スペシャルスコア2
先生が到着してもなお、興奮冷めやらぬ教室内。デイネスとアネットに会えるのは、それだけ光栄なことなのだろう。
しかし毎日顔を合わせる俺としては、全然そんな風に思えるはずがなく、どうにもクラスメイトたちの熱量に付き合いきれていない。
この感じだと、安易な約束をしてしまったばかりにクラスメイト全員が家に押し掛ける事態にもなりかねない。先着制度でも設けておけば良かったと悔やまれる。
「ほっほっ。大嚴様ならびに魔導長官様の拝謁賜われること、興奮する気持ちはよぉ分かるが、皆さん一度落ち着きなさい」
始業の鐘が鳴ってから既に五分程が経過している。
ローレン先生と同じように、いい加減落ち着けと思っていたところだ。
はい、皆さんが静かになるまでに七分程が経ちました。
静かになったところでそんな言葉が頭をよぎった。口に出していれば『お前も黙れ』と言われそうな台詞である。
「はてさて、それでは授業を始めるとするかの」
コツンと杖で床を叩きローレン先生は黒板と向き合った。
カツカツと爽快な音を立てながら卓越した筆運びで板書を記していく。
「本日の一限目は、一年次生全クラス共通して『特別奨励制度』についてを学んでもらう。本来であれば、皆が学校に慣れ親しんできた一学期中期に伝えるのじゃが……、そこに座っておるトーヤ君が得点を獲得したからのぉ。急ではあるが、教員判断により本日享受する運びとなった」
そう皆に語りかけてから、ローレン先生は俺を見る。
「学校創設以来最速での奨励点獲得、実に見事じゃ。私のクラスから快挙を成す者が現れてくれて嬉しく思うぞ」
「……恐悦至極にございます……」
「ほっほっ。ササザラシ討伐の功績、褒め称えられるのも当然のことじゃて、そう畏まらなくてもよい」
とはいってもなぁ。褒めてくれるのは有り難いけど、全員の前で言われると嬉しさよりも恥ずかしさが勝る。それに授業の予定を乱したとも取れるからな、恐れ多すぎるってもんだ。
「一限目の準備をしていた者もいるようじゃが……、すまぬがそれら教材は一度しまっておいてもらえるかな」
うわっ。テアを筆頭とする準備をしていた人たちに申し訳が立たない。肋の一本は折ったままにしておけば良かった。
「今から皆には代わりとなる教材を配るのじゃが、コレには口外禁止事項も多分に含まれているため、授業終了時に回収する。持ち帰ろうとすればその時点で退学処分となりますから、気を付けるように」
口振りと処罰の採算がまったく釣り合ってない。さらりと言ってのけるには些か重たすぎる内容だ。
「先生。もし仮に、私たちの誰かが口外した場合はどうなりますか?」
攻めた質問をする生徒が一人。名前は確か、フェリスって言ったかな。
「口外禁止事項なんだろ? 喋れば退学になるんじゃねえの?」
反応したのは先生ではなくアランだった。
「私もその可能性が高いとは思ったんだけど、一概には言えないのかなぁって」
「どうしてだ?」
「物証と口唱から得られる信用度には大きな違いがあるからよ」
フェリスの言い分はとても興味深い。
「それに、"どこからどこまでの範囲を規制されるのか"でも話は違ってくるはず。家族に話してもアウトなのか、とか。校内であればセーフなのか、とか……。アウトだとしたら厳しすぎるとも思うのよ。学校生活の内情を迂闊に話せなくなるでしょう? 知らず知らずのうちに口外禁止事項に触れていて、次の日学校に来たら『はい、退学ー』って……、そんなことになったら悲惨だと思わない?」
「た、確かに悲惨だな」
「そ、だから私的には、口外禁止ではあるけれど家族に話した程度では退学にはならないんじゃないかなって――そんな推測をしての質問でした。先生すみません、長々と話しちゃって」
やはり興味深いな。それに、フェリスはどうやら頭が切れるようだ。
アラン同様、そこまでの疑問は持てなかった。
「ほほっ。お互いの疑問をぶつけ合うのは人間として正しい行いじゃて、止めはせぬから思う存分話したらよい。皆も、今後何か思うことがあれば、その都度言ってもらって結構じゃからの」
「温情をいただき、ありがたく思います」
「人生という道のりは長く険しい山ばかり。気を張ってばかりいては息が詰まるじゃろう」
だからこそ、楽に生こう。と先生は言う。
『言い聞かせるだけが教育ではない』とはアネットの言葉だったかな。
ローレン先生の対応は正しくアネットの言葉通り。
疑問を抱くことを恐れさせない。
圧制の無い発言の場を設ける。
教育において大切だとされている二つの事柄を一言で達成してみせた。もちろん、教育に正解なんて無いのかもしれないけど、少なくとも間違っていると言う事はないだろう。
質問をしたフェリス、口を挟んだアラン。二人の表情に怯えはなく、他の生徒たちにも不安は感じられない。
流石は元王国軍司令官様。たったの一手で生徒たちからの信頼を深めたようだ。かくいう俺もそのうちの一人である。
「他に質問のある者はいるかな? 居ないのなら返答をするとしようかの」
そう言って、ローレン先生は冊子を取り出した。最前列に座る生徒へ数冊を手渡すと後ろへ回すように告げる。
テアから受け取り、一冊抜き取って後ろの席に座る女子生徒、マルタに残りの冊子を渡す。
そしてすぐに表紙へと目を移した。
『特定機密事項、特別奨励生徒の任命制度』
重々しい言葉が大きく赤文字で記されている。
「配られた紙に記されている文字を書き写す事は可能でしょうか」
小さく挙手をしながらテアが意見を飛ばした。
持ち出しが禁止されている状況なのに、随分と攻めた質問をするものだな。このクラスの女子生徒は一体どうなってんだ。肝っ玉が据わり過ぎている。
「君の様子を見る限りでは、肯定的な返答が受けられるとは思っていないようだ。テアくんは何故そのような質問をしたのかな?」
「はい。一読しただけで制度の全てを記憶するのは難しいと思ったからです」
「……たしかに」
あまりの正当性に、思わず言葉を漏らした。
表紙を合わせて全部で5ページで構成された冊子。分厚い教科書というわけでは無いが、たった一時間やそこらで覚えられる文字量ではない。ましてや、これから送る学校生活は、常に制限された言動を心掛けなければならない。
退学も掛かっている重要な決まり事。
持ち出しがダメなら、"せめて書き写させろ"とは誰が抱いてもおかしくない普通の感情だ。
「うむ。十分に理の適った質問のようじゃな。それでは回答するとしようか」
考えなしの質問ではなかった事に満足したのか、大きく頷いてからローレン先生は続ける。
「まずはフェリスくんの意見に対する回答じゃが、冊子の1
言われた通り、箇条書きされた禁則事項の上から三つ目の項目に視線を移す。そこには、『口外の禁止』と銘を打ってから次のように続いていた。
『特定状況に該当する場合は不問とする』
「そしてそのまま下は読み進めていくと分かる通り、特定状況とは『在校生と教員への伝達や相談』、『保護者、管理者への伝達(口外禁止事項であることも同時に伝達するモノとする)』の二通りが該当する――」
在校生ならば知っていて当然の事柄になる。故に口外禁止には当てはまらない。
そして、自分たちの保護者や管理者になら
「以上の状況下以外では如何なる場合であっても口外禁止となる。それを破らば、次の項目」
『違反者は特別奨励得点の減点処分とする』
「具体的な減点数は、違反度合いに比例すると考えてください。例えば、卒業生や中退した者たちなど、制度の存在を知っている者らに口外した場合で1点の減点。保護管理上の立場にない肉親、つまりは兄妹や祖父母に話した場合も1点の減点。三親等以下は離れていくに連れて、その親等数に応じた数の減点が成される」
叔父や叔母に話せば3点の減点。従兄弟に話せば4点の減点となる。
この制度の怖いところは、親が誰かに話してしまっても自分の得点が減点されてしまうという点だ。
「親戚類には該当しない赤の他人に話した場合は10点の減点となる。友達であっても外部の人間とあらば同じこと、旧知の仲だからと言って迂闊に話してしまぬよう、心掛けなさい」
一撃で退学になる可能性があるわけだ。親や生徒間で話す時でも細心の注意を払わなければならない。
「続いて、テアくんの質問に回答する」
書き写しても良いのかどうか、だったな。
「学生証の控え
これは驚いたな。
学生証に限定されるとはいえ、厳正な規則が定められている情報を外へ持ち出すことが許されてしまった。
覚えられる気がしていなかったから有り難い限りだ。
「皆の学生証には『
対して、識別体系に登録されていない学校外部の人間が学生証に触れた場合には、全ての個人情報に秘匿効力が発揮され一切の情報が得られない仕組みになっている――ということだった。
故に、学生証に記しておけば、紛失したところで自分たち以外の人間に覗き見られる心配はない。
「識別体系に登録と仰られましたが、その安全性と判断基準をお聞かせ願えますか?」
「良かろう。では全員、学生証を取り出し最終頁を開きなさい」
言われた通りに最終頁を開く。
そこに記されていたのは小さな魔法陣が一門。永続的に効力を発揮しているのか、内円内に描写された
掛かり十二節の二重六芒星術式。
若しくは、掛かり十二節の二重
「小さく読み辛さはあるかも知れませんが、そこに記されている
【魔法名称・
思念言語変換:
魔素転化指定:
対象範囲 :貼付書紙 / 係合10秒
固有念波保管数:三種(保管済み)
保管対象 :共生石波動 / 固有
二種内訳 :術者ローレン・ロージンス
〃 :所持者(生徒名称)
魔法陣効力指定:記載情報の保存
〃 :魔素自動交換
(不活性状態の魔素を除去する)
〃 :魔素集約の持続化(1g / m)
〃 :温度感知(20〜50℃)
〃 :保管念波対象の微発念波を受信、
及び体温感知時に保存情報を写出
〃 :保管外念波の不受理
魔法陣追加効力:共在する定型文に対応する
【魔法名称・
思念言語変換:共生石波動に対応する
魔素転化指定:非転化 / 窒素 / 還元魔素
対象範囲 :貼付書紙 / 係合10秒
徴発念波保管先:記下六芒星 / 循環
魔法陣効力指定:耐水レベル8(水中防護)
〃 :耐火レベル5
(窒素を射出して炎上を防ぐ)
〃 :耐電
(入力電子の停止・魔素に変質化)
〃 :耐光線(吸収、熱量変換、放出)
〃 :接触物質の温度伝達を拒絶する
・下限(0〜−189℃)
・上限(50〜400℃)
〃 :魔素の略奪波動に抵抗
(共生石波動を優先する)
〃 :保管外徴発念波の継続感知で
記録を消去(900秒)
〃 :有想波動の
を感知時に記録を消去
魔法陣追加効力:共在する定型文に対応する
「――と、このように二種の術式が構築されています。まだ履修していない事柄は一度置いておくとして――例えば私が魔法陣の書き換えを行おうとした場合は、(術者として登録されているため)問題なく遂行できる。それは所持者である君たちも同様のこと」
だが、登録されていない人間が中身を閲覧するために魔法陣の書き換えや除去を試みようとした場合には、情報を守るため一定レベルの抵抗をみせる。どうにかして抵抗を掻い潜ろうとする者が居たとしても、指定数以上の思念を感知すれば、すべての情報を自動で消去してくれるという話だった。
個人情報の流出を防ぐという面での安全性は完璧だと言える。
しかし消去されてしまえば、再交付のための手続きで時間を取られる他、消去されるに至った原因の追求が行われるといった別の問題が生じてくるのもまた確かだ。
強制的に奪われた等の致し方ない理由を除いて、管理責任が問われかねないことを考慮すると、己の身が安全かどうかまでは分からない。
乱雑に扱っていたせいで落としました。なんてことになれば、それこそスペシャルスコアの減点処分にされることも有り得るだろう。
まあでもそれは単なる自業自得、魔法陣には何の罪もないか。
「それと学生証が君たちを所持者本人だと判断する基準は、君たち自身の思念色にある」
「思念色……、ですか」
「生物の思念には、微量ながらの個体差が存在していることはご存知かな?」
「いえ、知りませんでした」
「思念には、個々に特有の波が存在しておる。その波、周波数を認識する要素としては音と熱が挙げられる。どちらも人間の感覚器官では知覚ができない程に微量なものじゃがな、魔素という物質を通して我々は知らず知らずのうちに知覚している」
魔素の扱える量や精密性に差があるのは、思念の音質や熱量に差があるからなのだと先生は続けた。
「音量や音域、熱量の冷暖含めた個体差を比較する際には『思念色』と、そう呼称するわけじゃな」
「違いは音や熱なのに、なぜ色と呼称するのでしょうか?」
「人間には知覚できないと言ったが、ごく稀に知覚できる者が現れる。自分を含めた生物の思念を、己の五感、若しくは第六感で感知する者じゃな」
見えないし、聞こえない。
匂えないし、味わえない。
触れることすらできないはずの思念という概念。
「知覚することを『共感覚』と呼ぶ」
共感覚。
ある種の情報を、それとは無関係の感覚で認識する処理能力。また、能力を持った人間を指して使う言葉。
「私も長く生きて来たが、これまでの人生で共感覚を持つ者に出会うことはなかった。だからコレはあくまでも、伝聞に記されていた話にはなるのじゃが……」
類稀な才能を持って産まれた其の者たち、全員が口を揃えて言ったのは『生物の体表を包み込むような、"色"が見える』ということだった。
「オーラとでも言ったら良いのか。色が見えない私では言葉を選びかねるが……、共感覚を持つ者たちは思念という微弱な波動を視覚情報から捉えていたと聞く。また、その色は個体によって千差万別で、広がる範囲や形も様々だったと語られている」
そしていつからか、共感覚を持つ者たちが見ている情報を踏まえて、思念色と呼ぶようになった。
「私たち普通の人間では判断成し得ない"思念色"を魔素は判断してくれている……、ということでしょうか?」
「うむ。その通りじゃな」
どういうわけか、魔素は俺たちの思念を識別できる。さらには、魔法陣によって役目を与えた魔素が従属先の人間の意思に従い続けてくれる。
そうして学生証は俺たちを所持者であると判断付けて、中身の閲覧を許可してくれているらしい。
「さて。ここまでの話を踏まえた上で、皆には一度学生証を交換してもらおうかの」
他者の学生証に記されている情報を閲覧できるか否か、安全性を確認する目的での提案だ。
俺たちのクラスは全員合わせて31人の奇数クラス。二人一組で交換すれば一人余りが出てしまう――が、同じ卓に腰を掛ける者どおしで交換を行えば余りが出る事もないし、その心配は不要かな。
三人掛けの長机、俺の右隣は空席となっているが(寂しい)、左に座るアランと交換すれば問題は無いだろう。
「はい、トーヤくんの学生証を下さいな」
何故かは知らんが、前列に座るモネリアちゃんが振り向きざまにそう言った。
驚いているのは俺だけじゃない。
当然のように俺と交換するつもりだったアラン、モネリアと交換するつもりだったテア。その二人までもがきょとんとしている。
「……なにゆえでござろうか?」
驚きのあまり、口調が変になってしまった。
「えー? なんとなく?」
「嘘だな。お前あれだろ、俺の個人情報を盗み見てやろうって、そういう魂胆だろ」
「やだなー、そんな卑劣なことは考えてないよー」
「嘘だな。そんな理由でもなければ、わざわざ俺と交換する意味がない」
「ほらほら、このクラスは奇数クラスだし? 男の子が17人いるわけでしょ? 誰かが余るんだから、3人で交換しても問題がないって。そう思っただけだよー」
「嘘だな。その可能性は俺も考えたが、横並びに座る者どおしで交換すればそれで済む話だ」
「あー、そんなに疑われると気分が悪いなぁ。トーヤくんってやっぱりそういう人だったんだぁ? 極悪非道って判断に間違いは無かったね」
「今さっき、俺が余り者になるって前提で話してたよな? 極悪も非道も、俺なんかより余程お似合いだろ」
「ひどっ」
「どっちが」
むぅ、とか声を上げながらモネは頬を膨らませた。
その様は女の子らしくてとても可愛げがあるけれど、自分の主張が誤りだとは思えない。どう考えても酷いのはモネの方だったろう。
「そんなに私とは交換したくない?」
次いで、上目遣いにそんなことを言ってくる。
俺も男の子なんだなぁと染み染み思う。可愛げというか、普通に可愛い。悪い事はしていないはずなのに罪悪感が募る。
天然でやってるとしたら、かなりの魔性だな。
「何かやましいことでも書いてあるのかな?」
台無しの一言を付け加えた。可愛いままで留めておけただろうに、残念でならない。
「やましいことなんか一つもあるかよ。潔白と辞書を引けば、そこには俺の名前が書いてあるくらいだ」
「だったら交換してくれてもいいと思うなぁ? どうせ中の情報は見えないんだし」
「そうなんだけどさぁ。なんか嫌だ」
「良いからさっさと交換しろよ、お前たち」
あれやこれやと言い合っている内に、テアと交換を済ませたアランが口を挟んでくる。
辺りを見渡してみれば、俺とモネを除いた全員が交換を済ませ秘匿法陣の確認を終えていた。
消去法的に、俺にはモネと交換する道しか残されていない。
渋々。
本当に渋々ながらではあるものの、学生証をモネに渡す。
「ふっふっふっ。コレは私の学生証だぁ」なんてことを呟きながら満足に笑み浮かべて俺の学生証を受け取るモネリアちゃん。
「俺の名前はトーヤ・アクリスタ。15歳の男の子。守性防御学科一年八組所属で、学年主席の妹を持つ学校期待の新入生です」
何故かは知らんが、薄っぺらい俺の個人情報を呟きながら学生証とにらめっこをしている。
「偉大な両親の元ですくすくと育ってます。お父さんとお母さんは怖いけど、本当のところは大好きです」
…………。
「好きな食べ物はステームパイ。嫌いな食べ物は特に無し。たった今からこのクラスを支配してやる――」
「さっきからなに言ってんの、おまえ……」
「え? トーヤくんの考えてることを真似したら見れるんじゃないかなぁって」
捏造がすごい。
学校期待の新入生です、なんて自意識過剰なことは考えたことがねえよ。
そもそも、自分のプロフィールを思い浮かべながら生活してる人間なんていねえだろうに。
「むむむっ」
祈りでも捧げるかの如き様相を浮かべて、モネは学生証と向き合い続けている。何をそんなに必死になっているのか。
「うぅ。ホントに見れないんだぁ」
「これで満足したろ? ほら、返してくれ」
「あーあ、トーヤくんのスコアを確認してやるって思ったのに、見れなかったよぉ」
「なんだ、そんなことが知りたかったのか」
「え? もしかして、聞いてたら教えてくれたの?」
「え、あ、うん。全然教えたけど」
「えー! なんだぁ。それならそうと早く言ってよぉ」
「それはコッチの台詞なんだが」
えへへー、とモネは笑うが全然可愛くない。
俺の得点を知るためだけに余り1扱いしやがったわけだからな。性格に難が余り1。
「だけどそうだな。いくら教えられることとは言え、盗み見ようとした罪は重たいものだ。よって、今回は黙秘権を行使する」
「そんな殺生なぁ。気になりすぎて夜が訪れないよ」
「夜は必ず訪れるから安心しろ」
「間違い間違い。気になりすぎて夜は眠らないよ」
「夜は起きてもいないから安心しろ」
「また間違っちゃった。気になりすぎて夜も眠れないよ」
「程よい罰になりそうで安心した」
「安心しないで、安心させて」
「難しい相談だな。どうしても知りたいって言うなら、先にモネリアちゃんの情報を開示してもらおうか。ん?」
「むぅ……私のスリーサイズでも聞こうって魂胆が見え透いてるよ」
「なるほどなるほど。そんな考えは微塵も存在していなかったが、すごく興味深いな。ぜひ聞かせてもらおうか」
「ねぇ、お願いだから否定して」
「言い出したのは自分だろ?」
「そうなんだけどさぁ。なんか嫌なの」
こほんっ、とローレン先生が咳払いをした。その音が鼓膜を叩いたことで俺たちの意識はお互いから外れる。
「ほっほっ。仲が良いようで、なによりなにより。しかし今は授業中であるからのぉ、残りの会話は休み時間に回してもらえるかな?」
授業中であることを完全に失念していた。
怒られた方が余程気楽だったろう。クラス中から微笑ましい視線が向けられていて心底恥ずかしい。
早急に教室から飛び出して穴探しの旅に出たいところだ。
「「申し訳ございません」」
くそっ。シンクロした。
余計に笑われちまったじゃねえか。
「二、三日の付き合いとは思えない程に息があってるな。なんだ? 実は幼馴染とか?」
生い立ちを説明したばかりだというのに、アランの口からは疑いの言葉が飛んでくる。
否定するのは簡単だけど、答えたら負けな気がする。
「先生、授業を続けてください」
「ははっ。授業を中断させてた人間の発言とは思えねえな」
ひどく正しい突っ込みが俺の心を抉る。
謝罪でも言い訳でも、いくらでも答えることはできたけど、恥の上塗りを避けるために固く口を閉ざした。
今はただ、そっとしておく――思いやりある心が欲しい。
アトラストーリー 花々瀬 大和 @atla_story
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