「ホントなんて言うかな」


 オモワソレルの花。毒消しの薬草なのだが薬用効果のある部分が花で、淡い色合いのかわいらしい花はいかにも若い女が好みそうな見た目をしている。


「普通に意中の女へプレゼントとして渡しても問題なさそうな感じだよな……」


 道具屋の毎度ありがとうございましたという声に送られて店を出た俺はその花を見て呟く。もちろん、プレゼントするような女なんていないし、そもそもこれは仕事で毒を持った魔物の出没する森に出かけないといけないことから念のために購入したものだった。


「生の方が効き目がいいらしいからな」


 いつ使うかわからずそなえておくなら、長期保存に適した加工を施したモノも売っていたが、生なら効き目がいい分効果が出るのも早く量も少なくて済む。


「俺一人ならこの数輪ありゃいいだろ」


 逆に言うなら、複数人用だと小さな花束になったりもするわけで、ふいに思い出すのはこの交易都市に来るよりもかなり前のこと。


「そう言えば、アイツがオモワソレルの花束持って歩いてたせいでからかわれてたことがあったな」


 昔参加していて解散したパーティーの一人が、「これからプロボーズかい」とか声をかけられてて、弁解する様子を眺めて仲間たちと爆笑したもんだ。


「傍目綺麗な花だもんな……うおっと」


 油断かと言えば、油断なのだろう。軽く指二本で摘まんでいた花は突然の風にあおられて飛んで。


「「あ」」


 声が重なる。飛んだオモワソレルの花が落ちたのは、いつの間にかそこにいたボブの足元だったのだ。

 屈んだボブはおもむろに花を拾い上げ。


「悪い、その、何だ……」


 今日はやや胸元の開いた服を着ていたものだから、ありがたい谷間が見えた、とかではなく、花を拾ってくれた礼を俺は口にして。


「ボブ、すみれの花も、好き」

「えっ、あ、ちょ」


 思わず手を伸ばすも、ボブはくるりと背を向けるとそのまま去っていった。


「花、盗られた…………じゃねぇよ! 追いかけろよ、俺!」


 あれがないと仕事に支障をきたすかもしれない。我に返った俺は慌てて追いかけ。


「はぁ、はぁ、くそ……どこいった」


 普段気が付くとストーキングしているくせに、こちらが探すと見当たらないのだ。


「あー、諦めてもう一輪買うか……」


 余計な出費だが、森で魔物の毒爪に引っかかれて解毒できないよりははるかにマシだ。


「なんだってんだ、ったく。……しかし、すみれってこの辺りじゃ求婚の時に贈る花じゃなかったか?」


 前に採取依頼でそこそこ険しい崖の上にしか咲かないすみれを取りに行ったからこそ覚えていたのだが。


「いやいやいや、流石にないだろ……」


 あの女に求婚を強請られる理由がまずない。気のせいに違いなかった。

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 謎の女、ボブ。

 やはり、よくわからない女であった。


 なお、求婚用のすみれの採取依頼は特定のシーズンに集中する模様。(恋人たちの祝祭的な日の一週間~数日前とか)

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