第14話 プロローグ その3

「あ……あれ……?」


 周りを見渡すと仄かな光を灯す魔法陣。

 ぼくと同じように横たわっている亜人種たち。

 そしてそれを取り囲む、いや見物しているのだろうか。様々な種族の異世界人の姿が目に飛び込んできた。


 ぼくは立ち上がるといつもより目線が低い。周りの人の腰くらいの目線だ。

 そうだ。ぼくはホビットとしてこの異世界に……

 ――そうだ! あいつは……裏木はどこだ!!


 ぼくと同じタイミングで横たわっていた亜人種たちが起き上がる。

 判別がつかない……みんな元の姿からかけ離れていて、姿形もとても整っているからだ。


「へへっ……裏木さん上手くいったみたいですね……エルフの姿似合ってますよ!」


「お? よく俺に気が付いたな~! 愚流ぐる! お前はお前で別のバカを捕まえて上手くやったようだな~! 鬼人になるとはな!」


 渡りに船だ。ぼくが死んだと思って油断してるんだろ!!

 ぼくは裏木に飛び掛かった。


 だが、人間より貧弱なホビットの体では殴ってもダメージは通らず、逆に裏木の仲間と思われる鬼人の愚流ぐるに殴られて吹っ飛ぶ結果となった。


「あ~? もしかしてお前、零太か? キヒヒッ! なんだよ~お人好しがいたのかしらねーが、『いいね』をもらえてよかったじゃねーか! キヒヒヒッ!!」


 眉目秀麗なエルフの顔が、酷く醜く歪んだ笑みをぼくに向けるが、ぼくは一発殴られただけで世界が回るほどにダメージを負っていた。


「あ~裏木さんのカモだったやつっすね? どうします? ここじゃ周りも注目してますぜ……」


「ほっとけほっとけ。俺たちはこんな雑魚に構ってる暇はねーんだ。この解放されたばかりの第5異世界でたっぷり稼ぐんだからなぁ……」


 2人はぼくを見下しながらも、すでに興味はこの世界に移っていて、ぼくはまさに眼中にない状態だ。


 ふざけるな……ぼくにだって意地がある……!

 ぼくは膝に手をつき、回る世界に必死で抗いながら立ち上がる。


「簡単に逃げられるなんて思うなよ!」


 すでに飛び掛かることもできない今のぼくの精一杯の強がりだ。


「あ~せっかく見逃してやろうってのによぉ……ったく……めんど――」


 その時だった。

 周りが異様と言えるほどに騒めき始め、中には歓喜で失神するものまで出ている。

 ぼくが睨んでいた裏木もぼくの頭上を見上げて口をだらしなくあけている。


 ぼくは背筋を走る悪寒に体を震えさせながらも、ゆっくりと背後の頭上に目を向けた。


 そこに飛んでいたのは、赤い羽……ではなく、炎そのものが羽の形を成した翼を持つ鳥人だった。

 赤いスライムを肩に乗せ、鮮やかに波がかった真紅の長髪は、日の光で火のように輝いており、紅口白牙の容姿はエルフに見劣りすることもない。

 その凛とした美しさにぼくも裏木のようにただただ口を開けて見上げることしかできなかった。


 その女性がぼくを見るとその炎もとい翼をたたみ、目の前に下りてくる。


「待ってたよ……主様! ボクだよ! わかるよね?」


 何を言っているのかさっぱり分からない。

 少なくともぼくの人生でこんな綺麗な女性と喋ったことはおろか、見かけたことすらないと自信を持って断言できる。

 こんな美人を見たら一瞬だとしても永遠に忘れることはない。


「あ~ひどいなぁ……忘れてるなぁ? それともボクが肩に乗っかったら思い出すかな?」


 その言葉で我に返ったぼくは、思った言葉を自分の中で咀嚼することなくそのまま口に出した。


「――え……? もしかして……ナイトホーク・フラン・ド・エル・ウル・ラピュタ・ジョルジュ三世……なのか?」


「ううん、違うよ。ナユだよ。こっちはライム」


 あれ。もしかして名前気に入ってなかったの?


 ぼくがそんなことを考えた拍子にナユは、その柔らかいモノをぼくの顔に押し付けるように抱き着いてきた。

 と思ったら柔らかい感触はスライムだった。

 よくよく見ると胸だけは控え目だった。


「やっと会えたよ~~!! ちゃんと主様の役に立てるようにボク頑張ったんだよ! 現世で売れ残りだったボクを引き取ってくれた上に最後まで大事にしてくれた恩はずっとず~っと忘れてなかったんだからね! 現世で死ぬ時もお別れが悲しくて寂しくて……!」


「ほんとにお前なのか……ほんとに会えるなんて……」


「姿形は違っても主様の匂いはちゃんと覚えてたよ! それに喋り方だって主様がずっとボクに話しかけてくれてたから口調も似ちゃったかも? いつもボクが喋れればってずっと思ってたんだから!」



 周りの目も気にせず、ぼくらはしばしの抱擁を続けていた。

 お互いの温もりを確かめた後に離れると、ナユの目つきが見る見るうちに変わる。


「それじゃ主様。宿は取ってあるけどその前に……主様を殴ったこいつらは燃やせばいい? それとも雷落とす? どっちにしろ燃えカスになるけど」


 ナユが鳥類独特の獲物を狙う猛禽類のように、鋭い眼光を裏木たちに向けた。

 すでに腰が抜け臀部を地に落としていた裏木たちは、ただただその唇と共に体を震えさせているだけだ。



「いや……もういいんだ。ナイトホー……ナユと一緒に旅ができる。こんな奇跡が起こった今なら……もうこんな過去のしがらみなんて忘れられるよ……ありがとう」


「えへへっ! そっか~! じゃあ主様行こう!」




 こうしてぼくは伝説の幻獣『朱雀』となったナユと再会できたという奇跡と共に、この第5異世界の冒険の旅へ出発することになったんだ。




            ハートライフストーリー

                 完

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ハートライフストーリー ~転生したら人間より弱く・・・そんな最弱ホビットに起こる奇跡~ 赤ひげ @zeon4992

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