『評伝:皇直哉 現代の英雄』から抜粋

 すめらぎなお(2005~)

 

 戦前から続く名家で生を受ける。

 父は“スメラギホールディングス”会長、皇ともなえ

 当家独自の教育によって、学力と人間性の両面に亘って優れた人物となり、小学校の時分から、既にリーダーシップの片鱗が見えていたと言う。

 2024年に高校卒業後、リーランド・スタンフォード・ジュニア大学入学。同大学経営大学院でMBAを取得する傍ら、トライアスロンの競技者として知られ、肉体強化にも勤しむバイタリティをも見せる。

 「実際の戦場の現実を肌で感じたい」という思いを抱き、2028年から3年間従軍。この時の経験が、後に彼の生涯のテーマ、「平和と平等の具体的実現」の芽生えとなる。

 2032年、父倶苗の自殺によって、 “スメラギホールディングス”の会長に就任。同年には世界的富豪一族ジューディーの一人、サビーナ・ジューディーと結婚。受け継いだ財と地盤を元手に、更なる富を積み上げ、世界の長者番付にも入る。

 特に、2040年に発足した“スメラギ機関”は、社会的・文化的評価も高い。同団体は潤沢な資金によって、世界の貧困層の支援や、多様な分野の研究開発など、資金提供を積極的に行った。人類の技術的進歩を30年は早め、多くの人命を救ったとされる。



 数多くの功績を打ち立てた彼だが、成功者の常か、黒い噂や、誇張された毀誉褒貶も多い。

 敵対者への容赦ない攻撃や、特定の人間への奴隷扱い、権力財力を笠に着た横暴、癒着や不正、死の商人との繋がりまで。

 逆に、闇で暗躍する化け物を狩る、ヒーローだと言う者も居る。


 ところが、それらを裏付ける客観的証拠という物は、実は存在しない。ほとんどが風聞、流言飛語の類である。


 事実をベースとした上で見れば、不可解な点とは、二つだけ。

 彼を狙ったテロ・暗殺未遂事件が、異常な回数起こっていること(因みにこの一環として、妻であるサビーナも喪っている)。

 そして、


 彼の高校時代、親しかった同級生が、一人失踪していること。


 それだけである。


 彼は確かに、波瀾万丈な人生を送ったのだろう。

 “普通”からは突出した、能力と経歴を持っているだろう。

 だが、他の誰とも同じ、単なる一人の人間に過ぎない。

 彼だけが特別、という認識は、思考の停止である。


 「選ばれし救世主」、或いは「史上最も巧妙な悪魔」と呼ばれた男。実際の所、どういった人物であるのか。

 本書は資料や証言などの記録を基に、その素顔に迫っていくと共に——




                                  (以下略)

                                  (そして)

              (暴王に楽土無し~Nero can't reach Heaven~ おわり)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

暴王に楽土無し~Nero can't reach Heaven~ @D-S-L

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ