第57話 姫様を助ける

「これ、姫様戻ってくるんだったけか?」


 どうしよう。

 姫様に呼び出されて姫様がどっかに行っちゃったからどうしたらいいかまったくわからん。近くに誰もいないし、困ったな。

 こちらからお戻りください。みたいな、案内してくれる人もいないし。

 でも、ここにいても話は進まないはずだ。怒られるの覚悟で戻ってみるか?

 うん。そうしよう。


 姫様が王様に伝えている場面に遭遇しても子どもの戯言だと思ってくれるだろう。


「そもそも、ここじゃ他のところで何か起こっても気づけないしな」




 少し戻ったところで人の声が聞こえ始めた。

 よかったよかったと思ったが、しかし、それらはこの祝宴を楽しむようなものではなく、慌てふためいているようなものだった。

 展開が俺の知ってるものより早くないか?

 近くにルミリアさんを見つけ俺は急いで駆け寄った。


「ルミリアさん。何があったんですか?」

「おお、ルカラ殿。探したのじゃ。人が多すぎて正確な位置がわからなくてな。あそこを見るのじゃ」


 ルミリアさんの指さす先。人だかりの先には、姫様と専属のメイド、そして姫様の手を取る王の姿が見える。


 ゾッと鳥肌が立った。

 やはり、この城に招かれた時点で、魔王討伐後のシナリオはスタートしていたのだ。


「……、と、さぁ。さぁ……こぉ……く、うぅ」


 遠くからでもわかる虚な瞳で、姫様は誰もいないところに腕を伸ばしている。


 俺としてはやっぱりという感覚。


「……邪神の呪い……」


 ファイントの書に書かれている大罪の邪神、ブーザー・フルフヒヒ・ルーイーナの呪い。

 邪神と呼ばれているが、実際にはこの世界における都市伝説的な存在。

 実際にいるのだが、この時点では観測されていない超常の存在で、魔王を倒したことで今のように直々に手を出してくるやつ。


 姫様のあの様子だと、このままではおそらく長い間寝込んでしまう。邪神のシナリオがクリアされるまで。


 本来なら、邪神の呪いは邪神を倒して治療するものだが、呪い、か。ここで治してしまえば、もしかして……。


「プレンズ。しっかりするのだ! おい、誰も治せないのか!」

「で、できることはやったのですが……」

「くそう。娘の大事に我々は無力なのか……」


 グッと握り拳を握り、無念そうな表情をする王様やその周りの人たち。

 まるで姫様がもう死んでしまったかのような雰囲気。

 実際に体感すると一段と重い空気だ。

 きっとすでに何らかの魔法の使い手が色々と手を尽くしたのだろう。だが、姫を助けられなかったそういう場面のはずだ。

 ざわざわとしているが、顔を見合わせるだけで誰も何も言わない。固唾を飲んで見守っている。


「ルカラ殿。あれが邪神の仕業というのは本当か?」


 思考に耽っていた俺は真剣な表情で聞いてきたルミリアさんによって現実に引き戻された。


「あ、えーと。はい。このファイントの書の情報からすればそうかな、と」


 一応俺は先のことまである程度知っているが、そうとは話せない。

 それに、実際にファイントの書から魔王や不和の森の次に情報を得られるのが、この邪神ブーザー・フルフヒヒ・ルーイーナ。嘘ではない。


 さて、ちょうどルミリアさんも目の前にいることだし、思いついたことを試してみるか。


「ルミリアさん。姫様を治すために力を貸してもらえませんか?」


 微笑みながらルミリアさんは頷いてくれた。


「もちろんじゃ。魔王を倒し、余の力もルカラ殿の力も高まっている。それもだいぶ定着してきたところであるしな」

「それじゃあ行きましょうか」


 大人たちの間を縫って、俺たちは王のもとまで進む。

 思い立ったが吉日。それに、無闇に苦しませるというのは俺の趣味ではない。


「国王陛下。ここは僕達に任せてくれませんか?」

「る、ルカラよ。任せてもよいのか?」

「はい。任せてください」


 この少しの間で一気に老け込んでしまったように見える王様。

 邪神を倒すなんて危ないことしなくても、姫様を治せるならそれがいい。しかも、邪神を倒す目的も姫様の呪いを解くためだから、邪神を倒す展開にならないはずだ。

 魔王と違い、一般に邪神はいるともいないとも把握されていないのだから、ここでお話はおしまいだ。


 やるのは俺のユニークスキルを使い呪い解くだけ。アカリを助けた時より力もついた。


「『セイクリッド・ライニグル』! 『オーラ・エンチャント』!」


 俺の声とともに強い光が姫様の体を包んだ。

 そして、その青白かった姫様の肌は、みるみる本来の赤みを取り戻していった。


「……見える……声が出せる!」

「おお、プレンズ!」

「お父様!」


 きっと急な出来事で怖かったのだろう、姫様は一気に起き上がり、実の父である王様に抱きついた。


「うおおおおお!」

「救世主様だ!」

「魔王を倒すだけでなく、姫様もお救いになるなんて、物語の主人公のようだ!」

「俺は、夢でも見てるんじゃないか。こんな、伝説の瞬間に立ち会えるなんて」


 場内がどっと大きな歓声に包まれる。

 みな、安心したように誰彼構わず抱き合っている。

 正直やりすぎな気がするが、これだけ姫様が愛されているってことだろう。


「ルカラ、ありがとう。よかった。本当によかった」

「私からもありがとうございます」

「いえいえ、当然のことをしたまでです」


 すかさず謙遜してはにかんでおく。


 ま、これで邪神の方も解決解決。

 大丈夫だよな?


 と思っていると、何を思ったのか姫様が俺の手を取ってきた!


――――――――――――――――――――

【あとがき】

読んでくださりありがとうございます!


新作を書きました。


「TS薬で同僚にハメられた精神魔法研究者は追放を機に全力を出してみたい〜研究者時代は力を抑えていましたが、晴れて自由の身になったので力を解放していこうと思います〜」

https://kakuyomu.jp/works/16818093074817308233/episodes/16818093074817458498


よろしければ読んでみてください。


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破滅不可避の悪役獣使いに転生したが肉塊になりたくないので聖獣娘、魔獣娘に媚びを売る〜怪我してるところを手当てして嫌われないようにしていただけなのになぜか逆に聖獣、魔獣の長たちになつかれている件〜 川野マグロ(マグローK) @magurok

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