チビ君

お好み焼きごはん

1


僕は「絶対縮小ライト」を発明した。


我ながら大変素晴らしい発明品だ。

光を当てた物は、みるみるうちに小さくなる。


僕はしがない中学生。

数学が得意で、算数がダメ。英語は大嫌い。


だから、ライトをイジメっ子に当てた。


彼はみるみるうちに小さくなって、虫眼鏡で見ないと見えないくらい小さくなった。


僕は彼を、そっとマッチ箱に入れてあげる。


そうだ。

今日から彼をチビ君、と呼ぶことにしよう。


僕はチビ君と共同生活を始めることにした。





チビ君のご飯のではない。

上手いこと言っちゃった。


身体が小さいから料理は渡せない。

だけど人間だから栄養は必要だ。


僕は悩んだ末、とりあえず枝豆を一粒あげることにした。

美味しいし、栄養満点。


パカッと蓋を開ける。

チビ君はピョンピョン飛び跳ねて、僕にアピールしてきた。


何か言ってるように思えたが、聞こえないので無いも同然だ。

きっと、「ゴミクズ」とか言ってるんだろう。いつも言ってきてたし。


僕は仏の心で枝豆を突っ込んだ。

……一人でこんなに食べ切れるのだろうか。


ちょっと心配になったが、まあ、食べきれなかったら残していいよ。

僕は優しいからね。昔の君みたいに。


僕はそっとマッチ箱を閉じて、引き出しにしまった。


そろそろ僕もご飯を食べなくちゃならない。

冷蔵庫に何かあったかな。

たぶん、薄いハムくらいしかない気がする。






学校ではチビ君の話題で持ち切りだった。

もちろん、僕が持ってるチビ君ではなくて、大きかった頃のチビ君。


行方不明だと担任が言うと、クラスにざわめきが起こった。

何人かがチラチラ僕を見て、僕は無視して空を見る。


窓越しながら綺麗な空だ。

青く、雄大。白い雲が青空の邪魔をしているのも、絵画の一つみたいだった。物語性の高い宗教画みたいな。


窓に反射する姿で、一人と目が合う。

ギロリと僕を睨めつける女子に、僕は会釈をしてあげた。


ガタリ、と椅子を蹴飛ばしたような音を立てて、女子が立ち上がった。

僕はそっちを見た。


言うには、僕が犯人だと決めつけているようだ。


失礼な。

僕は違います!と声を荒らげた。


自分の考えだけで僕を犯人に仕立てあげようとするなんて、なんて失礼な子なんだろう!


流石はチビ君の仲間なだけはある。


証拠はあるのか!と叫ぶと、女子は言葉に詰まって、そしてもう一度、お前しかいないだろ!と言われた。


担任に止められるまで、僕らの論争は続いた。


どっちが正しいかなんて、一目瞭然。

いや一聞瞭然だ。


確実な証拠もない女子は怒られて、僕は言い返すなと言われた。


ふふん、僕の勝ちだ。


その日帰ると、僕はチビ君にこの事を話してあげた。


チビ君は飛び上がって、また甲高くて小さな声で何かを言う。

聞こえないから意味が無いのに。


僕は聞こえない言葉は意味が無いんだよ、とチビ君に教えてあげた。


僕の教訓だ。

どんなに助けを上げても、聞こえないふりをされると、どうしようもないんだよ。

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