さようなら

「霞?」


「…………ぅえっ?あ、玖音。何?」


「何?じゃないだろ。最近ずっとその調子じゃん。俺と杏姫が話しかけても生返事だしさ。なんかあったのか?」


あの変な夢を見てから、ずっとその事しか考えられない。それに、ずっと思っていた今の生活への不満が、やたらと抑えられない。こんなこと考えちゃダメなのに……


……あれ?ダメって、誰から教わったんだっけ?


──────パリン



あぁ、まただ。また、この音がする。最近、ずっとこの音が鳴っている。あぁ、うるさいなぁ……


あまりの不快感に、私はその場にうずくまってしまう。


「おい、霞?どうかしたのか?」

「霞、大丈夫なの?何かあったなら話してよね?」


こんな時まで私じゃなくて私に起こってる事の心配?可笑しな話。そういえば昔からそうだった。この二人は、私に起こってることをやたらと聞きたがる。

ごちゃごちゃごちゃごちゃ……



「……うるさぃなぁ」




気付いたら、それは口に出ていた。


「は?霞?」

「え?」


「ねぇ、二人とも、本当に私の事心配してる?私には、私のことじゃなくて、私に起こった何かの事を気にしてるように見えるけどさぁ」


あぁ、そうだ。この二人は本当は私の事なんて心配してない。この二人が気になるのは、私が人に害をなすかなさないか。だって、だってだってだってこいつらは──────!









「……あれ?」


気がついたら、今まで考えていた事が全て消え去ったような、不思議な感覚に見舞われていた。


なんだか変なことを考えていた気がする。よく分からないけど、それは大事なことだったような……?

まぁ、思い出せないことを考えても仕方ないよね。


私は二人に向かって笑顔を作る。


「あはは、ごめんねー!ちょっと体調が悪くなっただけだから…」


その瞬間、何故か私には二人がこちらを鋭く睨んでるように見えた。


(え?)


「っ、ああ。そうか」

「なっ、なら良かったわ」


けど、次の瞬間には二人はいつも通りに戻っていた。


(見間違えだったのかな……?)


そう私は自分を納得させ、





























(いや、違う!)


見間違えな訳が無い。見間違える訳が無い!!


あの、あの二人の目は、間違いなく、のものだ!!


──────私と■■から、全てを奪い、壊し去った、あの時の目だ。


あぁ、そうだ。なんでこんなことを忘れてしまっていたのだろう。


この身を焼くような憎しみを。


「……ははっ」


あー、全部思い出した。私という存在も、この箱庭セカイの真実も。なにも、かも。


「んふふっ!」


「か、霞…?」


杏姫がなにか恐ろしいものを見たような目でこっちを見つめる。


「なんでもないってば!さ、いこいこ」


いやー、もう笑うしかないって言うか、もう一周まわって楽しい気がしてきたなぁ!


この腹の底が煮えくり返るような憎しみも、絶望も、全ては確かに存在しているのに。


何故か、今私は最高に晴れやかな気分だった。


もうすぐ別れを告げるこの生活を確かめるように、私は小さく呟いた──

◇◇◇◇


(成功……案外早かったな)


暗い地の底で少年は思う。


(まぁ、そんなもんだろうな。この思いが、奴らの洗脳なんかで消えるはずがない)


少年は思いを馳せる。もうすぐここから出られる事を確信して。

少年は久しぶりに声を出し、言った──












──────「さようなら、こんな退屈で最悪な箱庭セカイ

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ハコニワプリズンブレイク Amu @Sakuramotimomoti

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ