ゆめみるお仕事③

 商店街に向かう道中、瓦屋根に忍者を走らせたり、突如として住宅街に現れたテロリストに一人で対抗してみたり、子供じみた無益な妄想をする。


 俺がもし、ヒーローであれば。

 いや、そんな特別なものでなくていい。普通の高校生男子であれば、この“病気”でなければ――突拍子もない妄想は、次第にごく普通のたらればに収束していく。

 だが、さして気分は晴れない。むしろ憂鬱は加速するばかりだ。


 気付くと、錆びて朽ちかけた住宅街の門が眼前にそびえていた。もう目的地に辿り着いていたらしい。

 子供の頃から一切様相の変わらない、寂れた場所。


 そんな変わらぬ景色の中に、見慣れない人物を見つける。



 今にも崩れ落ちそうな門の足元。

 田舎の原風景に相応しくない、幻想的な美少女が立ち尽くしていた。



 伸び放題になった、銀色の癖っ毛。

 生まれてから日を浴びていないのではないかと疑うほどの白い肌。

 まさしく、白皙の美少女といった感じの容貌だ。

 患者とも医者とも取れるような白衣を着崩していて、その容姿と相俟って、儚げな印象を受ける。


 そこまで少女を眺め入った後で、俺はある違和感に気付く。

 だがその違和感は、少女が突如として上げた高らかな声によって遮られてしまう。


「やあ! やっと見つけたよ」


 端正な顔を崩して、少女は笑顔を見せた。

 周囲に俺と少女以外の人間はいない。つまり、俺に話しかけている。


 まさか話しかけられるとは思っておらず、俺は酷く動転した。

 じろじろ見ていることがばれてしまったんだろうか。だが、見つけた、とはどういう意味なのだろう。

 客引き。宗教勧誘――様々な憶測が脳裏を飛び交う。


「あ、あの……人違いじゃ………」

「いーや。キミみたいな子を探してたんだよ。やっと会えたね」


 その薄い唇から紡がれる言葉は、儚げな見た目にそぐわず軽快で軽薄なものだった。

 まさかこんな可愛らしい少女からナンパのような声掛けを食らうとは。何より祖父以外の人と話すのは久々で、どうにも言葉が出てこない。


「そ、それって、どういう―――」


 噛みながらも少女の言葉の真意を尋ねようとしたところで、何の前触れもなく、耐え難い眠気が襲う。



 くそ、こんなところでまた“発作”か――。

 夢も現実も、どうしてこんなにままならないのだろう。


 体の自由が効かなくなり、俺はそのまま目の前の少女目掛けて倒れ込んだ。


 発作で倒れて体をぶつけなかったのは久々だな、と呑気な思考が過った後、俺の意識は深い深いところへと落ちていった。



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