第2話 迷宮

 これからの動きについて相談しようと書斎を訪れると木窓の外を眺めて黄昏ている父上が居た。


「なにやってるのですか……父上」

「ああー、深緑丸しんりょくまるか。どうしたのだ?」

「どうしたのだではありません! 細川との戦があるのにそんな悠長にボケっとしてていいのですか!」

「しかし……戦は雪解け後だから早くても3月下旬だろ、だから今やることないしな」


 確かにそうなのだ。

 高々500石程度の田舎領主の仕事など数時間で終わる。

 傭兵を雇おうにも道元寺家の玄関は敵の領地であるから不可能だし、10月初旬のこの季節は雪も積もり始めており、農作業もできない。

 となると家事になるのだが父上には無理だ。前に料理を手伝おうとして食材を切っていたら、まな板まで切ってしまって母上に怒られていたからな。あの時の母上は怖かった、俺も気を付けよう。


 だが、これは好機かもしれない。

 武辺一辺倒な父上だけあって武は相当の者だ。それならばこれを父上にやってもらうのはありだろう。

 

 「では、父上に手伝ってほしいことがあるのですが……」



 そう言って連れて行くのは屋敷から出て右に曲がった森との突き当り。村の西側だ。屋敷の前方には村家が立ち並び、その周りを簡素な柵で覆われている。


「ん、こんな洞窟あったか?」

 

 父上が首を傾げるのも気持ちもわかる。昨日までは確実に存在していなかったものだしね。


「昨日散歩してたら見つけたんだ」

「ふーん。取り敢えず入ってみるが、安全が確認できるまで深緑丸は外で待っているんだぞ」


 元々そのつもりだったので元気よく返事をして、大人しく待つことにする。


 その間に俺のについて改めて考えよう。


「鑑定」


 ―――――――

 名前:道元寺深緑丸

 年齢:10歳

 能力「鑑定 lv.1」「迷宮領主lv.1」

 —―———――


 この洞窟が突然できていたから何となくわかっていたけど、昨日の夢は本当だったのか。

 

 昨日夢の中で俺は地球で過ごしていたある男の一生を観た、というより体験したという方が近いかもしれない。その場の雰囲気、視線などを肌で感じて男が得た知識もすべて記憶している。

 この地球では異世界転生が流行っているらしく、俺もその一人だろう。だけど俺の中に地球に生きた人格が存在しない。

 理由は知らないがその方が都合がいい、この人物とは反りが合わなそうだ。こいつは根っからのインドア派で俺はどっちかと言うとアウトドアだしな。

 地球の文明は俺らの何倍も進んでいる。我が道元寺家にも早速導入できそうな方策が何個かある。後で、執事のセバスと導入前の試験をしよう。


 そして朝起きたら、まるで生まれつき備わっていたかのようにごく自然に能力を使用ができた。

 子供の頃に稀に特別な能力に目覚める者がいると父上から聞いたことがある。俺もその1人だったと言うわけだ。

 

 まだ他に、夢で重要な人に出会った気もするがよく思い出せない。こういうのはふと思い出すことがあるので、それにかけようと思う。余り一つのことで悩むのはよろしくないのだ。


 そうこうしていると洞窟から真っ赤な怪物が出てきた。

 思わず叫びそうになるが、よくよく見ると父上だ。背中に見慣れた大剣を背負っている。

 父上もこちらに気付いたようだ。


「おお深緑丸! よくやったぞ!! あれは迷宮だ!」

「な、ナントー!?」


 俺は迫真の演技で驚きの真似をするが、不味った。棒読みになってしまった。


「ガハハハッ。南東にしか聞こえんぞ。まあ、父さんも迷宮だと判明した時は驚愕を通り越していたからその気持ちも分らんでもないがな」


 よかった。どうやら、驚きすぎと勘違いしてくれたようだ。


「しっかし、幸運なこともあったものだ。迷宮など父さんも一回しか挑戦したことないが、一回だけでも分かる。迷宮は正しく運用すれば無限に儲かる」


そこで言葉を区切ると父上は顔を近づけて


「父さん以外にこの事を知っているものはおるか?」


 いつも以上に真剣な眼差しで訊いてきた。

 父上も迷宮のが持つ危険性について分かっているのだろう。


 俺は「誰にも言っていない」と伝えて、父上と一緒に屋敷に戻った。

 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

和風ファンタジー~深山から望む天下統一~スキル『迷宮領主』はチートだった 狛犬さん家 @akrkomainu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る