えすきゅう


「しばらくお待ちください」


 受付嬢の言葉にああと短く答えて俺はギルドのカウンター近くに並ぶ待合用の椅子の一つに腰を下ろす。あとは名を呼ばれた時報酬を受け取って帰るだけなのだが、今日は珍しく周囲に俺の様に待つ冒険者はいなかった。


「そういえばここってS級が二人もいるんだよな」


 冒険者がランク分けされているのがいつのころから始まったのかを俺は知らない。ただ、その最上ランクがS級と呼ばれ国に一人居ればいい方だと言われるぐらい総数が少ないことは知っていた。


「やっぱいろんな品が入って来るからかな、ここに二人もいるってのは」


 一つの都市にS級が二人、しかもそれが王都だとかでないというのは珍しいどころの話ではない。


「まぁ、まったくない訳じゃないが」


 類は友を呼ぶ、というか同じ最上位ランク同士である程度身の上が似ていて、意気投合した二人がつるんでいるとかなら不自然さはない。


「友人とか恋人だとか関係は色々だろうけどな」


 他にも片方が師匠でもう一方は最近Sランクに上がったばかりの弟子、なんてパターンも存在するかもしれない。


「あるいは親子……」

「ボブ」


 すぐ後ろからボソッと聞こえた声。


「っ、のわぁ?!」


 ある程度以上のランクの冒険者は緊急の事態に即座に反応できなくてはあっさり命を落とす。だからこそ、予期せぬ事態に俺の身体も反射的に動いたのだが。


「く、そ」


 半端だった。反射的に振り返りつつ距離をとろうとして、椅子から転げ落ちたのだ。ランクを鑑みるとありえない醜態だった。こう、周りに人が居なくて良かったとも思うが。


「おまえ、何だよ……」


 一切の気配を感じなかった。いくら俺が考え事をしていたとしても。


「はぁぁ」


 穴があったら何とやらと言う奴だ。受付嬢にはばっちり目撃されただろう。こいつというかボブにもだが。


「最悪だ」


 今は事務的だが、この受付嬢は女とは縁のない俺に割と親しくしてくれる人だったのだ。


「もしかして俺に気があるとか?」


 なんてささやかな期待と言うか自惚れをしてしまうぐらいには。ひょっとして、俺はずっとこのまま独り身なのだろうか。手をついたギルドの床は冷たかった。


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 謎の女、ボブ。

 実はS級冒険者の一人である。(酷いネタバレ)


 主人公が気配を感じなくても仕方ないよね。

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