解題・解体/分解

カワカミ

『死人とサーカス』覚書 ※ネタ明かし前提

 先日投稿完了した長編『死人とサーカス』について、どういう形で作っていったのかという覚書みたいなものを、投稿した各話ごとに書いていこうかと思い、書き始めた。

 こういう作者がくだくだ自作について述べる解題めいたことは、あまり好まれないとは思うし、作品意図を解説するのはまさに素人的行為だが、まあ、素人なので。

 また、なにぶん最初に書いた長編小説で、どういう風に作っていったのかを改めて振り返って記録しておくことは、自分自身にとって次を書こうとするなら、ある程度の参考になるかと思ったこともある。覚えているうちに書き留めておこう。

 もちろん、作品を分解していくので、ネタバレ前提のものである。




「閉演後のモノローグ」

 カクヨム投稿前の星〇社に送ったやつでは、「開演前のモノローグ」「閉演後のモノローグ」「プロローグ」という風に、プロローグみたいなやつが三つ続くという、素人がやりがちで、かつやってはいけない「プロローグ」をつけるという愚行を三つ重ねていた。一応、主役の空木と早瀬の二人のモノローグで人物紹介をやりたかったみたいなのだが、そんなの普通にストーリーを始めてからやれという話である。


 「開演前のモノローグ」は、主人公の空木要が、陽炎でゆがむ街をぶらぶら歩いて、街で起き始めている妙な事件(大量自殺事件とか張り紙とか)について思い出しながら、暑さの向こうから何か良くないモノがやってくることを予感している場面だった。『匣の中の失楽』の霧の冒頭を意識していたシーンだったりしたが、全部消した。「街は、狂った熱気を帯び始めていた」という、本人としては気合を入れて拘った書き出しの一文もイラネという気分になり、削除。こういう本人の思い入ればかりが強いものは、ほんとに削ってみればどーでもいいものである。


 まあ、プロローグその一にあたるものは削ったものの、閉演・開演で円環構造を作りたいというアイディアが生まれ、プロローグ的なものも残すからには、意味を持たせなければということもあり、早瀬志帆による事件の終わりという部分から初めて、また「新たな殺人事件の始まり」で終わる構造にした。厳密には円環ではなく新しい始まりを外側に置く玉葱の皮みたいな構造を狙っている。自分が好きな押井守っぽさというか。


 志帆による「閉演後のモノローグ」は、早瀬志帆という「傍観者」というキャラクターで語り始めることで、わりとより始まりとしては意味を持ったかもしれない。書き出しもいきなり終わり? みたいな感じで興味をひくインパクトを狙った。



「プロローグ」

 この部分は、最初期に書かれた部分を流用したものであり、作中作的なものではあるのだが、作中作で虚構と現実の区別があいまい云々というねらいはなく、小説の続きが事件として現出するという効果を狙っていて、その過程でフィクションを現実化する→現実をフィクションとみなし、自己の案出するフィクションで上書きするという犯人側の思想性が案出された。

 まあ、第一は、要たちを事件に引き込むためだけのもので、はじめは御堂が書いていたという設定だったが、より事件に要を引き込む理由付けにするため、要が書いて御堂に預けていたという設定に変更した。ちなみに、御堂の真の狙いとして要に小説を再び書かせるというものを動機の一つとして保留していたが、さすがに事件自体が矮小化しそうな気がしたので書くことは没にした。

 この小説を書き始めたころ、三人称の心の声をダッシュで区別していて、その名残かやたらとダッシュがある。ここ以外は、投稿後にけっこう修正したが、この部分はまあ、登場人物による作中作であると強調できるかと思い、そのままにしている。でも読みにくいだけのような気はしている。


「過去からの手招き」

 喫茶店から始めるのは、なんか素人あるあるな感じがする。喫茶店の名前を考えるのはめんどくさい。結局、乱歩モチーフだということで「二銭銅貨」をもじったものとなった。ここでうまく、キャラクター描写とその関係性をキメる必要があるとは思いつつ、上手くできたような気はしない。やはり、なんかキャラが弱いのは否めない。早瀬志帆がポニーテイルから髪を切ったという描写を入れたのは、単にボブカットというよりは、そのほうが印象的にボブとして記憶されるかと思ったのだが、よけいな感じだったように思う。矢津井は当初、よくあるギャルゲの友人キャラみたいな陽キャだったのだが、くせ毛の色白ヒョロガリにしてみた。しかし、あまりそれが生きているような気はしない。日焼けをさせたりして色々ちぐはぐ感だけが残った。

 あと、どうでもいいが、文芸倶楽部は当初、第二文芸部という名称だったのだが、東川篤哉の『君に読ませたいミステリがあるんだ』に第二文芸部って出てきてしまい、変更した。あー、という感じではあるが、好きな青春ミステリを書く作家とネタ(というほどじゃないが)かぶりがあったのは地味にうれしくないこともない。


「夏と廃墟と死体の跡」

 廃墟の探検シーンみたいなのを入れたくて書いた。暑くて白々とした人気のない街をさまようイメージをはじめ、夏のイメージをくどいぐらい入れている。けっこう最初期からあるシーンなので廃工場の描写とか妙に凝った書き方をしているが、それがどの程度効果を発揮しているのかは分からない。ただ、書いてて楽しかった部分ではある。高校生たちが街を駆け回っていくコンセプトとして、地方都市の廃墟みたいなものをここから出していくことになる。あんま人間がいないがらんとした街というイメージみたいなのもあったりする。


「御堂司」

 当初、御堂司はそんなに重要なキャラというわけでもなく、書きかけの小説を残して殺されちゃった昔の知り合いみたいな位置づけで、事件に介入する理由付けみたいなものでしかなかった。変化したのが、『ハーモニー』や『虐殺器官』というか、伊藤計劃の影響をモロ受けてからで、主人公と対になる存在として事件の中心で暗躍しているキャラクターになった(計画の中心にいながらすでに死んでいるのは、ようするに押井版の『パトレイバー』)。この部分もけっこう後から書いたやつである。なんとか、印象的なキャラクターとして押し出そうと埴谷雄高の引用(ドキュメンタリーでめちゃ印象に残っていた部分)をしつつ、彼という人物の思想性を出すという狙いがあった。まあ、結果的に書き手の中二感がでただけの気も。


「バラバラ死体」

 バラバラ死体が街にばらまかれていくというイメージは最初期からあって、派手だしとりあえずやってみたいからという理由で書いていった。まあ、なんというか現実をフィクション化するという犯人の動機によって、ある程度無茶なことをやってもいいだろうというエクスキューズもあったので。また、青春といえば死体探しだろう! という私の嗜好もあり、序盤はバラバラ死体の一部探しということに決まった。


「暗号ゲーム」

 死体探しをどうするかということで、広大な街で場所を推理するというのも悪くはないと思ったが、ロジックを構築するのは大変だと判断したので、犯人からの挑戦として暗号を解く形にした。あと、序盤の探偵役のジャブというか能力披露なシーンでもある。暗号は作るのけっこうめんどくさかった。イギリスの放送局云々はまあまあ、強引な感じだがなんだかんだ上手くはまった気はするし、自分としてはこれが限界である。


「首と挑戦状」

 死体探すならやっぱり線路だろう、というパロディをしつつあっさり終わる。あとここ、首を発見後のラストの表現が最初の工場跡で死体跡を発見した時と被ってたりしていて、表現の乏しさを実感した。まあ、ここまでが作品の推理小説としては本格的な事件が起きる前触れみたいな感じ。結構長い。


「大量自殺事件」

 この作品はけっこう別で考えた部分部分をつなぎ合わせて作っていて、暗号とかもそうだが、この部分も最後の犯人たちの動機と計画が決まってから忘却・希薄される死の象徴として書いている。事件の根幹部分でもあるので、何とか読者にとって印象深いものとして残ってもらうことを目指した。当初から山から見つかる大量自殺体というイメージ自体はあり、そこにようやく意味がのっかってきた感じである。


「扉の向こうにいたもの」

 黒幕らしき人間からの呼び出し、というのはまあ、探偵小説的な演出を狙っている。ここから事件の本編に入っていくので、のんびりとした日常シーン的なものからギアチェンジな場面を入れたかった。駄菓子屋に瓶ラムネはそういう夏の日常シーン的なもの。コーラとかでもよかったとは思うのだが、夏ならラムネだろというのが、なんか刷り込まれている。青いイメージも欲しかった。そういえばソーダでもよかったな……。


「密室未満の密室」

 この作品自体の事件における核はクラブについてのロジックではあるが、一応、密室トリックがあってそこからクラブのロジックを主にして展開するようにした。トリック自体は簡素すぎるので、それをいかに分解するのかというロジック面を何とかアピールしたかった。そもそも密室という要素はかなり強力なアピール力を持つが、その解法が期待に添えない場合、かなりの諸刃の剣になってしまう。それをロジックその他の要素で補えたか、はもう読者の判断にゆだねるしかない。まあ、公募で落ちたのだから下読みの編集者のお眼鏡にはかなわなかったのだろう。今後の課題である。

 手掛かりの「音がしなかった」というのはあまり印象を与えにくい手掛かりではあるのだが、何かが室内であって静かになった、という状況説明自体が手掛かりになるのなら、読者に覚えてもらいかつ目立たない手掛かりになるのではという考えだったが、いかがだろうか。室内に人がいなかったというのは早々に予想されるだろうというのは想定されたので、ドアノブに注目させるような手掛かりを配置し、窓の外からできるだけ読者の目をそらそうとしている。また、窓のガラス切りという手掛かりもそのまま与えるとあからさまなので、道化師の切り込みを入れて、割ったときにその形を作ろうとしたが失敗したという体で目をそらそうとしている。当初はトリックをもっと派手にしたいという思いもあって、切った首を使って内側からガラスを割り、首を上着に丸めて持っているという設定で、あの時集まった刑事たちの中で上着を丸めていた者は……という展開だったが、さすがにコナンの犯人みたいなのはな……という思いやクラブで割ったものとして偽装するには形状がちょっと、ということもあり水筒に変更した。これ見よがしに窓を割った道具を見せるシーンもできて、手掛かりとしては上着より良くなったとは思う。暑いなか自然な手がかりにもなった、はず。

 また、ロジックを展開するにおいて、手掛かりは印象に残るものを物証としたいというこだわりがあり、道化師に連想するものとしてクラブを起用した。ロープは少し苦しいが、あの状況で隠せそうで隠せないものとしてだったり、自殺と結びつけるためにも必要になったので組み込んだ。


「噛み合わない取り調べ」

 近況ノートにも書いたが、公募投稿では現場近くに止めてあったバンの中で取り調べをする、みたいなシーンだったが、そんなことやるのか? という疑問が出てきたので振出しに戻る感を出すように、警察署に戻る形をとっている。まあ、バンの中から捜査関係者を観察して、水筒を持っている人は他にいないみたいな、手掛かりシーンを作りたかったのだと思う。これは、犯人は御堂とかかわりがあった人間という前提で要と御堂が巻き込まれた事件という冒頭の設定を引っ張り出すことで範囲を限定するロジックをひねり出したこともあり、わざわざ捜査員の水筒を確認するとかいう不自然なシーンを回避できたため、手掛かりシーンごと削除・改変された。


「捜査会議 その1」

これも近況ノートに書いたが、当初は丸井屋(某作家平井さんを意識している……)というお好み焼き屋で事件を振り返るシーンだったが、次のシーンのつながりが悪いというか、志帆と要が要の部屋に移動することになり、その段取り自体が余計な感じがしたので、はじめから要の部屋にいることにして、そこでお好み焼きを食べながら振り返るシーンに改変した。そういえば、要と志帆がいとこ同士設定なのは、エラリークイーンにあやかるというか、ロジックにミリでもクイーンが宿ってほしい願掛けみたいなものと、恋愛やそれに類するようなにおわせ要素などを特に介在させず、高校生男女が一緒にカジュアルに行動するシーンをいれたかったからでもある。


「文芸倶楽部の道化師たち」

 文芸倶楽部メンバーの紹介と彼らについての印象付けを狙っている。また、志帆視点で部外者から見た御堂司という人物像をそれとなく描写しようという魂胆だったが、上手くいっているのかよくわなからない。メンバーの筆名はコメディアンデラルテに出てくる道化師たちの名前から。まあ、まず、からくりサーカスを意識して、その元ネタからって感じなのだが。「匣」の人形をもじった名前へのオマージュでもある。まあ、あんまり効果的ではなかった。なんかイタい集団みたいにしかならなかったような。


「再会 その1」

「再会 その2」

 一応、ミステリにおける容疑者巡礼、もとい取り調べみたいなシーンなのだが、キャラ出して終わっているような気がする。もう少し情報や手掛かりを与えるようなシーンにできなかったかという反省がある。というか、あまりそういうことができないので、第二パートは御堂司という人物像についてで間を持たせている感がある。犬塚涼子のところは完全にインパクト重視で書いたシーン。富田信平は名前がすべてみたいなキャラで、野暮い名前でキャラを覚えてもらおうとしている。犬塚は私的いわゆる萌えを狙っているようなキャラなのだがどうなんだろう。富田が語る自殺については昔けっこう調べたやつを羅列していたのだが、なんか高校生が不自然にうんちく語りをしているような感じになって結構削った。また、知り合いが自殺したとかいう話を出して、すこしミスリード的なものを狙っている(あまり成功していない)。


「扇動者」

 部外者の志帆から御堂を追うシーン。御堂の人物像と彼が計画した事件の性格が連動しているような暗示。素人のやりがちなやたら食事シーンを混ぜた会話劇をやってしまっている。言い訳させてもらうなら、食べたり飲んだりしているものでそのシーンや会話を印象付けようとしていると言えないこともない。


「廃屋案内」

 新しい殺人事件を投入し、新しい展開を入れるとともに、ロープの手がかりを配置。長谷川というキャラクターは、結局あまり掘り下げられなかったので、ここで何かエピソードを追加するとかしたほうがよかったかもしれない。ただ、間延びしてテンポが悪くなることも考えられ、なかなか難しいところ。

 犯人たちの直接的な動機が決まらず、このあたりで御堂の姉を出して、それをいわゆる「わかりやすい」動機と設定してみたが、どうもそこを掘り下げるべきか迷って上手く書けなかった。あくまで起点として扱うことにしたが、どこか薄い存在になってしまったようにも思う。まあ、メインとしては抽象的な動機なので、それとの兼ね合いが難しいところだったかも。


「水族館にて」

 やがて御堂の共犯者かつ実効的な犯人として顔を出す紙谷拓人のキャラクターの掘り下げと印象付けをこのあたりで行っておこうということで、特に彼を知らない志帆という人間の視点で彼という人物を描写している。映画的な効果も狙っていて、見ている水槽のカクレクマノミは、ファインディングなやつの映画を意識……というのではなくて、実のところカクレクマノミの別名「道化魚」で「犯人」を示唆している。


「捜査会議 その2」

 ミステリ恒例のこれまでの振り返りと疑問点の列挙など。もう少し何か情報を得たり、謎が解明するシーンとかにしたほうがよかったかも。どうしても結局なにも分からないを繰り返してしまっていて、ここらあたりが冗長となる要因を作っているのかもしれない。


「シャボン玉と赤」

 結構前からあった部分。当初は犯人が道化師の格好をして無差別殺人をするシーンがあり、妙に気合を入れて書いてあったが、表現がクド気味でこまごまと刈り取った。矢津井が刺されるとかそういうのもなく、親子が刺されるところに遭遇するだけで、犯人もそうそうに模倣犯に変わった。まあ、主人公回り以外の「外部」的なものとして挿入されたシーンになったのかな、と。

 冒頭に時間経過の帳尻を合わせるため、三人がカラオケに行って志帆がアニソン、要が古いフォークソング、矢津井が洋楽(主にビートルズ)を歌うというすごいアレなシーンがあり、今回完全に消した。もろに場つなぎでつらつら書いたシーンで、典型的なないほうがいいというシーンだった。また、去年の夏まつりで要と矢津井が撮影を手伝ったという映画研究会のメンバー(監督は黄色いトラックスーツを着ている)が紹介されたり、かなりどうでもいいシーンもあった。わちゃわちゃとしたからかいのシーンとか、会話劇でやろうとすることがことごとく滑っていた。


「再会 その3」

 完全な新規追加シーン。そもそも応募時の元原稿では名前しか出ていなかった兵頭に麻央という名前を考え、キャラ描写をして登場させた。同時に富田や犬塚を再登場させたのは、なんだかんだで彼らに愛着がわき始めていたというのもあるが、なんかイマイチ使えていなかった元文芸倶楽部メンバーをもう少し活用したかった。まあ、結局は容疑者役とか情報提供役としてもう少し活用できたらなあ、という忸怩たる思いが残ったが。兵頭は、高校デビュー的なものでキャラが変わったというのはもとからあった設定だったが、バンドが云々というのは直近で観ていたアニメの影響である。長谷川についても、もちょっとなんか掘り下げができたらなあとも思う。居場所がなかったという描写を入れて、御堂の計画に賛同しやすいという状況の描写を入れるべきだったと思う。


「傍観者たち」

 志帆という部外者視点を強調しつつ、さらに部外者的な視点の示唆と作品のテーマ的なものを終盤に向けてのジャンプボードとして配置した。まあ、けっこうあからさまというか、露骨で興ざめしてしまうかもしれないが、これくらい露骨のほうが色々とわかりやすい気もした。


「彼の居場所」

 最後へ向けて、最終ポイントとしての御堂司の死体発見シーン。木の枝にある「擦った跡」は、典型的な「なにかある」やつで、自殺を暗示するには露骨すぎる気はしたが、ほかにあんまりいいアイディアもなかった。死体がここに埋められた時期が手掛かりになるという手掛かりのアイディアは割と最後に出てきた。手掛かりのアイディア自体は悪くはないと思うのだが、それをうまく提示・処理できたかとなると少し課題が残る。


「サーカス前・後編」

 解決編がかなり難物というか、メタミステリ具合がけっこう入り組んでしまい、単に真相を明かすだけではいろいろちぐはぐになってしまった。犯人たちが推理されることも誘導しているため、要たちがそのメタレベルまで真相を察するかどうかに悩んでいた。公募投稿版は、すべてを悟った要が沈黙し、志帆が独自に犯人を推理して犯人を紙谷だと特定したことを告げることで要が動く、みたいな形だった。しかし、そのまま書きすすんでいくと、志帆が推理を披露して犯人を指摘してから、犯人が推理すること自体、探偵小説を現実に演出することが狙いであると真意を明かし、要も知ってましたよ、みたいなムーブをとると志帆だけがはしごを外された道化役みたいになってしまい、微妙な感じになってしまっていた。要もなんだか犯人サイドの共犯者っぽくなり、全体的に真意を告げる犯人からの反撃みたいなのも効果が薄くなって、いろいろとめんどうなことになっていた。結局、やはり要をヒーロー的な全知の探偵役からおろし、その全知の探偵を犯人側が利用するというより、犯人が作る張りぼての探偵という位置づけにした。名前も元々空木――茎の中が中空――空っぽの事件の要という意味だったので、こうしたほうがより元々のコンセプトっぽくなったように思う。そして、代わりに全編の推理を担い、志帆は語り手視点として合いの手というか、読者に対しての補足役を担ってもらうことにした。そして、推理では明らかにできない犯人の意図を犯人側がカウンターとして打ち返すという構成にした。まあ、公募版より少しはましというか、ちぐはぐ感は薄れたように思う。そう願いたい。

 最後の推理を披露する舞台は、御堂と要が本編事件以前に巻き込まれた事件の舞台、美術館を振出しに回帰する形で書かれていたが、真相の性質を考えた場合、彼らが犯人当てをしていた場所こそがふさわしいような気がして、公募版から変更しいつもの喫茶店にした。そういえば、物語の始まりの場所も喫茶店だったので今となっては一圓銀貨という名前も含めて最後の推理の場としてはふさわしい気がしてきた。また、美術館は外のテラスだったが、喫茶店内とすることで「ドア」を犯人との隔絶や彼らの状況みたいなものを象徴できたように思う。あまり意図せず、やがて出て対峙しないといけない「暑さ」の暗示もできた。


「開演前のモノローグ」

 公募版は、主人公でとりあえず終わらせたいという気分が先行し、なんか要が夜が迫る街をぶらぶら歩いてなんかエモいことを言う、みたいな場面で幕だったが、なんかイマイチだったので、公募版の時点で構想だけしていた矢津井が御堂らと通じていた設定を引っ張り出して彼のモノローグで締めくくることにした。志帆がやってきて告発するとか、要が来て御堂とのつながりを指摘するとかそういうバージョンも考えたが、くどくなるし、やはりモノローグ的な冒頭とのつながりで要の周囲にいたもう一人のモノローグで閉じたほうがいいと思い、この形になった。


 最後まで来て、作品概要を一言でいえば、大時代的な探偵小説的な要素をクイーン(あくまで)志向のロジックで語るためにそれらをメタミステリで接木したような作品になった感じだろうか。奔放な方向性をロジックで収めようとしたら、必然的にメタミステリが要請されてしまうような気はする。そういえば、某作家がメタミステリというのは探偵小説である、ということが仕掛けになっている小説のこと、という風に言っていたが、一応、そういう形のメタミステリになっているんじゃないだろうか。いやまあ、だからどうということでもないが。


 大体こんな感じか。そいうえば、タイトルもなかなかバシッと決まらず、二転三転している。最初はかなり長くて中二なタイトルだったが、公募の時点で『虚ろなサーカス』となり、それもやはり影響作がモロみえとか、なんか字面が好きじゃないとかで最終的な今回の投稿では『死人とサーカス』になった(『吸血鬼と精神分析』が目に入って、~のではなく~と、という形がしっくりくるような気がしたのもある)。死者とも迷ったが、語感と即物的な感じを取り、死人となった。ちなみに作者的には「しびと」を推奨しているが、「しにん」でも別に構わない。

 

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解題・解体/分解 カワカミ @utou0625

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