第12話 好きな人が奪われてしまう。
ファミレスに着いた俺と芽衣は、お互い注文し終えてドリンクバーへと向かった。
話す話題を考えていると、先に芽衣が話しかけてきた。
「明人くんは、放課後誰かと食べに行くことはあるのですか?」
俺に友達はいないことを芽衣は知ってるだろ……
そう思い芽衣の顔を見るが、真顔だったので冗談で聞いたわけではないと思う。
芽衣の純粋な質問にメンタルが少しやられる。
「あんまりないかな」
「茅野さんとは行かないのですか……?」
芽衣は俺と莉子がよくファミレスに行くと思って質問したのかな。
「行かないね、高校生になって莉子とどこか行った記憶なんて、この前の芽衣と会った買い物の時くらいだよ」
「そうなんですね……!」
俺の言葉を聞いて芽衣の表情が何故か少し嬉しそうになっているような気がしたが、たぶん気のせいだと思う。芽衣は俺と莉子の関係なんて大して気にしてないだろう。
ドリンクバーで飲み物を注いで席に戻る。
席に座ろうとした時、ふと誰かがこちらを見ているような気がした。
気になってあたりを見回すが怪しそうな人はいなかった。というか、一般の高校生を見てる人なんていないか。きっとただの思い過ごしだろう。
俺はそう結論付けて席に座る。
少し待っていると注文した料理が出てきた。
「「いただきます」」
俺はステーキを、芽衣はドリアを頼んでそれぞれ食べ始める。
食事中は私語を控えて黙々と食べていると、芽衣がドリアを掬ったスプーンをこちらに近づけてきた。
「あ、あの、明人くん、よかったら私のドリア一口食べますか?」
芽衣のまさかの提案に驚いて咽そうになる。
「だ、大丈夫だよ、それは恋人同士の人がやることだから」
アニメに悪影響を受けてこんな提案をしたのかと思い、俺はすぐに断る。
すると、芽衣は笑ってはいるがどこか暗い表情になった。
「そ、そうですよね、冗談です、ごめんなさい……」
「気にしないで……!それより冷めないうちに食べよ!」
気まずい空気になってしまったので、空気を変えるべく食事に集中する。
お互い食べ終えると、芽衣は少しのジュースを飲んで意を決したように話し始めた。
「あの、明人くん、実は私も、自分磨き……しようと思うんです………」
じ、自分磨き……!?芽衣が!?
今でも十分可愛いけど今の自分的には満足していないのだろうか。
まぁ、でも俺の場合学力も性格も顔も変えなきゃいけないが、芽衣は話しかけにくい今の雰囲気をやめるだけでもかなり人生変わるとは思う。
「急にどうしたの?」
理由が気になって聞いてみる。
「その、明人くんを見てると自分も頑張ろうかな!と思って……」
ということは俺に触発されてということだろうか。
それならめちゃくちゃ嬉しいし協力は惜しまない。
けど、俺にその話をしたのは何故なのだろう。
気になったので質問する。
「そっか、いいと思うよ!それで、俺は何か協力した方がいいの?」
「そ、それで、明人くんには、その……」
芽衣は言い淀み恥ずかしそうに耳までで顔を真っ赤にする。
急かさずに待っていると芽衣は深呼吸をした後教えてくれた。
「り、理想の女の子を………教えてほしくて……」
理想の女の子?
全男性が惚れる完ぺきな女子の理想像を教えれば良いのだろうか?
まさか俺個人の女子の理想像を聞いているわけではないだろう。
「俺個人の理想じゃなくて全男子の理想ってこと……?」
「そ、そうですね、それでも別にかまいません」
それでもということは、本当は少し違うのだろうか。
でも、それでお願いされたのだからこれ以上の追及はしちゃだめだよな。
「女子の理想かぁ……髪は艶があった方がいいけど髪型は人それぞれ好みだと思うよ」
あまり参考にはなっていないような気がするが、芽衣は真剣に俺の話を聞いてくれてメモまで書いている。そんな芽衣の姿に感心していると、芽衣から質問が来た。
「ち、因みに深い意味はないのですが、明人くんの好きな髪形は……?」
お、俺えぇぇぇ!?
驚きすぎて心の中で叫んでしまったが、芽衣はきっと参考程度に聞いてみたいのだろう。
「俺は肩くらいまでのミディアム?が好きかな」
俺が言うと、芽衣はにやにや笑みを浮かべながら、ものすごい速さでメモしていた。
俺のってそんなに参考になるのかな……
そう思いつつも、こんな感じで好きな仕草や服装、口調などを聞かれたがその都度「因みに明人くんは…」と聞かれた。芽衣は俺意外の男友達がいないイメージがあるので、このままでは俺の理想像になってしまいそうで少し心配になる。
「明人くんの理想……ごほんっ、えー、全男子の理想は分かってきました!ご協力ありがとございました……!」
今、俺の理想と言っていたような……まぁ、ただの言い間違いかな。
質問は終わったようで、芽衣はメモ帳を制服のポケットにしまった。
「でも、芽衣は自分磨きとかいらないと思うけど……」
本音でそう思っているので、一応伝えておくと芽衣は笑顔になった。
「そう言ってくれて嬉しいです。ありがとうございます」
思わず本音を言ってしまったが、もしかしたら自分磨きをするという芽衣の決意の邪魔をしてしまったかもしれない。
そう思い申し訳なくなっていると、芽衣が「でも……」と話を続けた。
「でも、私が変わらないと、好きな人を奪われちゃうので……」
前に芽衣の言っていたことを思い出す。
好きな人のために芽衣も頑張るのか……
今の芽衣を見ていると自分も頑張ろうという気持ちになってくる。
「そっか、応援してるよ、頑張って!」
「はい!頑張ります!」
芽衣は俺にそう誓って、微笑んだ。
スクールカースト最底辺を脱却しようと自分磨きを始めたら、幼馴染が焦ってる件。 シノー @steal1flo
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