家族のかたち

深海の底

本編

 昔々あるところに、女性は一日の半分を寝て過ごし、男性は一日のもう半分の方を寝て過ごし、そのどちらにも当てはまらない人は、好きな時間に12時間眠る国がありました。


 そんな奇妙な具合でしたから、異性と恋をするのは大変です。


 どちらかがとりわけ早起きするか夜更かしするしか、会う方法はありませんし、そもそも好みの相手を見つけるのだって大変です。


 何しろ、大概の場合は寝顔だけで相手を判断しなければならないのですから!


 そういうわけで、国中では、寝相によってその人の性格を占う寝相占いが教養科目として学校で教えられていました。


 右を向いて眠る人は、几帳面。しっかりしているけれど、気難しいところがある。


 手を上に上げて眠る人は、とても社交的で人気者。友達としてはいいけれど、少し浮気性だから気をつけて、とか。


 こんなことを小さい頃から学ぶのですから、年頃にもなれば、みんな寝相占いのエキスパートです。


 この子はきっと性格がいいよ。


 あの人はダメね。大雑把すぎるわ。


 そんな風に異性の寝ている姿を見ては、同性同士で品評会を繰り広げるのが、恋愛をしたい若者達の楽しみなのでした。


 そんな過程を経て、異性と結ばれても、待っているのはすれ違いの日々です。


 愛のためにお互いが努力できればいいのですが、寝てばかりの相手に嫌気がさし、相手が寝ているうちに去ってしまう人も多いのでした。


 そして、あまりにもそうしたことが多いのを見て、待てよ、と気づく人たちが現れたのです。


 同性同士でもいいんじゃないか?


 同じ性別でも、魅力的な人はたくさんいるぞ?


 それはそうです!


 同性同士であれば、活動時間が一緒です。その中で知った相手の良いところや悪いところは、占いよりもずっと確かなものです。


 何より一緒に生活をしていけるというのは、素敵なことではありませんか?


 この事実にどんどん多くの人たちが気づいていきましたが、公言するのは憚られていました。


 なぜなら、子供が生まれなくなってしまうからです。


 子供が生まれなくなれば、ゆくゆくは王国が消滅してしまいます。


 そうした不都合を理解しつつも、性別に拘らず、幸せに暮らせる人と結婚しよう、という考えは若者を中心にどんどん広まっていきました。そして、それを実践する人達も、益々増えてきました。


 そんな状況を見て怒ったのが、頭が固いと有名な右大臣です。


 右大臣は官邸から出てきたところを熱心な新聞記者達に囲まれ、若者達の間のムーブメントをどう思うか、と質問されると、長い口髭を撫でながら、真っ赤な顔をしてこう言いました。


「決してならん!赤ちゃんは作るべきなのだ!」


 しかし、この右大臣の発言は見当違いだったのです。


 実は王国には、悲しいことに、保護者のいない赤ちゃんや子供達が既にたくさんいましたし、そうした子供達は、毎年一定数生まれてきているのです。


 これは、寝相占いやら生活時間の差やら、幾多の困難を乗り越えてやっと会えた喜びに呑まれてしまった男女が、ポンっと勢いで赤ちゃんを作ってしまい、別れることになった時、どちら側も引き取れないという事態が少なからずあったからです。


 そこで、右大臣と正反対の性格である左大臣は、思いつきました。


 同性のカップルで、子を欲しがっている人達に、そうした子の親になってもらえないだろうか、と。


 最初、この左大臣のアイディアには、強烈なバッシングがおきました。


 親子は、血の繋がりが大事なんだ!といった具合にです。


 こうした反対派には、あの右大臣も含まれていました。


 これには、左大臣も困りました。


 確かに、血の繋がりは大事だろうが、それが全てなのか。


 答えに困った左大臣は、新しい提案をしました。


 養子を取る場合は、ごく少量でいいので、血の儀式を行うこと。


 例えばお母さん1、お母さん2、赤ちゃんの指に小さな切り傷を作って、その傷跡を三人で当てあいっこするのです。


 赤ちゃんがナイフを怖がってピーピー泣いたら、爪楊枝でぷちっと刺すのでも構いません。


 とにかく、ちょっとでも交換できる血があればいいのです。


 血の儀式はこれで完成です。

 

 あとは、一緒に暮らしていくだけ。


 この左大臣の提案には、多くの人が懐疑的でしたが、養子を希望するカップル達はこの血の儀式を経ることで、正式な家族として認められることになったのです。


 この大規模な社会実験は、驚くほどうまくいき、同性カップルも養子も、異性カップル・実子と変わらないくらい、一般的になっていきました。


 国民はあまりにうまくいったことに驚きを隠せませんでしたが、次第に驚きにも値しないような事実として、受け止めていきました。


 共に過ごす時間の力は偉大なのだ、と。


<終わり>

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家族のかたち 深海の底 @shinkai-no-soko

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