くしゃみ
「はぁ」
交易都市ポロポレンツィアは今日は雨だった。
まるで俺の心象風景の様だと詩人を気取る気はない。もし口にしたなら、耳にした誰かにきっと爆笑された上で馬鹿にしたような目で見られることだろう。俺には文才なんてモンはないのだ。
「ボブ」
そしてこんな日にもかかわらず謎の女ことボブは俺をつけてくる。こう、近くの建物の軒下を利用して極力濡れるのを避けながら。
「いや、傘ぐらいさせよ」
建物同士の間が離れているところもあれば雨は完全に防げない。そうして服が濡れれば、体の線がくっきり浮かび上がって、独り身の男からすると目の毒となる訳だ。
ボブは無駄にスタイルがいいし、奇行さえなければ美女と読んで差し支えない顔立ちなのだから。
「って、ダメだダメだ!」
そう言えばボブには落とした毒消しの花を持っていかれたんだった。
「ツッコミさえ曲解されかねん」
傘をさすと言って俺の傘を持っていかれたらこっちがずぶ濡れだ。
「ボっぷしゅ」
「……何だそのくしゃみ」
思わず、声が出ていた。反応してはダメだとわかっていてもそれは反則だろう。
「はぁ……」
あっちが勝手に尾行してるのだからこちらに落ち度はない、ないが。
「……入るか?」
傘をずらし、俺は自分の横を示す。
「風邪でも引かれたら寝覚めが悪い」
自分でも何やっているんだと思うところはある。だが、無意味にこんなことをしたわけでもない。俺はボブについて何も知らなさ過ぎた。
「どこまで行くつもりだ?」
そう、傘に入らせ目的地を聞けば、コイツが何をしたいかの一端が知れるかもしれないし、ダメでも目的地まで送ればその後尾行される理由が消失する。
転んでもただで済ませるつもりはない。情報の一つ二つは貰ってゆくつもりで。
「あなたのうち」
「ナンデ?!」
思わず裏返った声で叫んでしまったのは仕方がない。
というか、予想できただろうか、そんな答えが。
ボブの方が先に好きだったのに(BSS) 闇谷 紅 @yamitanikou
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