第55話 第三王女プレンズ姫

 人払いされているのか、誰も人のいない廊下。

 祝宴の騒ぎ声すら聞こえないほど静かな場所に、一人の少女が立っている。


 廊下の壁にもたれかかった姿だけで絵になる金髪碧眼の美少女。

 国王陛下の娘の一人。花の髪飾りをつけた、まだ幼いながらにこれから綺麗になることが十二分にわかる顔立ち。姫と呼ぶにふさわしい顔をしたプレンズ姫。この国の第三王女。ドレス姿はまさしく姫。


 実際に見ると、確実に目を奪われてしまうほどの見た目をしている。


「お待たせしましたプレンズ姫。遅れてすみません」

「気にしなくていいわ。あれだけのことをしたんですもの」


 それは魔王を倒したことだろうか。それとも喧嘩を跳ね除けたことだろうか。


 どちらにせよ姫の機嫌はいいみたいだ。

 しかし、俺からすれば一応年下だし、小中学生くらいの一つ違いってめちゃくちゃでかい気がするのだが、尊大な態度。確か、ツンデレ設定だったからな。


「それで、お話ししたいとのことですが、なんでしょうか?」

「ええ。先ほどの戦い見事だったわ。それに、魔王を倒したことも褒めてあげる。感謝なさい。喜びなさい。泣いてありがたがりなさい!」

「あ、ありがとうございます」

「ふふんっ」


 うん。満足そう。

 魔王を倒したのは俺だが、ツンデレ設定にしては今日はご機嫌みたいだ。素直に褒めてくれるし。

 もう少し、別に褒めてるわけじゃないんだからね! みたいな反応だった気がするのだが、ここも身分の問題なのか?

 あれ、そういや質問に答えてもらってないな。今ので終わりか?


「そうそう。勇者であるルカラ様には頼みがあって来てもらったの。ワタクシを仲間に入れて下さらないかしら?」


 やっぱり。それが俺の感想だった。

 ここまでは読めていた。

 一応、違う可能性も考慮して、何が起きるかわからない気持ちで備えていたが、結局は俺の知っている展開だ。

 仲間にするかどうか問題。


 さて、どうしたものか。ゲームではここで、はい以外の選択肢がなかった。だが、俺は別に選択肢が出てきてそれしか選べないわけじゃない。ここで断れば続きに進まず安全なんじゃないか?

 あくまで俺が求めているのは、どこまでいっても世界平和じゃなく俺の身の安全だからな。


「姫様。僕たちがやってきたことは危険なことです。姫様のような国の重要人物が自ら行うようなことではありません。させるわけにもいきません。僕たちがこなしてきた環境に姫様を招くわけにはいかないんです。なので、お気持ちだけありがたく受け取っておきます」


 これでいいだろう。失礼もないはずだし、やんわりと断れたはずだ。

 しかし、姫はあり得ないものでも見た時のように俺の顔をじっと見てきていた。

 そして、口を手でおおっている。


 動揺してるのか?


 先導者の才能を持ち、主人公相手にすら、いいえと言わせなかった能力だったし、相当普段から使いこなしているのだろう。

 まあ、ルカラには効かなかったけれど。


「……ますます気に入ったわ。これは、この方は、素晴らしいお方。ふふふ」


 何やら急に笑い出して考え込んでいる。

 思考まで読めればいいが、あいにく今の俺にそんな芸当はできない。まだ鍛えていない。

 でも、姫のお父さんである国王陛下が、姫の危険行為を許さないだろうし、俺がどうこうという問題ではない。

 ゲームではいいですよと言うが、すぐに仲間になるわけではない。

 まあ邪神を倒したり、その後色々あって仲間にはなるのだが、これから何も起こらない予定だし、そうなれば仲間になる理由がない。


「そうです!」


 何かをひらめいたらしく、突然手を打つと姫は俺の手を取ってずいっと近づいてきた。


「遠慮なさらないでください。なにも、ワタクシが危険な目にあうとは限りません。お力を貸す方法はともに戦場へおもむくだけではないはずです」

「それは、そうかもしれませんが」

「そうでしょう、そうでしょう? でしたら、ワタクシと結婚しましょう。ええ、それがいいです」

「え、ケッコン?」


 今この子なんて言った?


「すみません。あの、もう一度言ってもらえますか?」

「繰り返しておいて聞こえなかったはずがないでしょう? 案外可愛らしい方なのですね」

「いや、確かに繰り返したのですが……あの、何をおっしゃっているのですか? 一国の王女様とただの貴族が簡単に結婚なんて」

「何をおっしゃいます。あなたはもとより十分な身分じゃないですか。それに、この度の活躍で王族と関係を持つことは嬉しいことのはずです。そうです。可能です。ワタクシはあくまで第三王女。むしろいいことです。ワタクシが嫁げば、今の学びもしなくて済む。素晴らしいじゃないですか! 早速お父様に話してきますね!」

「あっ、ちょっと!」


 俺の手を離すと、姫は足早に行ってしまった。

 結婚とか言われるとはさすがに考えてなかったせいで不意を突かれた。

 元はこんなはずじゃなかったけど、これだとストーリーは次に進んだみたいだな。

 でも、すぐに結婚ってことにはならないだろうけど……俺の命はまだ危ういってことか……。


――――――――――――――――――――

【あとがき】

読んでくださりありがとうございます!


新作を書きました。


「妹の代わりに転生して幼女にされましたがヤンデレ化した妹が追ってきたようです」

https://kakuyomu.jp/works/16817330668706552137


よろしければ読んでみてください。


よろしくお願いします!

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