お日様の匂い

大隅 スミヲ

お日様の匂い

 こどもの頃から、天気の良い日に干した布団の匂いが好きだった。

 あのお日様の匂いを嗅ぐと、とても幸せな気持ちになれるし、ぐっすりと眠ることが出来るのだ。

 だから、いまでも天気の良い日には、かならず布団を干してもらうようにしている。

 妻は毎回干すのは面倒くさいと文句を言ったりもしているが、俺は頼み込んで干してもらっていたりする。


 そんな話を会社でしていたら、課長が笑いながらこんなことを言いやがった。


「あれって、死んだダニが発する臭いらしいぞ」


 その話を聞いた時、俺は愕然とした。

 まさか、俺は死んだダニの臭いが好きだったのか、と。


 家に帰って、妻にその話をしたところ、妻は笑ってその話を否定した。


「そんなわけないでしょ。それ、都市伝説みたいなもの」

「そうなのか?」

「そうよ。きょうも天気が良かったから、お布団干しておいたわよ」

「そうか。ありがとう」

 俺は妻の優しさに感謝して、寝室へと向かった。


 今日も布団からは、お日様の匂いがした。この匂いを嗅ぐだけで俺の疲れはすべて消え去る。



☀ ☀ ☀ ☀



 お日様の匂い。

 その正体については、諸説ある。

 しかし、ダニの死骸の臭いというのはデマであり信じる必要はない。

 科学的な検証によれば、洗濯物に残っている皮脂や洗剤などの残留物に太陽の光に含まれる紫外線などが当たることによって起きる化学反応によって生成される、アルデヒドやアルコール、脂肪酸などといった成分が『お日様の匂い』の正体だそうだ。 


☀ ☀ ☀ ☀


 妻は真実を隠していた。


 今日は天気が良かったが、実は布団を干してはいなかった。

 なぜなら、ママ友たちとのランチ会があったためだ。


 その代わりに、お日様の匂いがする消臭剤を布団にシュシュっとしておいた。

 あの消臭剤の匂いは完璧だ。


 夫は何も知らない。これが偽りの真実であるということを。

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お日様の匂い 大隅 スミヲ @smee

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