第52話 王様からの手紙

 郵便の人はすぐにどこかへ行ってしまったようだ。

 なんだったのだろうか。


 外からデグリアス邸にわざわざ何かを伝えてくることなんて今までなかったし、そんなイベントもないはず。

 そもそも主人公が魔王を倒してからルカラと因縁は無くなる訳だし、物語としての広がりはない。


 なんだか胸騒ぎがする。


「騒がしいですわん」

「何かの遊びですかにゃ」

「遊びではないだろうな」


 だが、何もないというにはやけにドタドタと大きな音を立てながら屋敷中を移動しているようだ。


 うちの使用人は冷静で優秀な人たちだと思っていたのだが、いつもの雰囲気とは似つかない。


 ルミリアさんやデレアーデさんが何かしてるのか?

 もしくはアカリの家族に何かあったとか……。


 アカトカが屋敷内でドラゴンの姿になったとかなら俺たちでも気づくはずだし。


「どうしますわん?」

「遊びじゃないならいいにゃ」

「そうだな。せっかく魔王も倒したんだし慌てることはないだろう」

「それじゃあ、ご主人様にしてもらってないことがあるですわん」

「そうだったにゃ!」


 何かを期待するような目で見てくる二人。


 ユイシャに帰ってくるなりキスされてから全員の距離感がじゃっかんおかしな気がしていた。

 だが、タロとジローはそのままみたいだ。


 さすがに俺でも何をしていなかったかはわかる。

 指摘されてちょっと申し訳ない気持ちになるが、急に女の子になりましたと言われたらやりにくくなるものだ。


「改めて、留守を守ってくれてありがとな。タロ、ジロー」

「くーん」

「ふにゃー」


 二人の頭に手を乗せてやると、気持ちよさそうな声を出しながら頭をこすりつけてくる。

 見た目が変わっても、タロもジローもそのままみたいだ。少し安心した。

 俺の手の感触は全く別なのだが、いたわってやるのは大事だからな。


「ルカラ様!」


 大きな声とともに勢いよくドアが開かれた。

 びっくりしたようにタロもジローも俺の背後に隠れてしまう。


 ノックもなく入ってきたのはツリーさん。

 慌てた様子で額に汗を浮かべている。手には何かを持っているみたいだ。

 俺たちを見ると一度咳払いして手に持った封筒のようなものを差し出してきた……え、何? 俺宛て?


「ツリーさん。これはなんですか?」

「中は確認していませんが、送り主は国王陛下のようです」

「「こくおー!」」


 凄そうなことしかわからないのか、なんのこっちゃという不思議そうな声が聞こえてくる。


 正直、国王と聞いてなんの話か大体見当がついてしまった。

 魔王を倒してストーリーは全て完結ではない。一段落だが、裏ボスがいるのだ。そして、その前に魔王を倒したことを表彰する祝宴が開かれるのだ。


 本来なら主人公となるアカリが倒し、アカリのもとに届くはずのものが俺が倒したことで俺に届いてしまったと。

 こんな予想をしておいて外れていたら恥ずかしいので、しっかりと封筒から手紙を取り出す。


『ルカラ・デグリアス殿

 此度の魔王討伐見事であった。……

 ……

 是非ともこの成果に関して表彰させてほしい。城まで来てくれれば準備はできている。

 ……』


 おおむね予想通りだったので読み流した。クニヒ・パハマというのは国王の名前だったし、文面もおおむね同じ。ストーリーが進んでいる。

 これが具体的にどこから王様に知れるのかよくわからないが、親から漏れたのだろうか。


 何にしても、どうやら魔王を倒したことを放置して、シナリオを進めないことで安心安全という計画は、世界のルール的なもので無理みたいだ。

 このまま完全クリアをしないとルカラが生きているという不安定な状態じゃいつ死んでもおかしくなさそうだ。

 さすがにルミリアさんたちに殺されることはないだろうが、裏ボスである邪神になら殺されそうだし。


「どんな内容でしたわん?」

「魔王を倒してくれてありがとう。褒めたいので城へ来てください。かな?」

「ふふんっ! ご主人の扱いとしては当然ですにゃ。ご主人の活躍は褒められるべきですにゃ。それじゃ早速」

「まあ待て」

「んにゃ?」


 関係者は全員来てくれとも書いてある。

 この家、魔王城からも王城からも遠いんだよな。


「二人は行きたいか?」

「「はい!」」


 当然とうなずいてくる。


「そもそもルカラ様は参加されるのですか?」

「断るわけにはいきませんしね。全員で行きますよ」


 王様の命令だし、なんとなくわかっていたことだしな。

 幸い関係者はこの屋敷周辺に全員いるし、準備して行くか。


「ツリーさん。伝達や支度をお任せできますか?」

「もちろんですとも、ルカラ様の晴れ舞台です」

「そうですかね」

「そうですとも!」


 そんな大層なもの、か。


――――――――――――――――――――

【あとがき】

読んでくださりありがとうございます!


新作を書きました。


「TSしたダンジョン配信者は無自覚で無双する〜かわいい見た目と超絶スキルで美少女をイレギュラーから救いバズりの嵐を生む〜」

https://kakuyomu.jp/works/16817330658986631665/episodes/16817330658988992298


よろしければ読んでみてください。


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