ゆめみるお仕事②

 音が近づいてくる。

 ローファーがコンクリートを蹴る音。そして。


 俺は窓を閉めた上でカーテンを仕切り、その音を遮ろうとする。

 そんなことをしても無駄だというのに。


 ――雁道のはずれに「悪夢を消してくれる店」があるって……

 ――他人の夢に入れるって、嘘くさいよね……


 程なくして、登校途中と思しき女子高生の会話が聞こえてきた。

 同じ高校生だというのに、何故こうも気疎く感じるのだろう。仕様のない駄弁でさえ鬱陶しい。


 気を逸らすためにテレビを点けてみるが、世界的ミュージシャンの来日迫る!だの、新興宗教団体によるボランティア活動だの、つまらないニュースばかりが流れている。

 俺は数回チャンネルを切り替え、目ぼしい番組が無いことを確認すると、すぐにテレビの電源を切った。



 起きていても、何もすることがない。

 朝食を済ませてから、掻っ込む勢いで大量の錠剤を服用した。同居している祖父に書き置きを残してから、玄関を出る。

 本当はあまり出歩いてはならないのだが、車道にさえ出なければ、もし倒れても誰かに迷惑はかからないだろう。

 俺は、あてどなく人気の無い通路を歩き始めた。


 気分が優れない。

 最近、どうも夢見が悪いのだ。

 いや、良かったことなど一度も無いのだが……それにしても、最近は悪夢を見る割合が高い。


 連日、謎の男の夢ばかりを見るのだ。

 繋がりかけた濃い眉。うっすらと弧を描いた薄い唇。七三に分けたやや後退した頭髪。

 さして嫌悪感を抱くほどの容姿ではないが、やはりこうも連続して夢に見ると不気味に感じる。



 俺に唯一与えられた自由である夢すらも、不自由なものに変わりつつあることが、この上なく辛く感じた。



(そういえば、悪夢を消してくれる店がある、とか何とか………)


 ふと、早朝に聞いた女子高生の噂話を思い出す。

 俺の悪夢も、その店なら消し去ることができるだろうか?


 雁道というのは、俺の家から南に向かった方にある、廃れた商店街がある土地だ。

 この町はそうそう新しいものが入ってこないド田舎だ。女子高生の話は与太話だとして、散歩がてら見物に行ってみるのも良いだろう。あの辺りは人も少ないし、どうせ他に何もすることはないのだ。

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