主人公のさほりは中学一年生。
彼女には年子の姉・しほりがいるのですが、顔立ちもいいし、成績もいいし、ピアノもできるし、気遣いもできるし……と何でもできてしまいます。
でも、さほりはしほりのようには振舞えません。そのためさほりの心の中では葛藤が起きていて、姉に素直になれないでいるのでした。
何でもできてしまう姉が嫌いなさほりですが、彼女にしかできないことがあります。
それが家にあるグランドピアノと話すことができること。
さほりはそのピアノに「ベルキー」と名付け、色んな話をします。
「ベルキー」はグランドピアノなので、何となくかしこまった感じに話しそうですが、実際はちょっと口の悪いお兄さんみたいな感じ。でも、放つ一言一言に正直さを感じられて、好感が持てます。
そんなある日のこと。
さほりは、同級生の久壁君から「鈴木さん(=さほりのこと)のうちで、ピアノの練習をさせてほしい」と言われます。
理由は合唱コンクールの自由曲の練習をするためなのですが、昨年しほりが弾き、学年優勝に導いたということがあったため、その曲のアドバイスをしほりにしてほしいというのです。
断る理由がないさほりは、仕方なく久壁君と姉の間を取り持つことに。
でもさほりは、姉と久壁君が仲良く話すところを見てもやもやします。さて、それはどうしてなのでしょうか。
タイトルにある「エレジー」という言葉が示す通り、悲しさもあるお話ですが、さほりが「ベルキー」を通して、前を向いて進む爽やかなお話です。
さほり、しほり、久壁君、それぞれが弾くピアノの音色に耳を傾けながら、物語を楽しんでみてはいかがでしょうか。
人には何かしらの取り柄が有ると思います。それは万人に分かってもらえなくてもいいものです。そこに気づけることが大事なのだと思います。
ベルキーという名前のピアノが非常に魅力的で、劣等感に苛まれる主人公を、憎まれ口を叩きながらもそっと諭していく姿が優しい。でもそれは同時に、主人公に「聴く」力があるからこそです。
人それぞれに外側とは違う内面を持つことも、見えるものだけが全てではないことも、心に沁みやすいさらりとした口調で教えてくれます。
悲しみの中にも希望を残すラストも秀悦でした。
大人の心にも響く物語ですが、多感な中学生ぐらいの方にはぜひ読んでほしいです。