第56話 結婚結婚!:プレンズ視点
「ふふんっ!」
今まで生きてきた中で城の中を歩く足取りが一番軽く感じられる。
ルカラ様、なんといいお相手なんでしょう。
王族たるもの相手は誰でもいいわけではない。
さすがにお姉様方よりは自由に相手が選べるとはいえ、どこの馬の骨ともわからない平民を相手として紹介しても、冗談としてしか理解してもらえない。
家柄、才能、本人の能力、そして実績。どれも重要な選定要素。
「姫様!? ルカラ様とのお話はもういいのですか? 大切なお客様です。お見送りしましたか? 大丈夫ですか?」
「ええ、ディンス。ワタクシ、決めたわ。ルカラ様と結婚することにしたの」
「そう、ですか、ケッコン……結婚……? け、結婚!?」
「驚きすぎよ」
「いえ、そんなことないですよ」
ワタクシ専属のメイドとして、これまでずっと一緒だったから、突然のことで理解が追いつかないのかもしれないけれど、別におかしなことではないはずでしょう?
反対するほどのことでもない。
それに、いずれ相手は選ばないといけないのだし。
「どうしてですか。それに急ですし、しかも姫様もルカラ様もまだ急ぐほどのお歳ではないかと!」
「だから驚きすぎよ。まだ準備に決まってるじゃない」
「あ、あぁ。なるほど。それで、ルカラ様とはどのようにお話しされたんですか?」
「お父様に伝えると言ってきたわ」
「それだけですか?」
「それだけよ? 十分でしょう?」
「あ、あぁ。あぁー」
ディンスの反応が気になるけれど、これは決定事項よ。
ルカラ様は家柄も貴族として申し分ないデグリアス家の長男。そして、才能は数多くあるということで、王都から遠くに住まいがありながら、もとよりよく名前が上がるほどのお方。
実際に魔王を倒され、その実力は多くの貴族たちの前で実際に示された。
誰も反対できないほどの実力に実績。うわさによれば、獣使いとして、人と距離を取り生活をしているとされる聖獣や魔獣とも本契約をし、ティア学園を受験しただけで修了した証を授与されたという話も聞いている。
こんなお方を相手に決めて、お父様から反対される様子が思い浮かぶわけがない。
「ふふっ!」
「あ、あまり急ぐと危ないですよ?」
「大丈夫よ。この城をどれだけ歩いてきたと思っているの? ワタクシなら目をつぶっていてもお父様のところまで行けるわ」
「そんな姿を見られたら幻滅されてしまうかもしれませんよ?」
「う、それは、困るわね」
確かに、ディンスの言う通り。はしたない女だと思われ、向こうから断られてはいけない。
それに、なんだか嫌な胸騒ぎがしてきたような……。
いいえ、気のせいね。気分が舞い上がっていて、少しいつもと違うだけだわ。
嫌なお勉強をしなくて済む、いい理由が見つかったのだから。
やっと、お父様のところまでたどり着いた。
なんだかいつもより時間がかかった気がするけれど、人が多いもの、仕方ないわ。
「おお、プレンズ。話は終わったのか?」
「はい、お父様。キャッ」
「姫様!?」
どうしてワタクシは何もないところでこけたの?
歩く速さは落としていたのに、どうして?
なんだか、さっきから胸が苦しい……。
「姫様、大丈夫ですか? 姫様……?」
ディンスが心配している顔がすぐ近くに見える。
「……、……」
大丈夫と言おうとしたのに、なに、これ。声が、出ない。胸が、痛い。
みんなの声が遠い。どこかへ行ってしまうようにさみしい。
視界が、暗くなってくる。だんだん部屋の明かりが消えていくように。
寒い。寒い。
「…… 、たす、けて……」
「姫様ッ! 大丈夫です。すぐに、腕のいい治癒術師の方がいらっしゃいますから。どなたか! どなたか、この中に治癒魔法を使える方はいらっしゃいませんか?」
「誰かおらぬか! 誰でもいい! 娘を助けてくれ! プレンズ! ワシらがついてるからな」
「ええ、そうです。きっとすぐによくなりますから」
手を握ってくれているのはわかる。なんだか、みんなが叫んでいるのも、なんとなくわかる。
でも、一人で暗い部屋に閉じ込められたみたいに、全てが遠い。
一人だけ取り残された時のように、
怖い。
「る、あら、さぁ……」
――――――――――――――――――――
【あとがき】
読んでくださりありがとうございます!
新作を書きました。
「TS薬で同僚にハメられた精神魔法研究者は追放を機に全力を出してみたい〜研究者時代は力を抑えていましたが、晴れて自由の身になったので力を解放していこうと思います〜」
https://kakuyomu.jp/works/16818093074817308233/episodes/16818093074817458498
よろしければ読んでみてください。
よろしくお願いします!
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