第三節:ハッピーエンドのその先へ
最終話 新たな関係と新イベントの予感?
林間学習を終えてから、既に一週間ほどが経過していた。
そんなとある日の朝、普段なら既に起きて登校の準備を始めている時間だが、昨夜録画して溜まっていたアニメを消化したせいで睡眠不足となり、奏斗はまだベッドに横たわっていた。
ただ、普段とっくに起床している時間というのもあって、体内時計が目覚ましを鳴らし、奏斗の意識を呼び起こそうとしている。
深く眠ってはいないが、起きてもいない――そんな微睡の状態だ。
(起きないと……だけど、うぅん……眠い……)
そんなとき、奏斗の部屋の扉がゆっくりと静かに開けられた。人の気配が寝ている奏斗の近くに寄ってくる。
「――君。カナ君起きて」
「うぅん……ね、むい……」
誰かの声――可愛らしくて、凄く安心する聞き慣れた声が聞こえた気がした奏斗だが、睡魔に抗えず目蓋は持ち上げられない。自分を起こそうとする存在から逃れるように寝返りを打って背を向ける。
「んもぅ……遅刻するよ?」
「……」
ギシィ……と奏斗のベッドに誰かが腰を下ろす。そして、奏斗の寝顔を見詰めながら、いじらしく微笑む。
「それとも、私と一緒に遅刻するつもりなのかな……?」
冗談で口にしてみた言葉ではあったが、もしそんなことをして一緒に登校したら、一体朝から何をしていたのかと妙な憶測を立てられかねない。
「仕方ないなぁ、もぅ……」
再びベッドが軋む音が部屋に響く。そして、奏斗は微睡に包まれた意識の中で、自分の頬に何やら柔らかなものが押し当てられたのを感じた。
一体何だと重たい目蓋を持ち上げると、窓から差し込む日の光と共に天使と思しき少女の顔が視界に映った。それも、かなり距離が近い。
「……詩葉?」
「あっ……お、起きた……!」
間近にあった詩葉の顔がスッと奏斗の顔から遠ざかった。気持ち頬が赤らんでいて、少し動揺しているようにも窺えるが、寝起きの奏斗にその理由を推測する力はない。
「何で詩葉が……俺の部屋に……?」
「起こしに来たんだよぉ。いつまで経ってもカナ君降りてこないし、メッセージに既読も付かないし、カナママもいないっぽいし……」
(あぁ……そういえば今日母さん仕事早いって言ってたな……)
奏斗がゆっくり上体を起こして目を擦る。身体が重い。やはり翌日学校があるのに夜に溜めていたアニメを消化するのは良くなかったと反省する。
「ほら、カナ君。早く準備しないと遅刻するよ」
「遅刻って大袈裟な――って、うわマジかっ!?」
「マジだよ……」
奏斗は部屋の時計を見て慌ててベッドから飛び降りる。そして、詩葉に半目で見守られながら急いで朝の支度を済ませた――――
◇◆◇
「いやぁ、何とか間に合ったな。衣替えしてなかったら多分手間取ってアウトだった」
「まったく、カナ君は……」
夏の暑さが次第に強くなり始めている。そのため学園の生徒は衣替えを行い、男子はブレザーとネクタイを着用しなくても可に。女子はセーラーワンピース型の制服から、上下別のセーラー服へと変わっている。
下駄箱で靴を履き替えながら、奏斗は詩葉を見る。
詩葉も皆と同様に衣替えをしており、上は白いセーラー服で、膝上では青を基調とするチェック柄のプリーツスカートの裾が揺れていた。
今まで下ろされていた亜麻色の髪は後頭部の少し高い位置で一つに束ねられており、白いうなじが露わになっている。
(今日も俺の彼女は可愛い。ま、当然だけど)
なぜか奏斗が得意気に口角を釣り上げる。
すると、上履きを履き終えた詩葉がそんな奏斗の表情に気付いて僅かに怪訝な視線を向ける。
「ど、どうしたのカナ君……?」
「ああ、いや。今日も可愛いなぁと」
「も、もう! 変なこと言ってないで早く行くよ……!」
詩葉がカァと顔を赤くしてから顔を背け、足早に教室へ向かっていくので、奏斗は「ごめんごめん」と笑って謝りながらついて行く。
そして、二組の教室に荷物を置いた詩葉と一緒に一組の教室に入ると、茜と真紀、そして駿が奏斗らの存在に気付き振り向いた。
「今日はやけに遅かったわね、奏斗」
自分の席に着く奏斗の周りに皆が集まる中で、茜がそう言ってくる。奏斗は曖昧な笑みを浮かべながら後ろ頭を掻いて答えた。
「いやぁ、ちょっと寝坊してさ~。ちょっと寝不足なんだ」
「ほほう?」
そんな奏斗の発言に、真紀がケモミミのような癖毛をぴょんと動かして、意味ありげな笑みを浮かべる。
「それで愛しの彼女ちゃんと一緒に登校……ふふぅん。昨夜はさぞかし熱くて眠れない夜だったようだにゃぁ~?」
「ちょ、ちょっと真紀っ!」
その言葉がただ夏の暑さで寝苦しい夜だったという意味でないことはこの場の全員が理解した。
朝っぱらからとんでもない発言を放つ真紀に怒る茜。奏斗と駿は苦笑い混じりの呆れた目を作り、詩葉は唇をキュッと結んで俯いてしまっていた。
そんなところへ――――
「いやぁ、なんや興味深い話してはるなぁ~? ウチも混ぜて欲しいわぁ~」
教室の前側の出入り口から、桜花が柔和な笑みを浮かべながらやってきたので、奏斗は「勘弁してくださいよ……」とため息を吐く。
そんな奏斗の反応が面白かったのか、桜花はクスクスと笑いを溢した。
「というか、珍しいですね? 桜花先輩が一年の教室に来るなんて」
「そうやなぁ。けど、ウチはただの付き添いや」
「付き添い?」
「用があるのんはこっち」
そう言って桜花が後ろを向くと、少し遅れて紅葉が教室に入ってくる。そして、ゴミを見るような軽蔑の視線を奏斗へ投じていた。
「……朝一番から破廉恥ですね、桐谷先輩……」
「いやいやいや! 頭おかしいのはコイツだけだから! 俺何もしてないから!?」
奏斗は慌てて真紀を指差しながら弁明を試みるが、紅葉は訝しむような視線を変えなかった。
「紅葉、あんま後輩君をいじめたらあかんえ~?」
一番この状況を楽しんでいそうな笑顔を浮かべつつも、桜花が紅葉を落ち着かせる。その甲斐あって、ゴミを見るような視線から棘のある視線に変わった。
奏斗はあ曖昧な笑みを浮かべつつ、紅葉に尋ねた。
「えっと……それで、俺に何か用事か?」
「あ、そうでした」
まだ若干視線に鋭さはあるものの、用事が優先だと切り替えた紅葉が改めて奏斗を見る。
「さっき生徒会の用事があったんですけど、私が桐谷先輩と知り合いということで、高等部生徒会長から伝言を預かってきたんです」
「伝言? 生徒会長が、俺に?」
(ってか、生徒会長って誰だ……?)
少なくともGGの中で登場した覚えはなく、完全に未知の存在だ。
首を傾げる奏斗に、紅葉が言った。
「伝言はただ一言――」
『放課後、生徒会に招待します』
「――とのことです」
「生徒会に、招待……!?」
奏斗は頭上に疑問符を浮かべると同時に、心の中で呟いた。
(おいおい……なんかめんどくさい予感しかしないぞ……)
奏斗が描く
【作者からメッセージ】
まずは最大限の感謝を。
この作品を手に取って、ここまで読んでくださりありがとうございました!
ここまでお話を続けてこれたのは、ひとえに読者の皆様の応援があったからです!
そして、題名を見てわかる通りこのお話までで取り敢えず完結ということになります。
すれ違っていた奏斗と詩葉が紆余曲折あって、めでたくハッピーエンド。キリの良い場所ではあるのかなと思っての判断です。
正直まだボクの中にはこの先にあるストーリーの構想があって、それを仄めかすような終わり方をしてみたのですが、続編を書くことになるかどうかはまだわかりません(書籍化することを願うばかりではありますが)。
まぁ、気が向いたら続編またはアフターストーリーなどを書こうかなとも思っているので、是非作者のフォローをしていただいて、ボクの動きを見てみてください~。
そして、今後とも色々な作品を書いていくつもりなので、お付き合いいただける方は今後ともよろしくお願いします!
近況報告などはTwitterにて行っているので、気になる方はボクのTwitterも覗きに来ていただければなと思います!
ではっ!!
ギャルゲー世界に推しヒロインの幼馴染として転生したので、全青春を懸けて主人公との恋を応援しようと思います~俺のハッピーエンド計画は完璧なはずなのに、ヒロインが頑なにルートに入るのを拒むんだが?~ 水瓶シロン @Ryokusen
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