実家
西しまこ
第1話
久しぶりに実家に帰ったら、物で溢れかえっていた。
「すみれ、おかえり」
「ただいま。お母さん、あたし、すみれじゃないよ。波留だよ」
「うんうん」
母に導かれて、居間に行く。
つけっぱなしのテレビ、もう春だというのに布団がかけられたままのこたつ、机の上は何日分かの食器がそのまま置かれ、こたつの周りは新聞や雑誌やお菓子やティッシュの箱や、とにかくありとあらゆるものが置かれていた、
「お母さん、ちょっと片付けたら?」
「うん、そうだねえ」と、言いながら、母はこたつに入った。掃除機かけたのは、いつなんだろう? 埃っぽい。
わたしは台所へ行った。
ありとあらゆるものがそこにあるような気がした。きれいなコップは一つもないように思えた。いつのものが分からない鍋。蓋を開けると、お味噌汁に白いカビが生えていた。
「お母さん、台所片づけていい?」
「うん」
テレビの音量が大きくてよく聞こえないし、母もわたしの言葉に「うん」と言ったのか分からないけれど、とりあえず洗おうと思う。
スポンジを見たらもうへたっていて、捨てた方がいいような状態だった。引き出しをあさると新しいスポンジがあったので、古いものを捨て新しいもの使うことにする。幸い洗剤はあった。
どこから手をつけたらいいか分からないような状態だったけれど、とにかく少しずつ洗っていく。洗いながら、新しいふきんを探す――見当たらない。そうだ。そう言えば昔から「自然乾燥すればいいから、ふきんは使わない」というひとだった。仕方がないので、きれいそうなタオルを持ってきて、それで拭く。拭きながらしまっていくのだけれど、とにかく食器も多すぎて、棚に収まりきらない。
「お母さん、食器、少し片づけたら?」
返事はない。見ると、テレビに釘付けだった。
テレビって、お母さんくらいのひとはみんな好きだけど……なんか、老化を加速させる気がする。肉体的にも精神的にも。
流れてくる映像と音声を、ただ受け入れていくだけ。
返事をしない母に無理に問いかけることはせず、空いた段ボールに使わなさそうな食器をしまっていく。母は物に執着があるから、うっかり捨てるとあとで大変なことになるかもしれない。
「お母さん、ここに食器しまったよ」
「ありがとう、すみれ」
お母さん、すみれって誰なの、ほんと。
わたしは今度は名前を訂正したりせず、居間のごみを片付け始めた。
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実家 西しまこ @nishi-shima
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