び出し、車体は今にも落ちそうだ。


「不思議だよね、この町」


「不思議だ。まるで別世界、まさに別世界」


「明日から仕事だよ?じゃあ、いこっか」


 結局、夢に出る男は謎のままに消えた。

 上着を羽織り、キャリーケースに汚れた服を詰め込んで、サラサラとした道を行く。夕方五時とは思えないほどの静寂さ。あちこちに転がる瓶の中身は無色透明の液体。人は皆、眠っている。


「三連休も終わりか、残念だ」


「続けてもいいんだよ?」


「いいんだ。また追われるだけだから」


 彼女は納得した表情で頷いた。綺麗な顔が夕陽に照らされ、腕を組んで歩いている。


「そうだ、この鏡を……」


 渡そうとあちこち弄るが、割れていた。僅かに残った鏡面には、薄い目が映っていた。


「どうしたの?涙」


 ただいまと言うべきかもしれない。



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夢見の副作用 黒心 @seishei

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