The Fumble

mirailive05

The Fumble(青色杯の習作です)

 朝っぱらから額に嫌な汗がにじんでくる。それが頬を伝い顎から滴り落ちていく。目の前にいる人物が、仁王立ちで俺をにらんでいた。

 旅行に行っていて不在だった妻が、帰って来るなり俺を攻め立てていた。


「あなた、昨日私に黙って誰かを泊めたわね?」


 嫉妬深い妻が、一層嫉妬深く俺を追求する。すっかり寝入って、妻が帰ってくるまで気が付かなかったことが致命的だった。


「スミス達を泊めただけだよ、よくあることじゃないか」


 旧友のスミス夫妻とは、大学の時からの親交がある。俺、そして夫妻の三人は何かとつるむことが多かった。スミス夫妻は珍しいことに、夫も妻もラストネームはスミスだった。結婚後もスミス、面倒がなくていい。


「ゲストルームのことを言っているのではないの、なぜが乱れているのかしら」


 俺は冷や汗を流しながら必死に言い訳を考えた。妻は、昔俺がMissスミスと付き合っていた過去を知っている。結婚後も、何かと俺と彼女の関係を疑っていた。


「だいぶ酔っていたんだ、みなフラフラで記憶にない」


「Mrスミスは起きたときゲストルームで一人だったそうよ、夫人の方はシャワーを浴びていたって」


「それだけで疑うのは、少し狭量じゃないのか」


「じゃあ、このゴミ箱に入っているものは何かしら」


 俺は観念してため息をついた。妻との溝は元には戻るまい。離婚を余儀なくされるかもしれない。暗澹たる気持ちで、ベッドに腰掛ける。


 一通り落ち込んだ後に、俺はほっと溜息をついた。今度は後悔のため息ではなかった。


「助かった。どうやら彼との浮気のほうはばれずにすみそうだ」



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