第87話 テンバイヤーカレシ=サン、ハイクを詠め


 というわけで俺とアカ先輩は「温泉旅行券」と「プレイタウン5」、他にも商店街からの副賞で色々な食材などを頂いた。温泉旅行券は由緒正しいとある温泉に旅行することができる券で、どこぞの学園では栄光を掴んだトレーナーさんがなんとか娘さんもしくは同僚と行く場所で激レアな旅行券らしい。


 ……えっ、これいつかアカ先輩と行くの、俺?


 ちなみにプレイタウン5は今プレミアがついてエグいことになっている最新ゲーム機で、今は定価の5倍近い値段がついている。商店街が景品に本気出した結果がこれだよ!!

 一方でズンチャカとおどっていたいじめ女コンビは普通に圏外で草生えますよ、得意なフィールドが違ったよね残念だったね。参加賞の商店街商品券は貰えたみたいだからそれで満足してほしい。


 あと戸成は俺達が躍っている間トイレに籠っていたのと、それに加えてすずめちゃんも付き添っていたおかげで俺達のダンス(とチュー)をみられることがなかったのは幸なのか不幸なのか。でも2人は入賞してお肉屋さんから豪華焼肉セットとか結構いい商品貰っていた模様。表彰式の後、着替えをしているアカ先輩を待ちつつ戸成コンビと軽く雑談をしていた。


「わりーなタロー、かき氷食べ放題で食べてたらおばちゃんたちがどんどんかき氷だしてくれるから食べ続けたらお腹ピーピーになって出番以外トイレに籠ってて、すずめちゃんに付き添われてたんだ……。タローの踊る姿を見逃すなんて一生の不覚なので腹切るわ」


 そういえばイベント会場でかき氷無料やってたっけ。そりゃ戸成みたいなさわやかイケメンが気持ちよく食べる姿みてたら商店街のおばちゃんたちもかき氷わんこしちゃうよなぁ。

 そんなこんなで悲しみと無念さのあまり銀河レンジャーの青色ゴリラみたいな泣き顔で号泣している戸成をすずめちゃんがフォローしている。


「完全にわんこそばになってまちたもんね……。全部食べた沖那君はえらいでちよ」


「まー気にすんな戸成、機会があったらまた見れるさ」


 なんだかんだで戸成とすずめちゃんも仲良くしているようで良かった、本当に良かった。2人が仲良くしてるのみると涙腺がうるっとしちゃうよ。

 戻ってきたアカ先輩の姿が見えたので、俺達は商品を抱えつつ会場を後にした。疲れたのと一旦商品をおきに俺のマンションにいく事にして、アカ先輩と一緒に歩いていたけれどお互いさっきのチューのこともあってか言葉少なくなんだか恥ずかしい。

 何かを言おうとするとお互いに同じタイミングで何かを言おうとしたりして気恥しさに話がうまくできなかったり、うむむ。


 そんな風にもじもじしながら歩いていたけれども、人通りの少ない商店街の裏通りに通りすがったところで後ろから呼び止められた。


「待てや小僧。その景品はどう考えても俺のもんだろうがよ」


 呼ばれた声に振り返ると、そこにはいじめ女の彼氏のラッパーヤンキーさんとそのお仲間らしき集団がいた。なんだ?と思いつつアカ先輩を背後に庇いつつ、明らかに剣呑な雰囲気を醸し出す男たちに言い返す。


「何言ってんスか?これは俺達が正々堂々勝負して勝ち取ったものですよ」


「ザッケンナコラー!!あんなの完全にグルじゃねーか卑怯者がよぉ!!俺のプレタウ5を横取りしやがってぇ!!」


 どうやら生演奏を含めて手をまわしていたことが気に入らない様子で大層ご立腹。でも完全に言いがかりすぎるっすよ。案内にのっとって出来ることを積み上げただけの事である。


「はぁ……?案内にかいてあるでしょ。

 つーかそんなにゲーム機欲しいなら買えばいいんじゃないですか、大人なんでしょ、そんなにやりたいゲームあるんですか」


「ゲームを遊ぶぅ?

 ハッハァ!!違ぇーよ……俺達は転売ヤーグループなのさ!!

 ミニモンカード、魔術王カード、ダブルピースカード、他にもギャムダンのプラモデルやゲーム機、スニーカー、限定グッズ!!金になるものなら何だって転売するぜぇ!!転売サロンの有料講座で仕入れた最新の情報でフリマアプリやショップ転売で稼ぎまくりになるんだよぉ!!」


 まじかよお前転売ヤーかよドン引きだわ!!

 別に転売自体は法律で禁止されているわけではないから俺が感じる個人の印象はさておき何も言えないけど、大の大人が自分で胸張っていう事じゃないと思うなぁ。副収入として税務署に申告してる??

 しかもこの人転売ヤーきどってるけど稼ぎまくってる、じゃなくて稼ぎまくりになるとか言っちゃってる当たり情報商材屋のカモにされてる人じゃん……うわぁ……。


「お前が持っているその超激レアのゲーム機は買い取り価格10万はくだらねー、お前みたいなガキには勿体ねぇ。俺達に寄越すんだな。痛い目見たくなけりゃ、そいつと―――あとその女を置いて失せな、俺のスケを通報しやがった落とし前だよ。俺のスケの代わりに相手してもらわなきゃなぁ?このまま引き下がっちゃたたない面子ってのがあるんだよ」


 わぁい世紀末思考かな?弥平一味を一掃したと思ったけどまだこんなのいたんだぁ、この街ゴッサムなマッドシティすぎん??大金持ちの蝙蝠ヒーロはよ。


「戻って参加賞ひとつを持ち帰った方がいいんじゃないッスか?進めば2つ手に入るとは限りませんよ」


「進めば2つぅ?違うぞガキィ。

 ハッハァ!!――――奪えば全部、ってなぁ!!!!!」


 そういって歯を――――いや、歯茎をむき出しにする強烈な笑みを浮かべる彼氏君。うわぁ、素直にキモい!!!!


「痛い目に遭わねえとわからねえならわからせてやるよオラァッ!!」


 そんな雄たけびと共に殴りかかってきた彼氏君の拳だが、パリィとか器用に出来るわけでないし今最優先することはアカ先輩を死守することなのでアカ先輩を体で庇うようにして背中で受けようとするが―――その瞬間だった。


『―――上から来るぞ、きをつけろ!!!』


 そんな声と共に俺と彼氏君の間に何かが―――いや、誰かが着地して、その拳を受け止めていた――――額で。


「おまっ、戸成ィ!?」


「―――なんてな。助けに来たぜタローッ!!!」


 額で拳を受けながら、俺を背後に庇ってくれているのは戸成だった。大金持ちの蝙蝠男はいないけどヒーローはいたよ!

 そんなやり取りの間に、戸成の小脇にかかえられていたすずめちゃんがぴょいっと着地し、背中から竹刀を抜き構えると警戒したのか彼氏君が後退した。


「よってたかっての暴力、見逃せまちぇん!助太刀いたちまちゅ!!」


「あぁン?なんなんだお前ら一体?」


 彼氏君が突然現れた戸成やすずめちゃんに怪訝そうな顔を向けている。


「ドーモ。悪漢スレイヤーです。……俺達も帰る途中だったけど変な奴らがタロー達を追いかけていく姿が見えたかからさ―――屋根上ショートカット走りして2階から着地したんだぜ」


 そういいつつ掌をあわせてオジギをする戸成だが、そのオーラは悪漢どころか忍者でもスレイヤーしちゃいそうなものを感じる。相変わらず頼りになりすぎる男だなぁ!戸成なら、戸成ならなんとかしてくれる!!


「何で俺が最初の一発を受けたか、理解るっスか?―――これで最初に手を出したのは、オッサン達っすよ」


「ハッ、イキがってんじゃねえよダボがよぉ、それに俺は20代だッ!!……だが俺の拳を受けて平気でいるとは確かにただのガキじゃなさそうだ」


 そういって彼氏君とその仲間たちが懐から薄い紙のようなものを取り出した。……まさか違法なおハーブとかじゃないだろうな?!


「その面、おハーブか?ってツラしてるな。

 こいつはよォ、違法なおハーブなんてくだらねぇモンじゃねぇ!

 最近ここらで出回るようになった、秘伝のレシピ合法的に流通する漢方や珍味を数えきれないほどブレンドして、造ったとされる―――血液や尿からは決して違法薬物が検出されない究極の栄養剤、ドーピングコンソメ出汁!!これはそれを染み込ませた“出汁クーポン”だ」


 どうみてもあやしいお薬にしかみえない絵面と酷いネーミングセンスとは裏腹に禍々しさを感じる出汁のしみこんだシート。しかし最近ここらで出回るようになったってのはちょっと気になるところだな。


「みんな!!出汁(ダシ)キメろォーッ!」


 そんな彼氏君の号令が飛び出汁シートを口に含み……いや舌の上にのせてアヘ顔をキメる彼氏や取り巻きヤンキー達。その姿はどうみてもヤクきめろしてるようにしか見えない。ヤンキーがジャンキーにランクアップしたみたいな光景なんですがそれは。しかし酷い絵面とは裏腹に筋肉が隆起しサイズアップしている。エェーッ、あれ合法なのぉ?本当ぉ?本当におハーブとか入ってない??大丈夫??


「戸成、俺も手伝――――」


「―――よくわかんねえけど、 人助けしてるんだろ?詳しい事聞かなくても、タローが女の子といるってことはそういう事だってのはわかるぜ」


 あきらかにヤバそうな連中だったので俺も一緒に、と声をかけようとしたがその声を戸成に遮られる。

 さすが戸成、理解が早い!というかそれを察して助けに来てくれるの完全にヒーローのそれなんですけどぉ!俺が女子だったら惚れてるんですが。

 桃園に過ぎたるものが2つあり、年上美人と戸成の沖那ってね。


「いいから、ここは俺に任せろ。お前はそのお姉さんを連れてはやく行けっ!!」


 戸成が死亡フラグの塊みたいなことを言ってるけど大丈夫だろう、多分きっと―――戸成達の方がずっと強い。


「俺達、でちよ沖那くん。この人たちは見過ごせまちぇん、ここで成敗いたちまちゅ!」


 すずめちゃんも竹刀を構えて迎え撃つ様子、やる気である。この2人ならドーピングヤンキーの集団相手でも余裕そう。


「けど、大丈夫か戸成?」


「ヘッ、あんな奴らに負けはしねえさ」


「いや――俺が女の子と逃げるのをホイホイ手助けして、後で桜那さんに折檻されない?」


 そんな俺の言葉に、戸成が肩越しに振り返るとフッと笑った。


 ――――最初から桜那さんからの折檻は覚悟の上じゃったか……!!すまん、沖那恩に着る!!!!


「友とはかくありたいものでちね。……その際は桜那さんに一緒に弁明するでちよ」


 拳と竹刀をそれぞれに構えながらにやりと笑い合う戸成とすずめちゃんからは天下御免の傾奇者みたいな傾奇っぷりを感じるので、今の俺に出来ることはなさそうだ。

 なので2人に送り出されつつ、俺はどぼめ……じゃなかったアカ先輩の手を取って走り出す。

 ……容赦なくぶちのめされる出汁キメヤンキー達の断末魔、もとい悲鳴と打撃音を背にしながら。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

俺は皆の恋愛対象外な件について サドガワイツキ @sadogawa_ituki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ