第2話 【SIDE冬夜】お、座敷童。


「はああ〜ダルい。冬夜とうやあ、野良タク拾わね?」

「そんなこと言ってると香澄かすみさんにまた怒られるよ? タクシーもハイヤーも駄目だからね?」

「へっ。イギリスから画面で怒られてもおっかなくなんてねえよ!」

「その割には顔、真っ青だけど?」

「うっせ」


 数分ごとに聞こえてくる唯我ゆいがの生あくび、そしてため息。今日も絶好調だね、逆の意味で。


「中等部までは送り迎え禁止とかさ、ないわー」

「学園の方針に文句を言ってもしょうがないでしょ。唯我が理事会と闘うって言うなら手伝ってもいいけど?」

「そんで親父達に『つうこんのいちげき』くらうってか。無理無理」

「そういうこと。ほら、歩く歩く」

「へーへー」


 肩をすくめてダラダラと歩く唯我に笑ってしまう。香澄さんが高等部にいた頃は、ここまでじゃなかったのにね。


 イギリスの大学へ。

 そして卒業したらそのままお嫁さん、か。

 

 ……あ。

 あの子だ。

 今日は八百屋さんの横。


 また猫達と遊んでる。

 あんなに好かれるなんて、すごい。

 僕だとあんな風にはならないんだよね……逃げられるし。 


『きゃ!』


 ありゃりゃ、飛び掛かられた。

 あはは、またやってる!


 人差し指を立てて、一生懸命に猫に向かって何か言ってる。ああ、ほっこりするなあ。


 艶のある黒髪、ボブヘアー。


 ちょこん、と座って本当に嬉しそうに猫と遊んでる。唯我じゃないけど、何か幸せをもたらしてくれそうな……。

 

「ん? 冬夜、止まんなよ。お、座敷童ざしきわらし

「うん」

「今日はリボンタイして……青色?! 新入生じゃなかったのかあいつ! いっこ下かよ!」

「みたいだね。ほらほら、ジロジロ見ない。行こう……あれ?」


 何だろう。男子達があの子を見て、コソコソ話をしてる。青いタイだから同級生か。


 気になるのかな。あんなに可愛らしいし、ね。


 でも。


 うつむく男の子に、ニヤニヤ顔でその肩を押す数人。何か気になる。


「おい冬夜。早く行こうぜ」

「ごめん、ちょっと待って」


” 負け……罰……! 好きって………! ”

” ………やっぱり……でき………… ”

” ああ?! ”


 あんまりいい雰囲気じゃない。

 罰、ゲーム?

 

 それで唯我が肩に手を置いて……唯我?!

 いつの間に!

  

「なあ。ちょっと聞いていいか?」

「は? 誰だよ……ふ、藤宮ふじのみや先輩?!」

「唯我! 申し訳ない、すぐに連れていくから」

洞院どういん先輩っ?! お、おはようございます!」


 一斉に頭を下げられる。

 もう、何をするつもりなの!


 「!!………………」 


 だだだ!

 すたたたたっ!

 にゃ!


 ああ!

 あの子も猫達も逃げちゃったじゃないか! 


「おう、藤宮だ。お前ら、何コソコソしてる?」

「……唯我、言い方! ごめんね。あの女の子の知り合い、かな?」

「あ、あのですね! 罰ゲームで! コイツが大滝おおたきに、告……」

「おい、言うな!」

「あん?」


 ああ、何か聞いたことある。


 告白ゲーム。


 好きでもない相手に、告白をする。

 しかも罰ゲームで。

 

 イヤな事をするなあ。

 気分が悪くなった。

 僕も今、唯我くらい目つきが悪くなっていないだろうか。 

 

「な、何でもないです! 失礼します!」

「「「失礼します!!」」」

「待て! ……逃げちまった。何だ、ありゃ?」

「あまり気持ちのいい話ではなかったね。唯我、考えがなさすぎ!」

「気になってたんだろ? 行こうぜ……ふ、ああああ、ねむ」


 スタスタと進む唯我を、小走りで追いかける。


 こういう所だ。

 こういう男だ。


 雑に見えても。

 俺様、に見えても。


 人を見ている。

 優しさを、思いやりを持ってる。


 それが僕の頼れる親友、藤宮唯我という奴なのだから。

 

「唯我、ありがとう」

「知らん」

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