第3話 沼った勇者

「はあはあ……はあ~。夢か?」


 俺は、王城で寝ていたみたいだ。

 つうか、なんていう悪夢だよ。


 いや、正夢にならないとも限らない。

 もしかして今のスキルの組み合わせで、未来が視えた?


 ここで、ドアが開き、メイドが入って来た。

 着替えをさせられる。

 一人で着替えられると言っても、聞いて貰えない。もう、貴族扱い扱いみたいだ。

 異界の勇者というのは、それほど優遇されるんだな。


「……本日は、女神国から来客があります。ご同席なさいますか? お知り合いかもしれませんし。皇帝陛下より、お伺いが来ております」


 来客? 女神国?

 最悪、異界の勇者の内、誰かが来るのか? ……アカリさん?

 夢は……、今日の俺を暗示していた? 予知夢?


「今日は、一日この部屋で過ごします。女神国には、俺の存在を知らせないでください」


「承知いたしました。皇帝陛下には、そうお伝えしておきます」


 メイドたちが出て行った。

 入れ替えで、リナリー様が、部屋に入って来る。

 異性と、部屋で二人きりだ。

 リナリー様は、椅子には座らずにベッドに腰かけた。

 俺は……、椅子に座る。それと、朝食だけど、胃が痛いのでお茶だけとする。


「ねえ? 女神国の人と会わないの? 同郷の人かもしれないんだよ?」


「もし、俺を女神国に連れ戻す使者だったら、リナリー様はどうなされますか?」


「うん? 渡さないよ~」


「そうなると、戦争になりますね。異界の勇者たちは、強いですよ……。最悪、この帝国を蹂躙するかも」


「ふ~ん。ウォーカー君は、モテモテだったんだね~。やっぱり、そこまでの人材だったんだ~」


「語弊がありますね。女神が、多大な労力を費やして召喚した勇者の一人が、帝国にいると分かれば、連れ戻すと思いませんか?」


「そうだね~。帝国と女神国は、少し関係が悪いしね~」


 関係? そうなんだ?


「異界の勇者が、第五王女の護衛騎士になったと知られたら、取り返しにも来そうだよね~」


「俺は、リナリー様の護衛騎士にはなりませんよ」


「むう~」


 口を尖らせて、不満を言う、リナリー様。

 正直可愛いけど、怖いんですよ。俺は、静かに暮らしたい。

 ここで、再度扉が開いた。皇帝陛下が部屋に入って来たのだ。


「邪魔をするぞ。というか、行為の最中ではないのだな……」


「お兄さま? もう嫌だわ~、妹の痴態を見に来たのですか~? 悪趣味ですよ~」


 なんつう会話をする兄弟だよ。これが、貴族なのか?

 異世界だな~。


 椅子に皇帝陛下が座った。


「それも一興と思っただけだ。……まだ堕とせていないのか? 女神が怪しんで、今日乗り込んで来るのだぞ?」


「思いの外強情でね~。自分の魅力がないのか……、自信を失いそうです」


 冷汗が止まらない。

 リナリー様は、綺麗ですよ。綺麗過ぎで、手を出すのが躊躇われます。

 スキンシップが多過ぎて、たまに理性が飛びそうになるんですよ。

 リスクを考えて、理性を保っている俺を自分で賞賛したい。


「ごほん。文化の違いですよ。一夫一婦制が俺の常識なので。帝国で一生暮らす覚悟を持てなければ、女性を娶る気はないです」


 一人の男性が、女性を十人娶ったら、一人の女性が、男性を十人相手にしなければならない。外国の宗教の話だったと思う。ハーレムは……、前世でも少し残っていたかな?


「聞いた事がないな~」


「この国の最高の宝だというのにな……。手に取らぬ者がおるとは……。異界の勇者と言うのは、理解できぬ」


 俺も、皇帝陛下が理解できませんって。王族を……か。

 貴族の文化というか、異世界の文化をだな。


「女神国は、何しに来るのですか?」


 話題を変えてみる。


「ウォーカーの気配でも感じたのかもしれぬ。迷宮ダンジョンでの活躍の話やもしれぬな。新層の情報不明の魔物を倒したのだし、怪しまれているのは確かだ。優秀な人材がいれば、高額で引き抜く。何処の国でも行っていることだ」


 貧血が起きそうだ。俺は、一般市民に溶け込んで生活したいんだけど。

 俺の趣味は、暗躍なんだ。


「どうしようかな~。もう、王族に入れちゃったって事にしますか?」


「それが、一番手っ取り早い。リナリーも何度も異性の部屋に足を運んでいるのだし……、誰も疑いはしまい。衛兵と貴族たちは、噂しているぞ? 孕んだというのは、どうだ?」


 ……吐血しそうだ。


「それと、ウォーカー君の"昔の女"は、どうしますか?」


「ふむ……。今日来る可能性もあるな……。ふっ……、場合により、引き抜くか」


「言い方! それと、そんな人いませんって!」


 悪い笑みを浮かべる兄妹だな~。


「ごほん! ……俺の存在を知ったからって、帝国に来る異界の勇者はいませんよ?」


 俺は、異界の勇者の中で、最下位の地位だった。

 二人の視線が、俺を突き刺して来る。


「予は、それでも構わんが……。ウォーカーが、帝国の王族に入ったと伝えるだけだ。だが、そうなると女神国の意図が読めぬな」


「う~ん、私の勘だと、ウォーカー君に思いを寄せている女性がいそうなんだけどな~。それに私は、二番目でも平気だよ? 引き抜いて貰って、構わないんだけどな~」


 ダメだ。話が通じない。いや、俺の話を聞いてよ。

 俺の自由は、何処へやらだ。

 今日は……、乗り切れるのかな?



 何か、沼に嵌って抜け出せないようだ……。

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俺だけ見えるパーティーレベル~アナザーストーリー:王族からの逃亡~ 信仙夜祭 @tomi1070

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