第13話 幻獣『朱雀』
ライムを抱きかかえたまま走っていると、途中で揺られて気持ち悪くなったのか、飲んだ物を軽く吐くライム。
お前……美味しかったのか知らないけどもったいないことを……
ボクは脇道の草場へ移動する。
「ほらっ……大丈夫か? 全部ゲエってしちゃいなさい」
軽く吐いた後はすでに消化しているのか。ケロッとした顔で見上げてくる。
そして吐瀉物を埋めようとした時、赤く輝く物を発見する。
『ハート』だ。
お前……ちょっと臭いけどでかした!
結構野生のハートを食べてるのか? 落ち着いたらいっぱいお尻叩いてみよう。
木の枝で入念に探りこれ以上のハートがないことを確認し埋葬。
気分よくロプ爺さんの店の扉をくぐる。
「お~きたな! どうだ! ピッカピカになったろ?」
ボクはその輝きに目を奪われた。
剣も鎧も見違えるほどの光沢。泥や土の下にこんな輝きを秘めていたとは……
「すごいよ! こんなに綺麗になるなんて! ありがとう!」
「ガハハッ! だからうちのアフターケアは万全だって言ったろ? ああ、後はお前はまだ胸がぺっちゃんこだからいいが、胸が膨らんだらそれ用に調整してやるからまたこいよ?」
「それならもう来月には来ちゃうかもねぇ……ボクも予兆を感じているからねっ」
ぺっちゃんこって言うな。こっちはレディだって言うのに……あとじろじろ見るな。ボクはこれから成長するんだから!
「まぁ誰しも望むことは自由だからなぁ……まぁ装備も新調したし、そろそろ新しい街に向かうのか?」
「うん。ここでやりたいことも済んだしね! ここからボクは成り上がっていくよ~!」
ロプ爺さんの言葉に両手を挙げて意気込みを見せる。
ちょうどライムを抱えていたので高い高いをしているようにも見えたけど。
「そうかそうか! じゃあもう新人とは言えねえな~。え~っとナイトホーク・フラン・ド・エル・ウル・ラピュタ・ジョルジュ三世って呼べばいいのか?」
「ううん。ナユって呼んで。主様のことはほんとに大好きだったけど、唯一名前だけは……ボクは認められない……でもよく覚えてたね……主様以外絶対覚えられないと思ってたよ……」
「ガハハッ! 最初に面倒見てた時は頑なに名前言わなかったもんなぁ! まぁいいナユ……がんばれよ!」
「うん! ありがとう! 絶対有名になってみせるよ!」
ボクはロプ爺さんと握手を交わすと店を出る。
すると酒場のマスターとすれ違った。
珍しいな。マスターが武器屋に用事なんて。
だが、ボクは気にすることなく宿屋へ戻っていく。
出発は明日だからしっかり体を休めないとね!
明日でちょうど異世界に来て1年になる。
ちょっとのんびりスタートになっちゃったけど、ここからがボクの冒険の始まりだ。
それにしてもライムも一緒に泊まると代金高くなるのかな……最悪ライムは野宿でも……なんて物騒な考えを見透かされたのか、ライムが睨んでいた。
「ロプスさん売れたんですか? お師匠さんの鎧、ヴァルカン……いや『へパイストスの鎧』……ですかね」
「お~デュオニソス! ああ、あいつが買ってったよ。いい目してやがる」
「巷ではOrangeの部隊が手に入れたって噂で持ち切りですが……」
「ああ、わざわざ教えてやったのにあいつら俺が真似して作った鎧を買ってったよ。師匠に怒られたっけなぁ……『見てくれだけ真似して豪華にしても使用者には意味はない』って……」
「はははっ! そりゃ見る目がない。それと……あの子の剣はあなたのモノを持っていましたね。『キュクロプス印』の武器も見えたので」
「ああ、ゼウスってやつに作ってやったんだが、巨人族を滅ぼしたらもう強すぎて怖いって返されたんだよ。だからあの赤いスライム……『ライフモンスター』にくれてやったんだ。無限のライフとこの武器がありゃ~この初心者の村にくるやつでもいいとこまでいけるだろってな……すっかり忘れてたが」
「まぁ彼女の場合、『ライフモンスター』が持っていた幻獣の魂でもう幻獣に昇華もできますしね。この世界だと『朱雀』ですかね。もともと文鳥って言ってたのでまぁ似たようなもんですね。『背中の羽が元の文鳥サイズだから鳥人とも言えないし飛べないし!』って、最初は暴れていたのが懐かしいですよ……元の飼い主が気が付くかは不明ですが……」
「飼い主だった人物が異世界に興味津々だったそうだ。だから『ボクが強くなって異世界に来た主様の力になる!!』ってな。まぁ気が付くだろう。そうとう可愛がってたみたいだしな」
これより1年後――
この地、第4異世界の魔王が討伐された報告は現世、異世界全てに知れ渡ることになる。
幻獣『朱雀』の姿で自由自在に飛び回り。
『
魔王の攻撃は鎧に傷一つすら付けることもできず。
朱雀の放つ灼熱の業火で魔王を焼き付くした――と。
その姿に誰もが異世界解放の喜びの声を上げることとなった。
討伐した者は頑なに名前を言う事を拒み、「ボクの名前は聞くな!」と、第5異世界に渡り名無しの朱雀はやがて語り継がれる伝説となった。
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