第54話 貴族に実力を見せつけよう

 現在、楽しげな雰囲気をぶち壊すように入ってきた男に視線が注がれていた。


「これまで倒せなかった魔王が、何故そのような子どもに倒せるのでしょうか? 私には何者かの手柄を奪ったとしか考えられません」


 予定調和的に俺の功績に待ったをかけるのは、どこかで見たような気がする銀髪の太った中年の男。

 このイベント自体は知っているが、俺でも発動するんだな。

 それに、見た目までは知らなかった。顔も思い出せないモブだった気がするが、なんだかティア学園での一件を思い出すな。


「その発言はこの国の救世主に無礼であろう」

「無礼は承知です。それでも言わせてもらいます我が王よ。その者が本物の実力者であれば、ここでその実力をお示しいただけるのではないでしょうか?」

「ふむ……」


 流されやすい人たちが、俺に疑いの視線を向けてくる。

 そして、困った様子で王が俺の顔色をうかがってきている。

 髭面のおっさんの困り顔はあんまり見たくないな。


 さて、用件は力が見たい、ね。俺の知ってる通りだな。

 俺の仲間の誰かが噛み付く前に行動を決めないとな。


「陛下、僕はどちらでも構いません。なんなりと命じてください」

「すまぬ。今の様子からすると不審に思っている者はあの者だけではなかろう。納得させるために相手してやってくれぬか」

「わかりました。それくらいであればお任せください」


 まあ、この世界の貴族は戦えてなんぼだったはずだからな。

 本来はただの田舎民である主人公に対して、何処の馬の骨とも知れないということで実力を見せるためのイベントだから、てっきり、俺に対しては起こらないと思っていたが、そうでもないみたいだ。


「では、祝宴の出し物としてルカラの試合を始める!」


 王の言葉に盛り上がる会場。

 俺も準備しようとしたところで、アカリがちょんちょんとつついてきた。


「どうした?」

「師匠。あの人、ティア学園の試験の時に言いがかりをつけてきた人に似てませんか?」


 どうやら俺と同じことを思っていたらしいアカリ。


「血筋かな?」

「そうなんですか?」

「知らないけどな」


 まあ、他人の空似ってこともあるし。この辺は俺も知らない。それほど重要じゃなくて覚えてない。




 城の使用人の人に促されるまま、俺はエキシビジョンマッチの準備をし、外に出た。


 目の前にはこれまた重そうな鎧を着込んだ横に大きな人物がいる。

 カチャカチャ音を鳴らしながらフラフラと動いているが、何をしているのか。


「やあ、ルカラくん。息子が世話になったね。僕はダスディア・グレア。ボフ・グレアの父さ」

「やはりそうでしたか」


 この口ぶりからすると、予想通りまさかの親子だった。

 こうなってくると人に喧嘩を売らないと生きていけない設定なのかもしれない。


「ふんっ。知ったような口を利いて。どうせ勇者様は覚えていないのだろう? 僕に似た銀髪の美少年のことを。まあ、息子はティア学園に受かり、キミは落ちたようだけどね」


 再びカチャカチャ音を立てながら笑い声が聞こえてくる。


 うーん。似ているか? ティア学園の方は痩せていたが、それと比べると目の前の男性は太りすぎな気がする。

 そんなことより、このまま知らないと言われるのは少し癪だな。


「覚えていますよ。とても記憶に残っています。レッドワイバーンの人でしょう?」

「違う! うちの子はレッドドラゴンだ!」


 どうやら本当に当たりらしい。

 そうか、少し今回のイベントも納得できた。つまり、俺はティア学園に入れなかったのに、魔王を倒したなんて信じられないってことか。

 しかし、こうなると色々と話してないな? あのレッドワイバーンの少年は。


「ええい! 獣使いとしてバカにしてくるという話は本当らしいな。ここで化けの皮を剥いでくれるっ!」


 うーん。なんか個人的な因縁が乗っかっているような……。

 こんな会話だったか? まあいいや。声は俺にだけしか聞こえていないみたいだし、ちょっと文句を言ってさっさと終わらせよう。


「それでは、初め!」


「楽しい雰囲気は壊すなよ」

「だがぁ……」


 試合開始の掛け声と同時に接近して甲冑をはがし、首筋に手刀をくれてやった。

 スキルを使う必要はないと思ったが、ここまで弱いとはな。

 男性は白目をむいてを泡吹いて倒れてしまった。

 正直、漫画とかで見た、トンッ、ってやつができるとは思っていなかったが、うまく気絶させられたみたいだ。


「……あ……」


 やばいか。あんまり周りを気にしてなかった。

 こういうエキシビジョンの時って、もっと大々的に決着つけた方がよかったりするのか?

 しん、と静まり返っている城内は、俺が周りをキョロキョロすると一気に歓声に沸き立った。


「よくやった! 勇者様!」

「さすが勇者様だ!」

「あれはまさしく本物だ!」


 口々に俺を褒め称える言葉が浴びせられる。

 周りの貴族たちも鬱憤が溜まっていたのか、さまざまな賞賛の声が聞こえてくる。


「これでよかったのですか? 国王陛下」


 俺はゆったりとした足取りで近づいてくる王様に尋ねた。


「ああ。助かった」


 どうやらよかったらしい。

 戦闘貴族だから、戦って実力を示すことができれば有効みたいだ。


「続けて頼みなのだが、ワシの娘がルカラと話がしたいようでな。相手をしてやってはくれぬか?」

「いいですよ」


 みんなはいざこざがあったせいで、俺のことを待ってくれているようだが、俺がこなすべきイベントはもう少しあるんだよな。


「みんなは先に食べててくれていいぞ」


 それだけ言って、俺は王に言われたところを目指した。


――――――――――――――――――――

【あとがき】

読んでくださりありがとうございます!


新作を書きました。


「妹の代わりに転生して幼女にされましたがヤンデレ化した妹が追ってきたようです」

https://kakuyomu.jp/works/16817330668706552137


よろしければ読んでみてください。


よろしくお願いします!

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