第12話 中古の鎧
ダンジョンの地下で伝説の鎧を手に入れる気満々だったけど、代わりに武器が手に入った。
ボクはもともと武器はロプ爺さんの店で中古を買うつもりだった。でも、逆になっただけだ。
それに鎧なら気になってる中古もあったし。
「ガハハ! なんだお前新人なのに思い切った
村に戻ってくるといつも通りロプ爺さんが声を掛けてくる。
「な、なんだよ~別にボクの勝手だろ! あ、そうだ。これダンジョンで見つけたんだけどロプ爺さんのマークだよね? 買ったわけじゃないけど、メンテしてもらってもいい?」
ロプ爺さんはボクが手に持ったギザギザの剣とスライムを交互に見ると一瞬顔付きが変わったように見えた。
「ああ、アフターケアは万全だって言ったろ? それだけ古けりゃ持ち主もそれを見るまでは忘れてるだろうしな」
どこを向いて言っているのか。
ボクの抱きかかえてるスライム見てもしょうがないでしょ。
「お~! よかった! あとこの鎧も買うよ。ロプ爺さんのマーク入ってないけど、ちょっと綺麗にしてくれるとうれしいなぁ~?」
ボクは雨ざらしの鎧を指差した。
「ガッハッハ! なんだお前、店の中の鎧じゃないと俺の店が潰れちまうってのによ~」
「なんかこの前、騎士の人いっぱい来てたの知ってるよ! 何を買ったのか知らないけど、儲かったんでしょ~? ボクは騙されないよっ!」
「チッ! 知ってやがったのか。 抜け目ないやつめ……だが、この鎧でいいのか? 中古の鎧なら他にもいくつかあるぜ?」
「うんっ! 汚れてるけど、なんか動きやすそうだし。持った時軽くて驚いたよ! それになんかその鎧の雰囲気好きなんだよね。着る人のことを考えてるのか継ぎ目とかすごい綺麗だし」
「そうか~! それならしょうがあんめい! ついでに綺麗にしてお前の体向けに微調整してやるよ」
「おぉ~! ありがと~!」
「すぐにできるわけじゃねえからな! 酒場でも行って時間を潰してきな!」
「分かった! よろしくね!」
ボクは剣を預けると先に中古の鎧代金3万パルを支払い、酒場へと向かった。
酒場に入ると幾人かが挨拶の声を掛けてくれる程度にはボクも馴染んできている。
そしてよく分からないけど、例の2人組は今日もカウンターで談笑しているようだ。ちゃんと狩りとか行ってるのかな……
今日も、というのはこの半年の間、酒場に来てあの2人がいない日がなかったからね。
でもいつもすごい情報ばっかり話してるんだよなぁ……
ボクは今日も1席空けてカウンターに座るとマスターが山羊のミルク練乳入りを置いてくれる。
ボクはスライムもカウンターに乗せていいかを聞くと、マスターは快く了承してくれて、ついでに
ワイン……かな? そんな贅沢な……
すごい値段だったら走って逃げよう。ボクは密かに心の中で誓った。
「とうとう
「うん! いいのいいの! ボクと死闘を繰り広げた
「はははっ! なるほどそりゃ文句がつけられないな」
マスターは笑いながら他の客の元へ歩いていく。
そしてスライムを撫でながら聞き耳を立てようとすると、ふいに2人がボクのスライムを見ているような気がした。
少し顔を向けると咄嗟に視線を戻した2人。
「ハルト様。私はやっと腑に落ちました。つい先日隻眼のバハムートが倒され
「ふふっ……そうだな。あの凶悪な真紅の竜なら
隻眼ってやっぱり別にいたのね……
しかも竜ってなんだよ。絶対ボクじゃ倒せないよ……
はぁ……お前が隻眼だと思ってたのになぁ……
ボクは紫の液体に夢中なスライムの体をぷにぷにと突っつく。
それから数時間。すでに夕方の時間帯だ。
2人の会話に耳を傾けていたため、あっという間に時間が経ってしまっていた。
銀河帝国とか自由惑星同盟とかさっぱり分からない話も出てたけど、勝手に聞いてる身としてはとても楽しく過ごさせてもらった。
その間、スライムが飲み干した液体は20杯。
ボクは人に見えないように足のマッサージを行い走り出す準備をしていた。
そこに。
「新人~! 待たせたな! 店で待ってるからきな!」
ロプ爺さんが酒場の入口からボクに声を掛けてくる。
完全に逃げ出すタイミングを失った。
と言うか、ロプ爺さんの言葉でマスターがボクに意識を向けてしまった。
ボクは静かに立ち上がる。
「え……えとぉ……今日のお会計は……」
ボクは視線を揺らしながらマスターに問いかける。
「ははっ! 今日はお前の
「――あ……ありがとうございます!」
マスターに後光が差しているかのように眩い。
カウンターで仕切られていなければ飛びついて抱き着く勢いだ。
「さっき
「くくっ……そうかそうか……じゃあロプスさんを待たせるのも悪いから行ってきな」
ボクがマスターに背を向けると2人組がボクの背中に声を投げた。
「新人さん。その子は『スライム』ではないよ。うん、そうだね……『スライフ』とでも言ったほうが正しいかもね?」
「――え?」
「ははっ。気にしないでくれ。私たちからのささやかな
そういうとまたカウンターへ向き直した2人。
ボクはその意味を嚙砕くことはできず、奥歯に詰まったままのような気持ちでロプ爺さんの武器屋へと向かった。
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