第53話 王都へ

 はるばる王都のまでやってきた。


 移動は予想以上に速く、想像していたほど時間をかけずに着いてしまった。


「助かったな」


 もちろん、今回もルミリアさん、とはいかなかった。

 今回ばかりは走って移動するには遠いので、アカトカに全員乗せてもらった。

 初めはタロとジローが張り合っていたが、獣としての姿はさほど大きくなっていなかったので、簡単にギブアップしアカトカに乗ることとなった。


「ありがとな。アカトカ」

「気にしなくていいさ。普段アカリが世話になってるのだから」

「アカトカもでしょ?」


 やれやれといった様子でツッコミを入れるとアカリは近くを見回し出した。


「ここが王都なんですね」


 ティア学園に行った時に人が多い場所には慣れたのかアカリもアカトカもすっかり平気そうだ。


「ああ。城も立派だな」

「はい。こんなところに人が住んでるんだって思うと別世界って感じがしますね」


 デグリアス邸も十分に大きいが、別荘と考えれば現実的な大きさだった。

 だが、目の前にある王城は、明らかに世界遺産とかになりそうな迫力だ。


「人がいっぱい。ねえ、ルカラ。わたしも来てよかったのかな?」

「ダメ、なわけないだろ」

「へへ。そうだよね。でも……」

「だ、大丈夫だわん。あ、ご主人様。離れないでくださいわん」

「そうにゃ。離れちゃダメにゃ。別に怖いとかじゃないですにゃ」


 常に周囲をキョロキョロと見回して俺にしがみついている三人。

 王都並みに人が多いところは初めてなせいで、どうにも怖いらしく人目を引きつつもじっとしていた。

 迷子になられるよりはいいが、


「大丈夫だって。別に他の人も人なんだし安心していいから」


 俺の言葉に少しだけ俺を掴む力が緩んだ、気がした。


「全くだらしないのじゃ」

「ホントですね。あんまりくっついてちゃ、なかなか進めないですよね」

「いや、デレアーデ。お主はなぜ初めてでそこまで大丈夫なのじゃ?」

「ルカラくん以外は別に気にしても仕方ないじゃないですか」

「それはそうじゃが……」

「いや、そんなことないと思いますけど」


 ルミリアさんの指摘通りデレアーデさんも初めてのはずだが、なぜか大丈夫そうだ。


 しかしデレアーデさんは別の理由で人目を引いている。

 まあ、実際に絡んでくる人はいなかったが。


「さて、少しは落ち着いてきたか? 行くぞ?」


 周りの顔を見て、全員がいるのを確認してから俺は城の門へと向かった。




「ルカラよ。よくぞ参った」

「はい、国王陛下」


 準備ができているというのは本当なようで、ろくに待たされることもなく謁見。

 今、俺たちは王の前でひざまづいている。

 貴族の皆さんも少しずつ集まり始めている。

 まあ、認識している中ではだが、魔王は最大の脅威だったろうしな。そんな目の上のたんこぶがなくなったとなれば、少しくらい羽目を外したくもなるだろう。


「今日来てもらったのは他でもない。魔王を倒したことについてだ。ルカラ、そしてその仲間たちよ。よくぞ倒してくれた」

「当然のことをしたまでです」


「うむ。自らの力を決して過信せず、仲間と協力し敵に立ち向かう知恵と勇気。そして、今まで誰もなしえなかったことを達成する行動力。まことに素晴らしい限りである。この国の王として感謝してもしきれないほどだ。一部の感謝の気持ちとしてささやかではあるが祝宴を開く準備をさせてもらった。今日は存分に羽を伸ばしていってくれ」


「ありがとうございます」

「では、開演じゃ。ルカラよ。これを」

「え……」

「始まりの挨拶は勇者であるルカラに任せたぞ」

「はい」


 嬉しそうなみんなの顔が一様に見渡せる。

 王様を見るとなんだか大きな事を託すような表情でうなずかれた。


 急にグラスを渡されても困るのだが。

 それに、なんだか自分のことしか考えてなかったことに引け目を感じる。


 なんといってたかな?


「魔王を倒したルカラ・デグリアスです。魔王を倒しましたが、困難は今後も続くことでしょう。ですが、今日は羽を伸ばし楽しみましょう。乾杯!」

「「「「「かんぱーい!」」」」」


 そこかしこから声が聞こえ、楽しげな会話が聞こえてくる。グラスを打ち合わせる音。談笑が始まる。


 これでいいのかは知らないが、ゲームでもこんな感じだったはずだ。

 本当は魔王を討伐してシナリオ的にはもっと間がなく進むのだが、


「ラクにしてよいぞ。この度の祝宴の主役はルカラたちなのじゃからな。楽しんでいってくれ」

「はい」


 式典のようなものが終わるとみんな立ち上がった。

 そして、俺たちに徐々に人が近づいてくる。


 さて、仲間たちはキラキラとした目で俺を見てくるが、どうするかな。


「食べてきたらいいんじゃないか?」


 嬉しそうにするみんなは颯爽と歩き出そうとし、そして、俺たちに向けて誰かが話しかけようとしていた、その時、


「王よ。待ってくださいませんか!」


 今し方遅れてきた貴族の男のそんな声が会場中に響いた。


「本当にその者が魔王を倒したのでしょうか?」


――――――――――――――――――――

【あとがき】

読んでくださりありがとうございます!


新作を書きました。


「TSしたダンジョン配信者は無自覚で無双する〜かわいい見た目と超絶スキルで美少女をイレギュラーから救いバズりの嵐を生む〜」

https://kakuyomu.jp/works/16817330658986631665/episodes/16817330658988992298


よろしければ読んでみてください。


よろしくお願いします!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る