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今日はクラスの女子に声をかけられた。
昨日の僕を怒鳴ってきた、昨日の女子とは違う子だ。
僕がイジメられてたのを無視しててゴメン、だってさ。
本当はもっと長ったるしかったけど、要約したって意味は変わらない。
僕はニッコリ笑って、ありがとうと言ってあげた。
感謝は人間の基本だからね。
感謝と謝罪が人を人たらしめるのだ。なんちゃって。
ん?その理論だと、チビ君は人じゃ無いなぁ。
その出来事以外だと、特に何も変わらなかったように思える。
クラスの空気は、チビ君が居ないことで大きく変わったが、みんな中々過ごしやすそうだ。
クラスが変化しても、僕はいつも通り、窓辺の席で本を読んでいた。
非凡な僕が読む本だから、大層むつかしく、そして重大な何かを語る物だと思うだろう。
そんなキミ達に、僕は声を大にして言える。
そんなの毎日読んでたら、むしろ馬鹿だ!ってね
こういう時は易しい物語を読むのが良い。
いいや、読むべきだ。
その点、児童書は良い。
面白いからね。
僕が一枚一枚しかと眺めて読んで、捲っていくと、場面は僕の中でのクライマックスに突入した。
崖に落ちかけた主人公を、仲の悪かったキャラ──僕はガキ大将って呼んでる──が助けるシーン。
ここが、僕は本当に好きなんだ。
意地を張り合ってツンケンしていたお互いの関係がゆっくり解れて、最後には握手する。
照れ臭いまでの友情劇がそこにはあった。
僕は思わず涙ぐんで、涙を拭く。
心から感動した!読むの何度目だろう?百回は読んだね。
本を閉じ、時計に目を向ける。
途端、チャイムの音が鳴った。
その後の授業は滞りなく進んだ。
あー……いや、一つ特筆すべき点があるな。
先生が授業中に泣いた。
チビ君がよっぽど心配らしい。
きっと見つかるから〜うえーんびえびえと言っていた。
僕としては眉唾だ。
この先生、結構性格悪いんだよな。
気に食わない生徒に対してアタるし、自分を良い先生だと酔っている奴特有の押しつけがましさがある。
あ、でも、お気に入りの生徒にとっては良い先生かも。
チビ君とかお気に入り筆頭だったし。
きっとチビ君を使って良い人になりたいんだな。うん、きっとそうだ。
授業が終わって、クラスが少し賑やかになる。
主にさっきの先生の悪口だが……僕はそれが不快だった。
本当に、とっても不快だった。
あんなにチビ君を心配してくれているのに、なんで、そんなことが言えるのだろう。
僕は己の義憤を感じながら、また本を開いた。
また僕の中でのクライマックスが始まる。
チビ君が行方不明になったと告げられてから、早一週間が立った。
僕は依然として秘密道具作りを続けているし、みんなは勉強と遊びを頑張っている。
一つ変わったことといえば、クラスメイトからの対応だろうか。
みんな態度を軟化させて、よく喋りかけてくるようになった。
どうやら、僕がチビ君を想う気持ちが、みんなの心をアツくしたらしい。
どことなく嬉しい思いだ。
僕のチビ君を心配する心が、他人に認められたような気がする。
そういえば、近いうちに修学旅行がある。
この前謝ってきた女子のグループの中に、僕は入れてもらえるそうだ。
楽しみだなぁ
旅行は良いものだ。
綺麗な景色や多種多様な人々は良い経験になる。
僕のインスピレーション、刺激しまくりだよ。
いやぁ、にしても京都かぁ……
特に観光名所として有名な所だから、念入りに準備しないとな。
チビ君も連れて行ってあげよう。
僕がクラスに受け入れられた代わりに……って言ったら何だけど
僕を虐めていたいじめっ子達は、クラス……どころか学校での居場所が無くなったらしかった。
チビ君の威光が無いと何も出来なかったんだろうな、と思う。
まぁ、チビ君は強くてカリスマ性あってカッコイイからね。
虎の威を借る狐したくなるのも分かるよ。
みんな学校来なくなった。
だけど例外はいる。
僕に絡んできたあの子。
最初に僕に怒鳴ってきた子だよ。
チビ君のことが好きなあの女子だけは、学校に来ている。偶にね。
なんで僕がその子の話をしたかっていうと……今日、その子に話しかけられたんだ!
チビ君探しを手伝って欲しいんだって!
僕は感動した。
そんなにチビ君を想っているのかと思った。
あの女の子はチビ君の事が好きだ。
好きな人がいなくなってしまうなんて、どれだけ悲しいことなのだろう。
まぁ、僕の方がチビ君のこと好きだろうけど……
感動すると同時に、僕は嫌な気持ちになった。
チビ君は僕の物だ。
事実そうだ。僕が今所持していて、いわゆるペット。
そんな物を想われてるなんて、誰だって嫌だろう。
複雑な気持ちだったが、女の子を憐れむ気持ちの方が強い。
優しい僕は、チビ君探しを手伝うことにした。
オッケーすると、女の子はパッと顔を明るくさせて、顔を緊張から解放させた。
何処に行けばいいの?と問いかけた。
女の子はチビ君の行きそうな所を片っ端から探す、とのこと。
うーん、結構地道そうだね。
僕達は色々な所に行くことになって、繁華街とかに足を運んだ。
情報、全く得られなかったんだけどさ。
そりゃそうだよね……
チビ君は僕の家にいるもん。
でも、なんというか、僕はチビ君を見つけてあげたかった。
あの女の子を手伝いたい!って訳じゃない。
僕はあの子嫌いだからね。
僕がチビ君を大切に思ってるからだ。
日常を取り戻させてあげたい!
家に帰って、僕は靴を脱いで寝転がった。
歩き回って疲れた。
僕はインドア派の賢いクリエイターなんだからさ、無闇矢鱈に動かさないで欲しいよ。もう。
流石に今日は風呂に入る。
まだ三日入ってないだけだけど、外歩きすぎた……雑菌が混ざると大変だからね。
チビ君、免疫無さそうだし。
シャワーは冷たい。
暖かいと傷口が痛む気がするから、キリキリしてる冷水の方が好き。
僕はアザをたくさん持っているからさ。
消え始めているけど、まだ、黒い。
青さを増して、薄くなっていた。
僕はお風呂をあがって身体中を拭いて、部屋に戻った。
乾燥した顔が、パキって音を立てて崩れていきそう。
極力柔らかい声で、声を張り上げて、僕は話しかけた。
マッチ箱の中で、チビ君は座り込んで静かにしていた。
小さすぎて、どうなってるのか分かりずらい。
僕は今日あったことを喋る。
君に恋する女の子が、君を探していたよ。僕に手伝って欲しいって言われたから、手伝うことにしたんだ。
チビ君が顔を上げたような気がした。
あれから何日も立ってしまった。
チビ君の行方は一向に掴めない。
そんな現状に女の子は憔悴しているようだった。
チビ君は人望がなかったんだね。
誰も君の話をしていなかったよ。
女の子は呟くように、もう無理かもね、と言った。
僕は怒鳴りそうになって、止める。
あまりにも心が疲れた人の顔だったから、流石に何も言えなかったんだ。
夜。
静かで冷たくて、世界が真っ暗になったみたい。
座り込む女の子に、僕は飲み物を渡した。
自販機で買ったミルクティーは肌が焼けるように熱くって、肌から離れると途端に涼しい。
何をすれば良いのだろう。
うーんうーん、と悩んでも、答えなんて出ない。
諦めろと言うべきなのかも。
でも、僕だったら諦めたくないし、この子に諦めて欲しくない気もする。
頑張ってる人が報われないのは、あまりにも悲しい。
最初、僕はなるべく優しくなるように話そうとした。
言葉が僕の口から出た時、風に乗って消えそうになったから、次に僕はもっと強く話そうとする。
でも厳しそうだと、きっと、傷つけてしまうだろう。
それは面倒臭い。
もっともっと選んで、僕はやっと、一言目を喋った。
僕は言った。
君は頑張っているけど、チビ君が見つかりたいと願っていない限り、無駄なのかもしれない。
チビ君は、僕を虐めていたし、迷惑をたくさんかけてはいた。
でも、居なくなって良い理由なんて無いと思う。
でもでも、それで君がダメになってもいけないとも思う。
そう言った。
もっともっと喋ったと思うけど、あまり覚えていない。
僕は女の子に連れられて、チビ君のお家に行った。
へえ、弟がいたんだ。
僕は初めて、チビ君の弟を見た。
小さくて、ひどく小生意気。
それで、信じられないようなことを言われた。
弟は女の子を殴って、暴言を吐いた。
信じられないことだ。
要約すると、弟は女の子を見下していて、死んでしまえば良いと思っているようだ。
僕はびっくりして、思った。
やってはいけないことをしているから、僕は正義感を持って止める。具体的には殴ってやった。
何か言った気がするが、まぁ、良いか。どうでも良いし。
その日はそれでおしまい。
僕は伸びをして、ベッドに寝転がった。
今日も天気が良くて、何も無い、良い1日だったな。
今日学校に行ったら、女の子に話しかけられた。
女の子は妙にこざっぱりしていていて、僕は気になる。
何が変わったんだ?と思うと、女の子は笑って、髪を切ったのだと言う。
よく見ると、いつもしているメイクというものをしていない。
すっぴんってやつだね。
変化があった女の子にクラスの皆は気になっていた様子だったけど、誰も話しかけなかった。
放課後に呼び出されて、一緒に帰った。
たわいの無い話をした。
駅前にドーナツ屋さんが出来たらしい。
教えてもらったから、僕はお返しに、二駅隣のお風呂屋さんの湯質が良いって話をしてあげた。
少し沈黙した時があったんだけど、その時に、女の子はポツポツ語り出したから、僕は聞いてあげる。
チビ君は女の子に酷いことをしていたらしい。
弟の行動は、チビ君を真似した結果だったようだ。
頭おかしくなってたのかも〜でも、アンタのおかげで目が覚めたよ〜なんて笑うので、僕は嬉しくなる。
なんだこの子、チビ君のことが好きな訳じゃなかったんだ。
なんなら、チビ君のこと嫌いだったんだ。
何をされてたのかは語らなかったけど、とっても清々しい雰囲気で、女の子は僕の背中を叩く。
力、すごい強かった。
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